青木崇高:捕虜第1号演じ「実際にあったんだと感じてほしい」 “真珠湾からの帰還”

ドラマ「真珠湾からの帰還~軍神と捕虜第一号~」について語った青木崇高さん
1 / 1
ドラマ「真珠湾からの帰還~軍神と捕虜第一号~」について語った青木崇高さん

 俳優の青木崇高さんが70年前に小型潜水艇「甲標的」で真珠湾攻撃に出撃し、太平洋戦争の捕虜第1号となった故酒巻和男さんを演じたNHKの土曜ドラマスペシャル「真珠湾からの帰還~軍神と捕虜第一号~」(名古屋放送局制作)が10日午後9時、放送される。8日に行われた完成試写会見で「酒巻さんに感謝があります。どんな状況でも強く生きていこうとされた精神、生きていこうという力は何よりも尊いものだと思います」と涙を見せた青木さんに話を聞いた。(毎日新聞デジタル)

あなたにオススメ

 ドラマは、実話を基に自らの運命に向き合い、生きていこうとする男の姿を描いた。1941(昭和16)年、「甲標的」の搭乗員に選ばれた酒巻和男少尉(青木さん)は、愛媛県の佐田岬半島の三机で訓練に励んでいた。その年の12月8日、酒巻ら10人は5艇の「甲標的」に乗り込み、真珠湾攻撃に参加するが、9人が戦死。大本営は戦死者9人を「九軍神」とたたえ、ただ一人生き残って太平洋戦争での捕虜第1号となった酒巻の存在を隠そうとする。米国内で捕虜生活を続ける酒巻は、なぜ自分だけが生き残ったのか、生かされた自分は何をすべきなのかを考えていく……という物語。映画「金融腐蝕列島・呪縛」「ローレライ」などの鈴木智さんが脚本を手がけた。

 青木さんは会見で涙を見せた理由を「作品の余韻だと思います。本を読んでイメージすること、自分が酒巻さんとして作品に関わること、作品を見ることは違う。(見るという立場で)作品を見つめ直すことができ、(酒巻さんは)改めて激動の人生を送られている方だなと思いました。精神的に大変な局面を迎えられて、それでもちゃんと生きていかれたんだなと感じました」と話した。

 撮影は約1か月、小豆島や名古屋市などで行われた。朝から晩まで撮影が続く厳しいスケジュールだったというが、青木さんは「走りきるしかないと思いました。大変なことがよかったと思う」と振り返る。「僕たちは終戦を知っている。だけど捕虜になった人々は遠い異国の敵国でいつ自分が殺されるのか、想像を絶するほどの絶望的なことだったと思う。捕虜として辱めを受けるなら死を選ぶというのがまっとうな考えだった中、生きることに(考えを)転換する力は、それこそが生きる力なのだと思う。そこだと信じて自分を厳しく律していかれたというのはすごいことだと思います」と語り、「現場が大変であればあるほど、酒巻さんはもっとつらかったんだと。撮影のしんどさなんかで負けてちゃいけない、ちゃんと伝えなきゃいけないと思いました」と話した。

 青木さんは、ドラマで描かれた時代について「70年前は僕らの祖父母が生きていた時代。そんなちょっと前の時代に今と生きるという価値観が全く違っていたのはすごいことだと思う」という。戦争を描いた作品が“時代劇”のように物語としてとらえられていくことに危機感を感じており、「自分の生活と全く違う(関係がない)と思ってはいけない。そういう歴史があって多くの犠牲があって、今日(こんにち)がある。だからこそ今日(こんにち)の価値観が変な方向に向いてはいけないし、特に僕らの世代、今後の社会を作っていく人間は、(現在の生活が)偶然の上に成り立っているわけではなく、築き上げられたものだということを感じなくてはいけない」と訴えた。

 そして自分と同世代の若者に「人によっては難しいと感じる人もいるかもしれない。難しくてもいい。そういうことが実際にあったんだ、自分たちの祖父母がそういう状況の中にいたんだということを感覚として感じなくてはいけない」とメッセージを送った。また「大震災のように、自分たちの生き甲斐がもろく失われることがある。形は違うけれど先人が、生きるということを問うたこういう作品は大切だと思います。戦争はあっちゃいけないけど、忘れちゃいけない」と話している。

 ドラマ「真珠湾からの帰還~軍神と捕虜第一号~」は総合テレビで10日午後9時~10時半。甲標的攻撃隊のリーダー岩佐直治役で平岳大さん、甲標的の訓練生たちが宿泊した岩宮旅館の次女・岩宮緑役で蓮佛美沙子さん、酒巻が捕虜収容所で長谷川三等兵曹役で金子貴俊さん、山本五十六役で永島俊行さんが出演する。

 ◇プロフィル◇

 あおき・むねたか。80年3月14日生まれ。大阪府出身。02年に映画「マッスルヒート」でデビュー。07年のNHK連続テレビ小説「ちりとてちん」でヒロインの夫となる落語家・徒然亭草々を演じ、10年の大河ドラマ「龍馬伝」で後藤象二郎を演じた。11年は出演したコメディー「婚前特急」(前田弘二監督)、元記者・川本三郎さんのノンフィクションを原作にした「マイ・バック・ページ」(山下敦弘監督)、3D時代劇「一命」(三池崇史監督)が公開された。12年は人気マンガを実写映画化した「るろうに剣心」(大友啓史監督)の公開が控えている。絵画と旅が趣味で、自身のブログ「あおきむねたかの新・堕落論」をイラストと手書き文字でつづっている。

テレビ 最新記事