朗読少女:乙葉しおりの本の小道 第58回 森鷗外「山椒大夫」

「山椒大夫・高瀬舟」作・森鴎外(新潮文庫)の表紙(左)と乙葉しおりさん
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「山椒大夫・高瀬舟」作・森鴎外(新潮文庫)の表紙(左)と乙葉しおりさん

 美少女キャラクターが名作を朗読してくれるiPhoneアプリ「朗読少女」。これまでに50万ダウンロードを突破する人気アプリとなっている。「朗読少女」で、本の朗読をしてくれるキャラクター、乙葉しおりさんが名作を紹介する「乙葉しおりの本の小道」。第58回は森鷗外の「山椒大夫」だ。

ウナギノボリ

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 皆さんこんにちは、乙葉しおりです。

 バレンタインデー、その由来は今から1700年以上も昔のこと。

 キリスト教の司祭バレンタインさんは、ローマ皇帝が定めた「兵士の結婚禁止」を破って兵士の結婚式を執り行ったため、捕らえられてしまいます。

 彼は2月14日に処刑されてしまいましたが、やがて恋人たちの守護聖人として信仰されるようになり、転じて大好きな人に気持ちを伝える日になったとか。

 もしこのお話を初めて聞いた方がいましたら、次は大好きな人への気持ちと一緒に、バレンタインさんにも感謝の気持ちを込めてみてはいかがでしょうか?

 さて、今回は同じ2月17日生まれのお二人、森鷗外さんと梶井基次郎さんをご紹介させてください。

 以前ご紹介させていただいた「舞姫」の作者・森鷗外さん……本名・森林太郎さんは1862年生まれ。

 夏目漱石さんと双璧をなす文豪と呼ばれていますが、同時に軍医としても活躍し、青年時代に留学していたベルリンで公開されている記念館は、日本のみならずドイツでも一定の評価を得ていたことを示しています。

 後ほど代表作の一つとなる「山椒大夫(さんしょうだゆう)」をご紹介しますので、ぜひご覧になっていってくださいね(*^^*)

 そして、こちらも以前ご紹介させていただいた「檸檬(れもん)」で知られる梶井基次郎さんは1901年生まれです。

 命日となる3月24日が、「檸檬忌」と呼ばれるほどの代表作となっていますが、他にも誰もが知っているようなお話があるんですよ。

 「桜の木の下には死体が埋まっている」……という都市伝説のような話を、一度は聞いたことがありませんか?

 それを最初に作品として発表したのが、梶井基次郎さんの「櫻の樹の下には」だったんです。

 肺結核のために荒れた生活を送っていた時期もありますが、発表された作品を読んでみると、「檸檬」ではレモンを爆弾に見立てたり、「愛撫」では猫のつめを切ったら死んでしまうと考えたり、とても想像力豊かな人だったことがうかがえますよね。

 ではここで、朗読倶楽部のお話……3度目の大会出場の思い出、最終回です。

 今度は上位入賞を!と意気込んで参加した大会は、本のプレゼン能力を競う「ビブリオバトル」。

 ところが、私が用意していた宮沢賢治さんの本は先にプレゼンされてしまった上、どう考えても私より上手だったものですから、すっかり自信を失いかけていました。

 でも、さすがに大会のたびに落ち込んでいてばかりでは何も始まりません。

 「腹がすわる」と言うのでしょうか……くよくよしがちな私には珍しく、舞台に上がる頃にはどうにでもなれという気持ちになって、かえって緊張がほぐれていたのです。

 そして、結果発表……私たち朗読倶楽部は、全員入賞の快挙を果たしました!

 一等賞にあたる「チャンプ」など、上位には入れませんでしたけれど、何よりうれしかったのは、私と同じ宮沢賢治さんの本をプレゼンしたあの子がやってきて、こう言ってくれたことです。

 「今回の、よかったと思う」って……。

 私たちは彼女「小口のどか」さんとあいさつを交わし、大会で再会することを願って別れたのでした……というわけで、3度目の大会のお話はこれで終わりです。

 次回からまた新しいお話になりますので、よろしくお願いしますね(*^^*)

■しおりの本の小道 森鷗外「山椒大夫」

 こんにちは、今回は、森鷗外さんの「山椒大夫(さんしょうだゆう)」をご紹介します。

 「山椒大夫」は中世の説経節(せっきょうぶし)の中でも特に有名な「五説経」の一つ、「山荘太夫(さんしょうだゆう)」を下敷きに短編小説として仕上げられたもので、1915年1月の「中央公論」に掲載されました。

 時は、平安時代の末期。

 左遷されたまま連絡がとれない父・平正氏(たいらのまさうじ)を訪ねて、岩代の信夫郡(しのぶごおり・現在の福島県福島市)に残されていた安寿(あんじゅ)と厨子王(ずしおう)の幼い姉弟、2人の母、女中の姥竹(うばたけ)の4人は、父がいるという筑紫国(つくしのくに・現在の福岡県)へと長い長い旅を続けていました。

 ところが越後国(えちごのくに・現在の新潟県)で人買いにだまされ、姥竹は船から身を投げ、母は佐渡へと売られてしまいます。

 安寿と厨子王は、丹後国(たんごのくに・現在の京都府北部)の石浦に大きな屋敷を持つ山椒大夫に買い取られ、「奉公人」という名の奴隷として使役されることになりました。

 両親に会いたい恋しさに、どうにか逃げ出す方法はないかと話し合う2人でしたが、その影で山椒大夫の息子、三郎にこの話を立ち聞きされてしまいます。

 その晩、姉弟は山椒大夫の前に引き立てられ、脱走を企てた罰として赤く焼けた烙印(らくいん)をされそうになるのですが……。

 「山椒大夫」は、もとになった説経「山荘太夫」と大筋では同じ展開のお話なのですが、「山荘太夫」が荘園における「支配者」と「奴隷」の身分差、理不尽さを描き、最後に復讐することで蓄積した不満を昇華させているのに対し、森鷗外さんの「山椒大夫」では、家族愛に主題を絞っている点が大きく異なっています。

 同じ展開なのに、テーマが大きく異なるこの2作。

 皆さんも一度、その違いを読み比べてみてはいかがでしょうか(*^^*)

 ※本コラムをしおりさんが朗読する「乙葉しおりの朗読倶楽部」がiPhoneアプリ「朗読少女」のコンテンツとして有料配信しています。

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