カンヌ、ベルリン、ベネチアの世界三大映画祭を制覇した韓国の鬼才キム・ギドク監督が、自分で自分にカメラを向けたセルフドキュメンタリー「アリラン」が公開中だ。ここ数年、映画が撮れなくなって引きこもっていたというキム監督。「自らを悟る」という意味を持つ朝鮮民謡「アリラン」をがなり声で歌う姿に、もがく男の姿があった。
ウナギノボリ
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キム・ギドク監督は、雪深い山間の一軒家で独居生活を送っていた。映画が撮れなくなった理由を語り出す。オダギリジョー主演の「悲夢」(08年)撮影中に、女優があわや命を落としかける事故が発生した。女優は助かったものの、精神的ショックを受けた。また、スタッフの裏切りも重なり脚本が書けなくなったという。「なんでもいいから撮れ」という自分と「何が見せられるのか分からない」という自分、「映画を撮りたいんだ」という自分。三つの視点から心境が語られる。
映画監督の引きこもりドキュメンタリーという異色作だが、これがどうして、エンターテインメント作品になっている。冒頭、どんな場所でどんな生活ぶりなのかがテンポよくつづられる。田舎の小屋で酒びたりになっている自分を叱咤(しった)激励してみたり、自分の影が出てきて自問自答したりという演出がさえている。国家という枠の中で芸術に関わる難しさに苦悶するギドク監督は、とことん自分が好きな芸術家だった。
それにしても、なんだか孤独を楽しんでいるようにも見える。小屋の中のテントで寝起きし、猫が相棒、手作りコーヒーメーカーで沸かすコーヒーに鍋からじかに食べるラーメン……。これって、もしや男性があこがれる生活では? 映画論を語っているところに、焼き魚を食べているシーンを組み合わせる斬新さ。これも「映画=生きること」ということなのか。監督の決意表明のようなラストに拍手を送りたい。シアター・イメージフォーラム(東京都渋谷区)ほか全国で順次公開中。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
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