黒川文雄のサブカル黙示録:ゲーム会社の経営は多難の時代

 ジャスダック上場のゲームソフト制作会社「インデックス」が6月27日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、受理されたと発表した。同社は6月12日、架空の取引を繰り返す「循環取引」で売り上げを水増ししていた疑いがあるとして、証券取引等監視委員会が、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)容疑で同社などの強制調査に入っていた。インデックスといえば、かつてのゲーム会社「アトラス」を吸収合併し、現在も「アトラス」のブランドでソフトを発売しているから、ファンなら驚くニュースだっただろう。

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 過去にインデックスのグループ会社の一つを経営していた自分としては心中複雑だ。かつてはiモード向け携帯コンテンツの売り上げで一時代を築いたインデックスだが、リーマン・ショック以降は子会社の整理によるキャッシュの保全とコンテンツをいかに有効利用するかという会社経営をしてきたように思う。

 ちなみにインデックスは2000年の前半ごろからコンテンツビジネスに注力しようということで、ゲーム系コンテンツ会社への投資などを積極的に推進した。かくいう私がかつて経営したデックスエンタテインメントもその1社。インデックスは、旧タカラや日活などの救済や買収、そして売却などで話題となった。個人的には、M&A戦略の脈絡のなさも感じながらも、アトラスというブランドを手中に収めたことでさらなる飛躍が期待されていただけに残念に思う。

 自身の件に触れるのであれば、インデックスは、当時の私の会社の大株主であったこともあり、最終的には株主の意向に沿う形でゲーム部門の売却を行った。それに関しては私自身の決断、経験不足、あのときあのようにしていればなどという後悔もあることは否定できない。しかし、当時からインデックスにはコンテンツ系の会社をひとまとめにして、株式公開で大きなキャピタルゲインを得ようと考えていたことは事実である。しかし、それがなかなかうまくいかないという状況判断と同時に、メインバンクからの資金調達が何らかの事情で融通できなくなったことが子会社の整理(=つまり現金化)につながったのではないだろうか。

 さて、話を戻そう。かつてのiモードやスマートフォンのアプリなどは、短ければ1カ月くらいで作って公開するものもあったが、家庭用ゲーム会社の場合、企画開発から完成までの時間は1年以上を要するなどとてつもなく長い。1人に月100万円のコスト(人件費)がかかる開発スタッフが30人ならば月3000万円。さらに1年稼働させたら約3億6000万円の資金が必要になる計算だ。これを回収するには、5800円のゲームソフトであれば卸値を考えると、10万本を売って約4億4000万円というところだろう。今のゲーム業界を知る人ならば、10万本の採算ラインが大変であることは理解できるだろう。

 ただし、面白いのはヒットしたときのカラクリだ。倍の約20万本売れると売り上げは約9億円になるが、ゲームソフトの場合、コストの大半は開発費であるため、売れたら売れるほど恐ろしい利益率になる。だから経済紙の記者などは「ヒットしたゲームはお札を刷るようなもの」と言ったりする。ゲームクリエーターはこのジャパニーズドリームを目指して開発しているといってもいいかもしれない。

 このような話をするとメーカーからもユーザーからもあまりいい顔はされない。「ゲームはビジネス」なのは厳然たる事実だが、それをよしとしない風潮があるからだろう。ゲームの完成度を高めるために時間を費やすというのは簡単だが、それはリスクと表裏一体。だからゲーム市場が成熟化した現在、ゲーム会社の経営は多難の時代ともいえる。インデックスも資金繰りの苦労があったことは想像できるが、今は見守るしかない。優良なコンテンツの行く末が、会社の嫌疑が元で不透明な状況に陥るのは残念なことだ。

 ◇プロフィル

 くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、映画・映像ビジネス、ゲームソフトビジネス、オンラインコンテンツ、そしてカードゲームビジネスなどエンターテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。

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