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綾辻行人さん:「館」最新作は原点回帰の純粋な謎解きミステリー 「奇面館の殺人」刊行

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最新刊「奇面館の殺人」について語ってくれたミステリー作家の綾辻行人さん

 推理作家・綾辻行人さんの最新作「奇面館の殺人」(講談社)が1月に発売された。東京の奥地に建てられた洋館「奇面館」で起こった殺人事件を、名探偵・鹿谷門実(ししや・かどみ)が解決していく本格ミステリー小説で、綾辻さんが手掛ける「館」シリーズの9作目に当たる。過去には幻想的な部分やホラー色が強い作品など幅広く展開してきたが、今回はストレートな本格推理小説で原点回帰を目指したという。その理由や執筆の苦労、次回作などについて綾辻さんに話を聞いた。(毎日新聞デジタル)

 綾辻さんの代表的な作品といえる「館」シリーズは、87年に刊行されたデビュー作「十角館の殺人」から続いており、建築士の故・中村青司が日本各地に建てた変わった作りや仕掛けを施している“館”を舞台に、そこで起こる殺人事件に探偵が挑んでいく本格ミステリー小説だ。第5作の「時計館の殺人」は、92年の第45回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞した。

 本作の舞台は東京の奥地に立つ「奇面館」。数々の仮面が並ぶその館の主・影山逸史によって招かれた6人の男性たち。館に伝わる奇妙な仮面をかぶり、行われたとある“集い”の後、凄惨(せいさん)な殺人事件が発生する。季節外れの大雪で孤立した館。残された招待客たちは事件の謎を解決しようと試みるが……というストーリー。登場人物が仮面をかぶったまま物語が進行するという、異様なシチュエーションの中、事件の謎、そして館の謎に探偵・鹿谷が迫っていく。

 作品の構想は、90年代の半ばにはもうあったと綾辻さん。「トリックの部分を考え付いたのは10年と割と最近。シチュエーションはずっと持っていたけど、中にどういう事件を入れて、どのように仕掛けを施そうか、ミステリーとしてどうプロットを作っていこうかなどに関しては、最近、思いついたというか、ひねり出した感じです」と語り、書き上げたときは「ちゃんとできてよかったって(笑い)」と胸をなで下ろしたという。「これ、はたして面白い小説になるのかなという不安が強くて。ミステリーを書く時は、多かれ少なかれそういう不自由感があるんですけど、今回は特にそれが厳しかった。技巧的なことが苦労しましたね」と振り返る。

 苦労を乗り越え書き上げた本作は、下界から孤立した“吹雪の山荘”的なシチュエーション(=クローズド・サークル)で殺人事件が起こるという、いわゆる“王道”の本格ミステリーに仕上がった。「これだけ“ベタ”なことをするのは久しぶりですね」と笑みを浮かべる綾辻さんは、「混じりけのなるべくない単なる謎解き小説というか、人間描写とか心理とか、怪奇幻想趣味とか、そっちの比重を乗せない“からり”としたパズラー(推理小説)を書こうと思った」と振り返り、「ここらで書いておきたいという自分のキャリア的な意味合いで、原点じゃないですけど、初期の館シリーズに近い“新本格”って言われていた時代のちょっとわくわくするような作品を書くことで、自分もリフレッシュするかもしれないし、ひょっとすると読者も懐かしくて、楽しいかもしれないという気持ちになったんです」と原点回帰に至った理由を明かした。

 その上で、「最初から最後まで面白い、あんまり読者にストレスかけないで楽しめるもの」を目指して執筆。その結果、「奇面館の殺人」は原稿用紙で800枚を超す長編ながらも、緻密な計算された構成で読み応えのある作品に仕上がった。

 シリーズ読者でない人にも手に取ってもらえるよう、登場人物にも工夫を施したという。男性ばかりの登場人物の中、「奇面館」の“メイド”として登場する女子大生の新月瞳子(にいづき・とうこ)だ。作品に出てくる唯一の女性で、一部、ストーリーの案内役も担っている。そして、柔術の使い手という意外な一面も持つ。

 「はは、(メイドは)狙ったわけではないですよ(笑い)。紅一点だから、派手にしたかったんです」と綾辻さん。「僕は割とビジュアルをイメージするんですね、文字でしかできないトリックをやってる割には。で、今回は、鹿谷さんはじめ40歳過ぎたおじさんたちが仮面かぶってるシチエ−ションだけだと、どう考えても成り立たないような気がして。それで案内役はせっかくだから、メイド服を着せて(笑い)。ちょっとは華やぎが出ますでしょ?」と”メイド”キャラを起用した理由をちゃ目っ気たっぷりに語り、「結果的に、瞳子は結構働いてくれたと思いますよ。案内役であり、事件の根幹部分も彼女は不可欠なので。スピンオフとか書いてもいいかなと(笑い)」と、すっかりお気に入りのキャラクターになったようだ。

 作品の中では、解決編が特に気に入っていると言い、「全部で200枚ぐらいあるんですけど、割といい感じで書けました。(事件の鍵を握る)“未来の仮面”の正体というのが気に入っているんです。ミステリーから離れて、僕の怪奇幻想趣味のところで、『これって怖いよね』ってところが気に入ってます。あとはエピローグですね。ミステリー作家の部分とホラー作家の部分での自己内対話をここでやってるなという感じで、心を整理していく感じが楽しかったです」と振り返った。

 デビュー作「十角館の殺人」を刊行してから25年。9作の「館」を世に出してきた綾辻さんに思い入れのある作品について聞くと、「どれも(思い入れ)深いですけど、当時の自分を投入した意味では『暗黒館の殺人』(7作目、04年刊行)ですね。自分的にはあれ以上のものは書けないと思っているので。一番苦労したし、手応えもあったし、いろいろな意味で気が済んだ感じがした小説ですね」と評価した。

 以前から全10部作と公言してきた「館」シリーズ。9作目を刊行し、いよいよラスト1作となった。最終作の構想について聞くと、「いや、“かけら”ぐらいしかないです。あと、シリーズ1作といっても、シリーズの中で大きなオチがあるものではないので、あんまりプレッシャーは感じていないですね」と語り、「まずは、“ネタ”ありきです。それがないと燃えないんですよ。そういうネタが思いつくかどうかにかかってます。(具体的に何年後というのは?)全然わからないですね。生きてるうちに(笑い)。もう51歳になったんで、あまりもたもたもしてられないですね。50代の目標ということで。で、還暦を迎えたら、リセットしてやり直すかもしれないし(笑い)」と冗談交じりに展望していた。

 最後に、新作を心待ちにしているファンに向け、「(1月末の)刊行記念のサイン会で、実際生で読者の声に触れ、予想していた以上に喜んでくれてるのが伝わってきました。ファンの皆さんがずっと待っていてくれるのがすごくありがたかったし、幸せだなと感じました。もう1作、とにかくいい形でお届けしたいので、適当に期待しながら待っててください。あまり期待しすぎるとがっかりしますから(笑い)」とメッセージを送った。

 <プロフィル>

 あやつじ・ゆきと 60年、京都府生まれ。京都大学教育学部卒業。在学中の87年に「十角館の殺人」でデビュー。「水車館の殺人」「迷路館の殺人」と続く「館」シリーズを中心に、現代ミステリーをけん引する。92年には「時計館の殺人」で第45回日本推理作家協会賞を受賞。主な著作に「囁き」シリーズ、「殺人方程式」シリーズ、「殺人鬼」シリーズ、「霧越邸殺人事件」「眼球綺譚」「Another」などがある。4月には「綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー」(講談社)の第3巻が刊行予定。趣味は音楽。また、アニメやゲームにも詳しく、最近見たアニメでは11年に放送された「UN-GO」に感動したという。好きなゲームは「風来のシレン」で、綾辻さんいわく、「最高傑作は『NINTENDO64』版」。

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