SPECIAL EDITED VERSION 『ONE PIECE』魚人島編
第1話 再出発!集う麦わらの一味!
11月3日(日)放送分
話題の書籍の魅力を担当編集者が語る「ブック質問状」。今回は、青山通さんの「ウルトラセブンが『音楽』を教えてくれた」(アルテスパブリッシング)です。アルテスパブリッシングの木村元さんに作品の魅力を聞きました。
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−−この書籍の魅力は?
円谷プロ制作の特撮テレビ番組「ウルトラセブン」の放送は、今からちょうど45年前の1967~68年でしたが、その最終回、モロボシ・ダンが同僚のアンヌ隊員に自分がセブンだということを告白するシーンに流れたのが、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ディヌ・リパッティのピアノ独奏によるシューマンの「ピアノ協奏曲」だったんです。
「ウルトラセブン」の音楽監督は作曲家の冬木透さんで、あの「セブン~セブン~セブン~」のコーラスが印象的な「ウルトラセブンのうた」をはじめ、クラシック音楽的な気品にあふれる冬木さんのオリジナル音楽もこの番組の魅力の一つだったのですが、なぜか最終回ではロマン派の大作曲家シューマンが作曲した「ピアノ協奏曲」が使われた。当時7歳だった著者の青山通さんは、この最終回のシューマンに大変な衝撃を受けました。その時点では、まだ作曲家についても作品についても、何も分からない状態だったのですが、「あれは何だったんだろう」という衝撃を胸に子供時代を過ごしたわけです。
数年後に偶然、それがシューマンの「ピアノ協奏曲」だということが分かり、青山少年は親に頼んでLPレコードを買ってもらいます。でも、曲は同じなのに、音楽が違う! つまり、「セブン」の最終回で流れたのとは別の人が演奏するレコードだったんです。今なら小学生でもインターネットで検索すれば、たちどころに答えにたどりつくのでしょうが、当時はそんな便利なものはないので、レコードを買って聴いてみるしかない。青山少年はあきらめずに、小遣いをためては一枚、一枚とシューマンのレコードを買い続け、あの衝撃の最終回から7年後にようやく“あの演奏”に再会する。その探索の物語がこの本のテーマの一つです。
もう一つのテーマは、その探索の過程で著者が学んだこと……。つまり「曲は同じなのに、音楽が違う」、それを楽しむことこそが、クラシック音楽を聴く醍醐味(だいごみ)だということです。一人の少年がテレビ番組の音楽を探索する旅路が、彼がクラシック音楽の聴き方を学んでいく過程にもなっているわけですね。加えて、冬木透さんが手がけた「ウルトラセブン」各話の音楽も紹介されていますので、セブンのファンであればどなたでも楽しんでいただける内容だと思います。
−−作品が生まれたきっかけは?
著者はその後、音楽之友社という出版社に入社し、音楽雑誌の編集者として活躍するようになるのですが、私はその会社の後輩なんです。昨年の春ごろ、久しぶりに電話をもらって、「ウルトラセブンとシューマンについて原稿を書いたんだけど」と言われたのですが、正直「マニアックなテーマだなあ」と思っただけで、あまりピンと来ませんでした。
でも、せっかくなので原稿を持ってきてもらい、その場で最後まで読み通したんです。断るにしても、きちんと読んでからにしようと思って読み始めたのですが、途中からは青山少年の探索の行方が気になって、ページをめくる手が止まらなくなり、最後のページを読み終わったときには「出しましょう」と言っていました。
−−作者はどんな方でしょうか?
会社のテニス部などで付き合いはあったのですが、この「ウルトラセブン」とシューマンの話は聞いたことがありませんでした。あとでほかの先輩方に話を聞いたら、「あの話は面白いよね」とか「あの話が本になったのか!」という反応が多く、青山さんのアイデンティティーの重要な一部をなしていた出来事だったんだなと改めて思いました。音楽業界で長く仕事をしていると、どうもすれてしまう人も多いのですが、青山さんはおそらく7歳当時の感性が軸になって、今でも音楽に対してピュアな愛情を大切に持ち続けているところが素晴らしいですね。とても気持ちよく仕事をすることができました。
−−編集者として、この作品にかかわって興奮すること、逆に大変なことについてそれぞれ教えてください。
ずっと楽しく仕事をしていたのですが、ビジネス的な意味で「この本、いけるかも」と思ったのは、じつは校了間際になってからです。毎月配信しているメルマガで「今度こんな本を出します」と近刊情報を流すのですが、初めてこの本について公に告知したところ、数人の方が返事をくれて、「実は私も『ウルトラセブン』でクラシック・ファンになったんです」と“カミングアウト”してくれたんです。いずれもとても尊敬している業界の方々だったのですが、そのメールを見て、「もしかしたら、日本にはほかにもたくさんの“青山少年”がいるのかもしれない」と思いました。青山さんの物語はじつは特殊なことではなくて、ある年代の日本人にとって普遍的な体験なのかも。だとしたら、この本は売れるんじゃないかと思ったんです。ふたを開けてみたら、書店からの予約注文だけで初版がなくなってしまい、発売日に2刷を決め、数週間後に3刷と、久しぶりのスマッシュヒットとなりました。
大変なことは……あまり思い浮かびません。編集の仕事はいつも大変ですが、著者やデザイナー、印刷所の方々などと“よいものを作ろう”という意思を共有しての共同作業は、いつも言い尽くせない喜びを残してくれますから。大変だったと言えば、昨年の5月に原稿を読ませてもらったものの、私自身がほかの仕事で忙しくて、なかなかこの本に取りかかれず、青山さんに申し訳ないなあと思っていた時期はつらかったですね。ただ、今年は円谷プロ設立50周年にあたるそうで、ちょうど関連イベントや類書の出版も多くなった盛り上がりのなかで出版できたので、結果オーライとなりました。
−−最後に読者へ一言お願いします。
この本は、TwitterやFacebookなどのSNSをはじめとする読者の反応がとにかく“熱い”んです。読んでくれた人は皆一様に、青山さんの体験に共感してくれるだけではおさまらず、“自分が当時どうだったか”ということを語りたくなるようです。
実は一度だけ同じような体験をしたことがあって、それは以前、旧満州(現中国東北部)関係の本を出版したときのことです。昔、旧満州で暮らしていたというお年寄りの方々が何人も「自分の満州体験はこうだった」と、ハガキ一面に小さな字でびっしりと書いて送ってきてくださいました。今回はネットを通じてですが、「あのときと同じだなあ」と感慨深いものがあります。
つまり、「ウルトラセブン」は単なる子供向けのテレビ番組じゃなかったということです。あの当時の子どもたちの心に深い刻印を残し、その後の人格形成や職業選択にも大きな影響を与えたのだと思います。著者があるトークショーで語っていたのですが、「熱が90度あっても役目を果たす」(これ、ウルトラセブンのことです)……こういう使命感を、もしかしたら私たちはセブンから学んだのかもしれない。もちろんクラシック音楽の聴き方もそうです。
読者の皆さんには、ぜひ“自分がセブンから学んだこと”を自信を持って語っていただきたいと思います。ある世代限定ではありますが、日本が世界に誇れる一つの立派な“文化”だと思いますので。
アルテスパブリッシング 代表 木村元
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