朗読少女:乙葉しおりの本の小道 第113回 貴志祐介「十三番目の人格 ISOLA」

「十三番目の人格(ペルソナ)−ISOLA」著・貴志祐介(角川ホラー文庫)の表紙(左)と乙葉しおりさん
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「十三番目の人格(ペルソナ)−ISOLA」著・貴志祐介(角川ホラー文庫)の表紙(左)と乙葉しおりさん

 美少女キャラクターが名作を朗読してくれるiPhoneアプリ「朗読少女」。これまでに100万ダウンロードを突破する人気アプリとなっている。「朗読少女」で、本の朗読をしてくれるキャラクター、乙葉しおりさんが名作を紹介する「乙葉しおりの本の小道」。第113回は貴志祐介の「十三番目の人格 ISOLA」だ。

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 皆さんこんにちは、乙葉しおりです。

 世界で一番長い小説とはどんな作品なのか、皆さんはご存じですか? 現在のギネス世界記録に認定されている世界一の長編小説は、フランスのマルセル・プルーストさんが1913年から発表し、彼の死後遺族の方たちがまとめ、1927年までかかって完結した「失われた時を求めて」です。

 全7編から構成されるこの物語は原文でおよそ960万9000文字、3000ページにも及ぶ膨大なものですが、実は、これよりも長い作品があるんですよ。

 それが、アメリカのヘンリー・ダーガーさんが執筆した作品、「非現実の王国で」。子供を奴隷として扱う軍事国家「グランデリニア」に対抗するカトリック国家「アビエニア」を率いる7人の姉妹の物語で、作者のダーガーさんが19歳の時から生涯のほぼ全てをかけて執筆したその総量は、なんと1万5143ページ!

 作品を彩る300枚に及ぶ挿絵も全て自ら筆を執ったもので、アウトサイダー・アートの芸術作品として高い評価を受けています。

 何より驚くべきは、これらの膨大な作品をその生涯を終える間際まで、誰にも知られないままに創作し続けたこと。そしてこれだけの歳月を費やしてなお、未完に終わってしまっていることでしょう。しかもこのお話には続編(シカゴにおけるさらなる冒険)があって、こちらも1万ページに及ぶ未完の長編作品なんですよ。

 そんなわけで、4月12日は、ヘンリー・ダーガーさんのお誕生日です。(1892年生まれ・誕生日異説あり)

 今回ご紹介した2作品の他にもさまざまな長編がありますので、機会がありましたらまたご紹介させてくださいね。

 では続いて、朗読倶楽部のお話……朗読倶楽部顧問・癸生川新先生のこと・第11回です。

 突然襲われた難聴によって、音楽活動を諦めることになってしまったという先生の過去。先生は私たちと話されるとき、他の人と比べて顔を近づけて会話することが多いのです。それまでずっと「くせ」だと思っていたのですが、このときになって理由がようやく分かりました。

 大切な時期にメンバーを抜けるのは大変な決断だったと思います。きっと先生は無理をしても続けたかったはず……。けれど、それはバンドの足を引っ張ると思ったから、そして早く自分の代わりを見つけてもらうためにも、先生は夢をあきらめなければならなかったのでしょう。でも、結果としてバンドは夢に羽ばたくことができずに終わってしまった……。

 先生には何の責任もない不慮の事態、他の誰も責めることはない……それでも、心には負い目だけが残ってしまった。その重みがどれほどのものであるか、私には想像もできません。

 この時の私は、軽々しく聞いてしまったことを激しく後悔していました。わざわざ傷口を広げるようなことをしてしまったのだと。

 そのとき、ここまでディレクターさんの隣で表情を変えず黙って座っていた先生が、初めて口を開いたのです……と、いうところで、今回はここまでです。

 次回もまた、よろしくお願いしますね。

■しおりの本の小道 貴志祐介「十三番目の人格 ISOLA」

 こんにちは、今回ご紹介する一冊は、貴志祐介さんのホラー作品「十三番目の人格(ペルソナ) ISOLA(いそら)」です。

 1995年に発生した阪神・淡路大震災直後の神戸を舞台に、多重人格の少女に潜む恐るべき存在「ISOLA」の謎を追うこの物語は1996年に発表され、2000年には「ISOLA 多重人格少女」の題名で映画化されました。

 加茂由香里さんは、人間の心の中の感情を読み取る「エンパス」能力の持ち主。その特殊な力が原因で、周囲はおろか家族にも見捨てられるつらい少女時代を過ごしたものの、その能力が人の役に立てることを知った現在は、阪神・淡路大震災で被災した人々の心のケアを行っていました。

 傷ついた人々の心を的確にとらえ癒やすその手腕から、ボランティア仲間に一目置かれる存在となった由香里さんは、被災して入院中の少女に会ってほしいと頼まれます。

 「会うたびに別人のような態度を取る」という少女の内面には、「複数の人間の感情」が渦巻いていました……彼女、森谷千尋さんは、「多重人格」の持ち主だったのです。

 性別・年齢・性格全てがバラバラの、実に13人もの人格を内包する千尋さん……特に、震災直後に生まれた13番目の人格「ISOLA」は、他の人格とは比べ物にならない激しい攻撃感情に支配されていました。「素人カウンセラーの手に余る」と考え一度は手を引こうとするのですが……。

 両親を失った記憶、学校でのいじめ、叔父からの日常的な虐待……。次々と明かされる彼女の苦難にまみれた境遇に自分の過去が重なり、力になろうと決意する由香里さん。千尋さんが通う高校の臨床心理士・野村先生の協力を得て多重人格の謎を追ううち、次々と不可解な死を遂げてゆく関係者。千尋さんの中にいる他の人格も詳細を知らない、エンパスでも思考を感じ取れない存在「ISOLA」の正体とは? やがてその魔の手は、事件に深入りした由香里さんにも伸びていき……。

 恐怖から垣間見る心の闇、ラストで暗示される本当に恐ろしいものとは何なのか、ぜひ一読してみてくださいね。

 ※本コラムをしおりさんが朗読する「乙葉しおりの朗読倶楽部」がiPhoneアプリ「朗読少女」のコンテンツとして有料配信しています。

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