北村一輝:「KILLERS/キラーズ」 現場で監督の色に染まるのが信条「赤といわれれば赤に」

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 日本とインドネシアのジャカルタを舞台に、殺人に魅せられた男と、彼に影響を受けた男が、やがて血まみれの“ゲーム”にのめりこんでいくサイコホラー映画「KILLERS/キラーズ」が1日に全国で公開された。主演は、悪役からお人好しの刑事役までさまざまな役柄をこなす俳優、北村一輝さん。日本とインドネシアの合作となる今作ではサイコキラーを演じている。最初に台本を読んだときは「主人公の心情をまったく理解できなかった」という北村さん。どのように役作りをしていったのだろうか。北村さんに話を聞いた。

ウナギノボリ

 北村さんが演じるのは、野村という日本人男性。野村は、幼いころに死んだ姉に執着するあまり、姉に似た女性を拉致しては残忍な手口で殺し、その様子をビデオカメラに収めて動画サイトにアップしていた。その映像を偶然見てしまったのが、ジャカルタで暮らすジャーナリストのバユ(オカ・アンタラさん)だ。おぞましくも美しさが漂う映像に魅せられたバユもまた、自身が不正を暴くために追っていた政治家を追い詰めるうちに殺しに手を染めてしまう。異国の地に暮らしながら “殺し”によって結びついた2人は、やがて、互いのゲームを決着させるために対峙(たいじ)することになる。

 北村さんには以前から、「米国とかハリウッドとかいうのではなく、南米であれ欧州であれアフリカ、アジアであれ、いろんな国のいろんなスタッフと同じ時間を共有し作品を作りたい」という思いがあった。その点で今作はインドネシアとの合作で、願ってもない話だった。ところが、台本を読んでみると自分が演じる野村は、「まったく理解できず、共感もできなければ感情移入もできない」人物だった。

 そこで、監督の“モー・ブラザーズ”を名乗るインドネシア出身の2人組、ティモ・ジャヤントさんとキモ・スタンボエルさんに「なぜこれを撮ろうとしているのか」と聞いたという。すると監督は「ハリウッドに比べると予算はない。でも、アジアの人間でもすごいものが撮れることを世界に分からせたい。監督としての技術を見せやすいのがこういうジャンルの作品なんだ」と答えたという。それによって北村さんの中で引っ掛かっていたものが氷解し、「そこに僕は乗りたい」と出演を決めた。加えて、プロデューサーに、ギャレス・エバンスさんの名前があったことも大きいという。以前、エバンスさんの監督作「ザ・レイド」(2011年)を見て、たちまち映像のとりこになった北村さんは、自ら志願してその続編となるエバンス監督の「ザ・レイド GOKUDOU」(14年公開)に出演を熱望し、実現していた。

 北村さんといえば、NHK大河ドラマ「天地人」(09年)では偉大な父を乗り越えられず苦悩する武将・上杉景勝を、テレビドラマ「妖怪人間ベム」(11年)では、人情に厚い刑事を、さらに、3月公開の映画「猫侍」ではコワモテながらお人好しの剣豪を演じるなど変幻自在の顔を見せてきた。その役作りについて聞くと、意外にも、めったに自ら進んではしないとのこと。どの作品でも監督の色に染まることを信条にしており、「赤といわれたら赤。でも、赤でもいろんな種類の赤がある。その違いをたくさん持っておく」ことを心掛けているという。今作においても、顔の角度から、目の開き方、言葉の強弱にいたるまで監督の指示通りに演じたそうだ。日本語の発音では「英語圏の人から見て、日本語を意味でとらえるのではなく音でとらえたい」との監督からの指示のもと、普段日本語では使わない言い回しすらやってのけた。アドリブかと思われる場面もあるが、「すべて台本通り」だという。監督の演出を重視する背景には、「僕が自分本位の芝居をすれば周囲のタイミングを狂わせることになる。そうすることでチームの輪を乱すより、みんなが同じ方向を向いているほうがいい」とのチームワークを優先する考え方がある。

 そのチームワークによる“映像マジック”を如実に感じられるのが殺害シーンだ。北村さん自身は抵抗なく演じられ、むしろ完成した作品を見て驚いたというが、例えば、野球のバットを使って女性を殺害する場面では、北村さん自身がアイデアを出したところ、それが採用された。出来上がりを見て、「うわっ、コワッと。俺、こんなにひどいことをした覚えはないのにと思いましたよ(笑い)」と自身の演技を見てひるんだことを打ち明ける。「でも、それが映画なんですよね。みんなでアイデアを出し合って、話し合って、そこにカメラのアングルや音が加わって映画は成り立っている。自分のお芝居というより、みんなの力を借りてやったチームプレー。それこそ、総合芸術の代表的なものだと思います」とスタッフの尽力をたたえる。

 ちなみに今作には、北村さんが生肉を食べるシーンもある。ふやかしたベーコンらしきものをイチゴ味のシロップに漬けたものだったそうだが、北村さんいわく、それが異常に「まずかった」。だが、「出したら怒られる(笑い)」と必死にこらえたそうだ。そういう話を聞くと、集中力がないと思う人がいるかもしれない。「でも、どういうふうに見えるかはできてみないとわからない。自分だけが満足したものが決してOKではない。映画って本当にマジックだと思うんです。もちろん、最後の英語をしゃべる場面では、字幕を入れなくても通じるよう何テイクも重ね、リアルな芝居を大事にしましたが、今回は俺、一生懸命やったんですよという自己満足的なものがない。相手に作品の本質が伝わるように出来上がっている気がします」と仕上がりに自信を見せる。

 完成した今作を“楽しんでもらう”ためには?と聞くと、「楽しむ? これを見てですか?」と目を丸くしたあとで、「カッコいい映画だと思います。野村やバユのほかにもいろんな人間が出てきますが、人間性がどうとか、ストーリーがこうとかということより、その世界観と突っ走り方がすごくカッコいい。それに、ちょっと日本にはない映画だと思います。アングル一つとっても日本とは違います。首から下を撮るなんていうのは、(ジョン・)カサベテス監督の映画かと思いましたよ。僕が客観的に見てもすごい作品だと思うし、最後まで見たいと思いますし、刺激のある作品です」とアピール。そして、「ただ、カップルで見る映画じゃないですね(笑い)」と断りつつ、「僕は、自分が出た作品の中でどれが好きかと聞かれると、いつもないと答えますが、これは数少ない好きな作品の一つです」と胸を張った。映画は2月1日から全国公開。

 <プロフィル>

 1969年、大阪府生まれ。99年「皆月」でヨコハマ映画祭助演男優賞受賞。また、この作品とともに「日本黒社会 LEY LINES」(99年)でキネマ旬報日本映画新人男優賞に輝いた。以降、数々の映画、ドラマに出演。最近では、テレビドラマ「妖怪人間ベム」(2011年)、「ATARU」(12年)とその映画版や、「ダンダリン労働基準監督官」(13年)、映画「テルマエ・ロマエ」「日本の悲劇」(ともに12年)、「真夏の方程式」「劇場版SPEC~結~漸ノ篇/爻ノ篇」(いずれも13年)などに出演。14年の公開作として「トリック劇場版 ラストステージ」「猫侍」「テルマエ・ロマエ2」、さらに今作のプロデューサー、ギャレス・エバンス監督によるインドネシア映画「ザ・レイド GOKUDOU」が控えている。初めてはまったポップカルチャーは、映画誌「ロードショー」と「スクリーン」。はまったのは小学校4年生のころで、「兄貴が買っていたのを読んでいた」という。ちなみに好きになった女優はナスターシャ・キンスキーさんだとか。

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