北川景子:「抱きしめたい−真実の物語−」 障害のある女性演じ「信じ続ける強さや美しさ感じた」

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 映画「抱きしめたい−真実の物語−」(塩田明彦監督)が1日に公開された。今作は、ドキュメンタリー番組「記憶障害の花嫁−最期のほほえみ−」として放送された、北海道網走市で暮らす実在の男女に起きた実話を基に描かれたラブストーリー。若くして交通事故に遭い、後遺症と記憶障害で車いすの生活を送りながらも恋愛にスポーツに人生をエネルギッシュに楽しむ女性・つかさを女優の北川景子さんが演じ、人気グループ「関ジャニ∞」の錦戸亮さんが、つかさと恋に落ちるタクシードライバー・雅己役として出演している。身体的なハンディをはじめ過酷な運命にさらされながらも、強くまっすぐに生きたつかさ役を熱演した北川さんに話を聞いた。

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 今作を見て会いたくなったのは「やっぱり親かもしれない」という北川さん。「(親が自分の)知らないところでもっともっとやってくれたことがあったのだろうなということが分かったので、親はやっぱりすごいと思いました」と話す北川さんは、左半身と記憶能力に障害がある女性を演じている。実在の人物を演じることには「実在の方を演じるときはプレッシャーがかかるとおっしゃる方もいらっしゃいますが、私はどちらかというとお話をいただいときにうれしいという気持ちのほうが大きかった」と明かす。出演の話が決まってからドキュメンタリー番組を見て、「後遺症を抱えながらも前向きですごく笑顔のすてきな方というのが番組から伝わってきて、自分にこの役が回ってきたということが、最初はすごくうれしかったです」と当時の心境を振り返る。

 劇中では事故直後のリハビリといった難しいシーンも数多くある。北川さんは「(資料映像の中に)集中治療室や言葉をしゃべり出したとき、食事の映像などがあったので、映像を自分のタブレット端末に入れて撮影の合間などに勉強しました」と役作りのプロセスを明かす。続けて、「特に印象的だった笑顔とリハビリの過酷さはポイントだと思い、映像を参考にして演じようと思いました」と、ドキュメンタリー番組の映像が役立ったと語る。そして「(つかささんの)お母様が苦労して一緒にリハビリをなさったシーンなどは、責任を持ってしっかりとお客さんに、こんな苦労がこの親子にはあったということを伝えなくてはという、身が引き締まる思いがありました。それが悪いプレッシャーになってつらかったとか、苦しかったということは、実は最初から最後までなかったかもしれないです」と明かした。

 今作の撮影に際して北川さんは、錦戸さんや塩田監督らとクランクイン前につかささんの母親や雅己さんの元を訪れ、さまざまな話をしたという。そのときの様子を「親戚中の方が集まってくださって『映画楽しみにしています』とか『つかさを映画にしてくれてありがとう』といった声を掛けていただき、温かいご家族や親戚の中でつかささんは育ったんなだという感覚を感じられたことが、自分の中ではすごく大きかったし、クランクイン前に会うことができてよかった」と話す。つかささんの母親から「本物のつかさを映像で見てくださっているということなので、見て感じた通りにやっていただけたら。映画になって、きっとつかさも喜んでいると思う」という言葉を掛けられたことが、北川さんにとって「すごくうれしくて印象に残った」という。

 演じるつかささんの印象を「目力やすごくまっすぐ見つめてお話しされている方だなと思いました。すごいなという思いが強く、もし自分も同じ境遇になったら、めげずにあきらめずにリハビリに取り組めるかなと……」とその遺志の強さに驚いたことを明かす。似ている部分はあるかと聞くと、「共感したところはすごくあったのですが、自分と似ているなと思った部分は、もしかしたらそんなになかったかもしれない。(つかささんは)すごく強いから私だったらここまで言えないかなという部分もありますが、それが何か可愛らしくて好きになっちゃう」と北川さん。「錦戸さんがすごく雅己さんに似ている感じで、優しい雰囲気で演じてくださったからこそ、自然にそうなれたのではと思います」と感謝の思いを口にした。

 共演した錦戸さんについて、「すごくすてきな役者さんで、いつか共演させていただきたいと思っていました」と明かす。印象は、「何を言っても錦戸さんだったら返してくれる、何をやっても錦戸さんだったら認めてくれると、初めて会ったときから思いました。きっと大丈夫だろうという安心感を与えてくれるのは錦戸さんの持つ特別な雰囲気だと思います」と語る。そして、「お芝居がナチュラルで、過去の作品でも本当にそういう人がいるみたいという演技をする人だから、すごく憧れています。感受性の強さや鋭さというのは自分にはないものだと思うし、うらやましいといつも思っていました」と尊敬の念を口にする。

 自身も人見知りという北川さんだが、撮影現場でプロデュサーから「錦戸さんは北川の上を行く人見知りで(北川さんが)話し掛けなかったら多分話さないと思う」と言われ、意を決して錦戸さんに話しかけたという。「車内で2人きりのシーンから始まったのですが、沈黙が気まずくて『関ジャニ∞は忙しいんですか』という感じでずっと聞いていたので、芸能リポーターかなと思われたのでは(笑い)。その日の終わりに『車中での会話で、前回の映画で共演した女優さんと話した1本分の会話を、今日で優に超えました』と言われて、ちょっとやっちゃったかなと(笑い)。でも、それがきっかけで無理やりこじ開けた形にはなったのですが、心を開いてくださったのではと思います」とエピソードを明かした。

 錦戸さんとは「関ジャニ∞に関する質問はたくさんしましたが、演技についての話はしませんでした」と笑う北川さん。「台本がすごくシンプルだから普通に会話するとすぐ終わってしまうのですが、監督からは、せりふが終わっても実際の雅己さんとつかささんは話していたわけだからしゃべり続けてくださいと言われていました。エチュードみたいな感じで続いていく会話が長く映画にも使われています。本当にその場で生まれたものだし、素になってしまう瞬間もなく、ずっと自分はつかささんとしてそこに息づくことができたと思います」と自信を見せる。そして「(錦戸さんと)最初に会ったときから自然にただ息が合ったと思うということをお互い話しましたが、お互いに信じられたんでしょうね」と錦戸さんとの息のよさをアピールした。

 そんな北川さんのお気に入りのシーンは「ごくごく普通の日常のシーンが好き」という。その理由を「メリーゴーランドやウエディングといったイベントシーンもすてきですけど、塩田監督の素晴らしさは、普通に食べているだけだったり車でデートしているような(普通の)シーンがすごく心が温まる、クスッと笑っちゃうようなところだったりするので好きです。リアリティーというか、親しみやすい2人であるところ」と話す。そして「全体的に錦戸さんの笑顔がとても印象的。決めぜりふっぽい感じではないときが好きで、『コーヒーがいいの、紅茶がいいの?』のような何気ない会話が本当に聞かれているみたいで、雅己さんもこういう感じで優しかったんだろうなと思いました。優しくしようとしているのではなくて、もともと優しい人で自然にできる人というのを、細かなところで感じたのがグッときました」と魅力を感じたという。

 今作から自身が感じたことを「どんなときもあきらめない、希望を捨てないことの素晴らしさ、難しいかもしれないけれど、どんなときも明るく、信じ続ける強さやその美しさを、つかささんを通じて感じたかなと思います」と話す。「きっと見る人によって感動するシーンやポイントが違うと思いますが、私はつかささんを演じてつかささん目線で映画を見たので、つかささんが絶対に『こんな自分だから無理』とか『自分には無理に決まっている』という普通の人でも思ってしまうことを思わなかったところが、本当にすごいと思う。もっと前向きに不可能を可能に変えようというぐらいの気持ちで今年もいかなきゃいけないなと思いました」と力を込めた。映画は、TOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほか全国で公開中。

 <プロフィル>

 1986年8月22日生まれ、兵庫県出身。2003年に女優デビュー。「間宮兄弟」(06年、森田芳光監督)の出演を皮切りに、「Paradise Kiss」(11年、新城毅彦監督)、「謎解きはディナーのあとで」(13年、土方政人監督)、「ルームメイト」(13年、古澤健監督)、「ジャッジ!」(14年、永井聡監督)など、多数の映画に出演する。5月にはテレビドラマの映画化「悪夢ちゃん The夢ovie」(佐久間紀佳監督)の公開が控える。

(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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