注目映画紹介:「セイジ−陸の魚−」伊勢谷友介8年ぶりの監督作 風景・せりふすべてが繊細

「セイジ−陸の魚−」の一場面 (C)2011 Kino Films/Kinoshita Management Co.,Ltd
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「セイジ−陸の魚−」の一場面 (C)2011 Kino Films/Kinoshita Management Co.,Ltd

 西島秀俊さんと森山未來さんという人気と実力を兼ね備えた2人の俳優のダブルキャストで、「カクト」以来8年ぶりの伊勢谷友介監督がメガホンをとった「セイジ−陸の魚−」が公開中だ。生きづらさを抱える不器用な人間の内面を、伊勢谷さんの感性と西島さんのオーラの強さで、深くえぐり出している。

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 辻内智貴さんの小説が原作。就職が決まった「僕」(森山さん)は大学最後の夏休みを利用して、自転車で旅をしていた。衝突事故を起こしてたどりついた場所は、雇われ店主セイジ(西島さん)の店HOUSE475だった。バブルの熱気が残っていた時代。夜な夜な集まるお客たち。「僕」は店で住み込みで働くようになる。セイジのことに興味を持った「僕」。寡黙なセイジは常連客のゲン爺(津川雅彦さん)の孫娘・りつ子に対しては心を許しているように見える。ある日、りつ子の家族に事件が降りかかる……。裕木奈江さんも出演している。

 地方の寂れた店、そこに集まる人々、そこに謎めいた店主・セイジがいる。浮かれた会社員や地方でくすぶっている若者……そんな中でセイジだけが、時代を超越してように見える。セイジが持つ過去とはいったいなんなのか。この男は何を心の中に抱えているのか。大学生の「僕」のフィルターを通して見ていくと、「僕」がセイジに興味を持ち、引かれていく過程と同じスピードで、にじみ出る絵の具のようにジワジワとセイジの内面が見えていく。セイジだけでなく、すべての人の孤独や悲しみが見える。美しく自然豊かな風景の中で、人々の寂しさが吹きだまる店が、「僕」やセイジの心象風景を映し出す。絵作り、せりふ、音楽、すべてが繊細。部屋の明かりが孤独だったり、外の光が優しかったり……。光さえ冗舌に語ってくる映画だ。18日からテアトル新宿(東京都新宿区)ほか全国で順次公開中。(キョーコ/毎日新聞デジタル)

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