キツツキと雨:沖田修一監督に聞く「映画と林業の世界は似ている」

最新作「キツツキと雨」について語る沖田修一監督
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最新作「キツツキと雨」について語る沖田修一監督

 前作「南極料理人」(09年)が高く評価された沖田修一監督の新作「キツツキと雨」が11日に公開された。山村で暮らす無骨な木こりと、そこに映画の撮影隊を引き連れてやって来た気弱な新人監督の交流をつづったヒューマンドラマで、木こりと映画監督をそれぞれ役所広司さんと小栗旬さんが演じている。沖田監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 ゾンビ映画の撮影にやってきた小栗さん演じる25歳の映画監督、田辺幸一。しかし、新人ゆえに自信が持てず、周囲のベテランスタッフやキャストにうまく指示が出せない。一方、妻に先立たれ、定職につかずにふらふらしている息子(高良健吾さん)と2人暮らしの役所さん演じる木こりの岸克彦、60歳。ひょんなことから撮影隊を手伝うことになった克彦と幸一の、おかしくも温かい物語が緩やかにつづられていく。

 映画は、沖田監督と共同脚本の守屋文雄さんのオリジナル。最初は、映画マニアと60歳の映画監督との交流を描くつもりだった。それが、木こりと新人監督にシフトしたのは、海よりも山に囲まれていたほうが景観的によかったからだという。また、村にいて自然なのは林業家。さらに「若い映画監督は実際結構いるのに、そういう設定の映画はあまり見かけない」ところにめずらしさを見いだし、そのうえで、「村の人を主人公にすることで、単なる映画作りの話ではなく、人と人の交流を描く映画として、より豊かになると思った」と話す。

 登場人物たちの会話の“間”も、沖田監督の持ち味の一つだ。だがそれを監督自身は意識したことはなく、「俳優さんたちが、こういう間をとってやったほうが台本が面白くなるというのを、なんとなく察知してやってくださっているんだと思います」と謙遜する。その一方で根底には“刷り込まれた感性”のようなものがあり、「映画の中で、ただせりふを読むというのではなく、きちんと相手が話を聞いていて、その聞いている人の顔を切らないようにすることは意識しているかもしれません」と話す。さらに自身の作品の中には、「コミュニケーションの面白さみたいなものが、常にあるといいと思っています」とこだわりを語った。

 かくして出来上がった作品は、笑いとペーソスがほどよくブレンドされた、まさに沖田監督の持ち味がうまく生きた快作だ。昨年開催された東京国際映画祭では審査員特別賞を受賞した。

 幸一役に小栗さんを起用したことについて沖田監督は、第一に俳優として好きだったこと、また、小栗さんにも監督経験があったことを挙げるが、今回一緒に仕事をして「やるからにはいいものを、とすごく誠実に役に取り組む方。責任感のある方」との認識を新たにした。かたや「子どものころからテレビや映画で見ていた」という役所さんについては、ゾンビの役までやってもらうこともあり、最初はコメディー的な演技を予測していたという。ところが、いざ現場に入ると「『キツツキと雨』という映画の中の一つのキャラクターとして(克彦役を)認めた上で台本を読み込んで芝居をしてくださる。それは、僕の想像をはるかに超えていて、僕は頼りきりでした」と大ベテランに敬服していた。

 ところで、「キツツキと雨」は言い得て妙なタイトルだ。映画のストーリーと直接関係がないが、しかし見終わるとしっくり来る題名なのだ。沖田監督も最初は悩んだそうだが、「映画の内容が想像できないタイトルは、今はあまりない。せっかくのオリジナル(ストーリー)なので、明確に理由がないタイトルの作品があってもいいんじゃないかと挑戦しました」と明かす。

 とはいえその裏にもまた、監督なりの明確な意図がある。「映画の現場と林業の世界とでは似ているところが結構多いんです。雨が降ったら休みだし、弁当だし、なになに組と呼ばれているし。朝が早いところも似ている。それに、キツツキの話は林業の世界でも聞くし、木を突くということでは(映画の)カチンコのイメージもあります」。そういうふうに、ちょっとしたところからアイデアを得て、それをふくらませ、物語を組み立てていく。それが、沖田監督の映画作りにおけるスタイルなのだ。

 <プロフィル>

 1977年埼玉県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。短編「鍋と友達」(02年)が水戸短編映像祭グランプリ受賞。長編デビュー作「このすばらしきせかい」(06年)、テレビドラマの脚本や演出などをへて、09年、脚本も手掛けた「南極料理人」が新藤兼人賞金賞を受賞するなど高い評価を得た。初めてはまった日本のポップカルチャーは、小学生のときに読んでいた高橋陽一さんのサッカーマンガ「キャプテン翼」。

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