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宇宙兄弟:森義隆監督に聞く 南波兄弟は自身の境遇とそっくり「作品に呼ばれたなと思った」

映画 マンガ

 累計発行部数800万部を突破した、小山宙哉さんがマンガ誌「モーニング」(講談社)で連載中の人気マンガ「宇宙兄弟」が、小栗旬さん、岡田将生さんのダブル主演で実写映画化された。宇宙飛行士になって兄弟一緒に宇宙に行くという幼いころからの夢の実現に向かってまい進する、小栗さんふんする兄・南波六太(ムッタ)と、岡田さんふんする弟・日々人(ヒビト)。2人の葛藤の日々が、2025年を主な舞台に繰り広げられていく。オファーが来たとき、「呼ばれたと感じた」と話す森義隆監督に、その理由やドキュメンタリー畑出身ならではのキャスティングや演出方法などについて聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

 ◇顔まね合戦をしてもしょうがない

 −−原作はご存じなかったそうですが、監督を引き受けた決め手は何だったのでしょうか。

 まず、タイトルにピンと来ました。主人公のムッタが31歳。オファーを受けたときは僕も31歳。ムッタには28歳の弟ヒビトがいて、僕にも三つ下の弟がいる。それに、ムッタとヒビトの子供時代の風景が、自分のそれと重なって、まさに“呼ばれたな”という感じでした。また僕は、テレビでのドキュメンタリーをなりわいにしていましたが、そのデビュー作が宇宙旅行ビジネスのドキュメントだったんです。それで参加すべきだと決意しました。

 −−キャスティングはどのように決めたのでしょうか。

 まず明確にしたのは、たくさん出てくる登場人物の中から、南波兄弟に寄与する人間をチョイスするということでした。その上でキャスティングは、(原作と)顔まね合戦をしてもしょうがない、容姿はヘアメークや衣装で作っていける自信があるので、そのキャラクター自体が持っている本質をしっかりとらえた上で考えていきました。例えば、堤真一さんが演じるJAXA職員の星加。彼の本質は、兄弟の背中を押してくれる存在であるということですから、星加に似た人をキャスティングするというより、小栗君と岡田君が決まり、彼らの背中を押してあげられるのは誰だろうと考え、浮かんだのが堤さんでした。

 −−小栗さん、岡田さんをキャスティングした決め手は?

 ムッタ役の小栗君は、バラエティー番組などを見ていると、彼自身の本質というか、素の部分が垣間見えることがある。器用過ぎる不器用さだったり、ナイーブさ、男の子っぽいところ、理想と現実のギャップなど、ごちゃごちゃしているヤツだなあ(笑い)という印象を持っていました。また、芸能界の立ち位置を含めて、この時点の小栗君は、ひと皮むけようとしているころだろうとか、そうしたいろんな要素がからみ合った結果でした。ですから、彼が積み上げてきたお芝居うんぬんというよりむしろ、俳優・小栗旬という人間が今置かれている状況を生かせられれば、この役は面白くなると考えました。

 −−岡田さんについては?

 小栗君が決まったあとに、彼を今しっとさせられるのは誰だろうと考えたんです。すると岡田君が浮かんだ。彼は今、いい監督からいい演出を受けて、すごく思い切りのいい芝居をしている。役者としての正直さが舞台あいさつや画面からも伝わってきて、まっすぐな彼を今の小栗君に当てると面白いのでは、と思ったんです。

 −−そのあたりの考え方はドキュメンタリー監督ならではかもしれませんね。

 そうかもしれません。カメラが回りだすと人は芝居を始めるけれど、その芝居からこぼれる本質的なものを拾っていくのがドキュメンタリーの作業なんです。人をじっくり観察して、この人にこの役をやらせたら掛け算が起きるなとか、いまの29歳の小栗旬が演じるからムッタが面白くなるなとか。刻々と変わっていく“人”というものをドキュメンタリーで撮ってきたから、そういう目線が徹底しているのかもしれません。

 ◇岡田さんのイライラが映像に

 −−月のシーンや宇宙船内のシーンでは、俳優さんの演技と撮影技術によって無重力を表現したそうですね。ドキュメンタリー出身の森監督としては、本当の無重力空間で演出したいと思ったのではないですか。

 もちろん、映画はリアルであってほしいですが、求めるのは俳優のリアル。あくまでも人、肉体です。ですから、それを夏に撮ったのか秋に撮ったのか、スタッフがケンカしているときに撮ったのか、仲がいいときに撮ったのか、そういうことのほうが、僕にとってはリアリティーなんです。極端な話、小栗君と岡田君が演技をしていく中で化学反応を起こし、ストーリーが変わってしまってもいいとさえ思っています。

 −−実際に化学反応が起こり、それが映像に反映された場面はありますか。

 例えば、ヒビト(岡田さん)の米国の部屋をムッタ(小栗さん)が訪れるシーンで、ヒビトが缶ビールを振りますよね。その前に小栗君の、カーテンの金具の位置を直したりという芝居があって、本来の台本では、岡田君の芝居はただそれを見ているだけだったんです。ところが岡田君が、「監督、なんかイライラしてきた」というから、じゃあなんか仕掛けようかという流れになって。そうしたら彼、缶ビールを振り始めた。そんなふうな積み重ねを、現場ではちょこちょこやっていました。

 −−印象に残っている場面を教えてください。

 ラストのモンタージュですね。とらえ方によってはかけ足で終わったと思われるかもしれませんが、あそこは脚本作り、映画作りをしていく上で軸にしたところです。宇宙史というノンフィクションに2人の兄弟史というフィクションをねじ込み、本当にあったことの先に、この2人を描くということに、すごくこだわりました。

 −−アポロ11号の乗組員バズ・オルドリンさんが出演されています。お会いになった感想は? 感動しましたか。

 会ってというより、一緒に仕事をして感動しました。芝居をつけたとき、一度で的確にこなされたんです。おそらく、彼らは、宇宙で作業を行うとき1秒単位で指示に従い、失敗したら死んでしまうという究極の訓練をしていた人たち。演出したときそれを痛感し、「やっぱりこの人、月行ってるわ」と感服しました。

 −−マンガファンが多くいるこのサイトの読者にメッセージをお願いします。

 僕、マンガはほとんど読まないんですが、映画にしかできない、マンガにはできない表現をしているつもりでいます。肉体があるのが映画。人間の息遣い、体をぜひ劇場に見に来てください。

 <プロフィル>

 1979年生まれ、埼玉県出身。初の短編映画「畳の桃源郷」(99年)で水戸短編映像祭審査員奨励賞受賞。翌年、インドを舞台にした「カル」はインディーズムービーフェスティバルで入賞した。01年からテレビマンユニオンに参加し、「世界ウルルン滞在記」などの制作に関わり、「ガイアの夜明け」「わたしが子どもだったころ」ほか数々のドキュメンタリー番組を演出した。08年、「ひゃくはち」で長編映画監督デビューを飾り、新藤兼人賞銀賞、ヨコハマ映画祭の新人監督賞、審査員特別賞を受賞した。初めてハマった日本のポップカルチャーはゆでたまごのマンガ「キン肉マン」。

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