生きてるものはいないのか:石井岳龍監督に聞く 染谷将太を絶賛「市川雷蔵のような迫力」

新作「生きてるものはいないのか」について語った石井岳龍監督
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新作「生きてるものはいないのか」について語った石井岳龍監督

 「狂い咲きサンダーロード」(80年)や「逆噴射家族」(84年)などの作品で世界にもファンが多い石井聰亙改め岳龍監督の最新作「生きてるものはいないのか」が、18日からユーロスペース(東京都渋谷区)を皮切りに全国で順次公開されている。前田司郎さんの戯曲が原作で、ベネチア国際映画祭で新人賞を受賞した染谷将太さんらが出演している。18人の登場人物が謎の最期を迎えるさまを、凝縮した「生と死」の姿として乾いた笑いで包み込む。10年ぶりの新作に際して改名したという石井監督に話を聞いた。(上村恭子/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 −−改名されたのはなぜですか?

 「五条霊戦記 GOJOE」(00年)を撮ったときに、まだまだだという思いがあって、映画を根本から見直したいと思いました。新作を撮るにあたって心機一転始めたかった。「ドラゴンマウンテン」という会社を設立し、これから映画を恒常的に作っていくベースを整えました。その第1弾(作品が今作)です。

 −−原作は前田司郎さんの戯曲です。どんなところに魅力を感じてこの原作を選びましたか。

 大学(神戸芸術工科大)で教えるようになったころ、若い世代に違和感を感じていましたが、この戯曲と出合って、若い世代も根本は変わっていないのだなと、目の前の大学生に愛情を持てるようになりました(笑い)。たわいのない会話の中に、いつかは訪れる死というテーマが裏に張り付いていて、「今、作らなくては」と思いました。18人の登場人物がマシンガントークを繰り広げる会話劇。これまでの作品ではアウトローを主人公にしてきたけれど、今回はまったく違う。今までにない挑戦になりました。

 −−会話がテンポよく面白いですね。映画にするにあたって気を使った点はありましたか。

 僕にはこういう会話劇は書けませんから、せりふはほぼ原作のままです。オフビートな感じは、前田さんの戯曲の中の、彼なりのニヒリズムなんじゃないかな。演劇なら死んでいるふりが面白いところだけど、映画はリアリズムなので、死んだ姿がリアルに浮き出てきます。死が持つ普遍性を大事にして描き出したいと思いました。

 −−大学のキャンパスで、次々に人が倒れていきます。理由は明かされません。不条理な話にも思えますが……。

 死は圧倒的な事実であって、不条理ではありません。人間は生まれるときも死ぬときも選べないという残酷な事実があって、全員必ず死ぬけど、それがいつやってくるか分からない。そう思うと、この映画にあるような瞬間瞬間のくだらない会話も大事に思えてきます。私は死が絶望に見えるような、欧米の映画が陥っているような作品は撮りたくないと思っています。人生は悲しいけれど、面白いと思う。

 −−主演は染谷将太さんの起用理由と俳優としての魅力を教えてください。

 染谷さんが出ている「パンドラの匣」を見て衝撃を受けて、出ていただきたいと思いました。キリッとしていて、クローズアップにしたときに異様な迫力があって、まるで市川雷蔵さんのようです。今作では、役者さんのアンサンブルを見せていきたかったので、前半は主観ショットを使っていません。染谷さんの迫力を抑え気味にして、後半で盛り上げていきました。

 −−大学病院に入院している患者役・田中こなつさんも存在感たっぷりでした。

 原作の前田君と最も話し合った役柄でした。結果的には田中さんの役への解釈を重視しながら撮影しました。田中さんのとらえどころのない魅力が役に合っていたと思います。会話のスピード、アドリブなどに応えられる役者をオーディションで選びました。“生きる”ということは映像に出ます。現場では私から「あなたはどう生きているのか」という問いかけをしながら撮影していきました。

 −−女性がとてもたくましく、生き生きと描かれていました。

 女優さんの生き生きとした姿を撮りたいと思っていました。最近トリュフォーの映画が好きなんですが、女性が生き生きして見えますね。実際、男性は女性に支えられていると思いますよ。今後私の映画も、どんどんそういう傾向になるでしょうね。

 −−今後はどんな映画を撮っていきますか。

 アクション、純文学、壮大なスケールのもの……たくさんアイデアがあります。私自身、つらいとき寂しいときに映画がインスピレーションを与えてくれたように、見た人に大きな種を植えられるような映画を作っていきたいです。見た後に、話し合ってもらったりができるような映画を目指したいですね。映画はたくさんのスタッフがいて、映画館という装置があって……観客と一緒に作ります。スクリーンで体験していただくためには、どういうものを盛り込めばいいのか。私の中には「これが映画だ」という思いがあるので、「見て終わり」ではなく、楽しめて、体験として残るような映画を作り続けていきたいです。

 <プロフィル>

 1957年生まれ、福岡県出身。84年、「逆噴射家族」がイタリアのサルソ映画祭でグランプリを受賞。「エンジェル・ダスト」(94年)でバーミンガム映画祭グランプリ、「ユメノ銀河」(97年)でオスロ映画祭グランプリを受賞。近作に「五条霊戦記 GOJYO」(00年)、「DEAD END RUN」(02年)などがある。10年1月に公式ブログで改名を発表。現在、神戸芸術工科大学で教鞭(きょうべん)をとる。

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