台湾実在のピアニストで視覚障害を持つホアン・ユィシアンさんの実話を基にした青春映画「光にふれる」が公開中だ。全盲の音大生の青年とダンサーを夢見る少女が夢に向かって奮闘する姿と、仲間との交流をみずみずしいタッチで描き出している。ユィシアンさんの半生を描いた短編映画に感動したウォン・カーワァイ監督が長編映画にすることを企画し、短編と同じチャン・ロンジー監督が手掛けた。第85回アカデミー賞外国語映画賞台湾代表作品。本人役で主演したユィシアンさんは、「もう一度夢に向かって羽ばたきたくなる映画です」と話している。
ウナギノボリ
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自身の青春時代を演じることになったユィシアンさんは、台湾でピアニスト、作曲家、編曲家として活躍している。今作では主演のほか音楽も担当し、2012年の台湾金馬奨で最優秀台湾映画人賞を受賞した。映画は第14回台北映画祭、第17回釜山国際映画祭などで観客賞を受賞。多くの観客に支持され、反響を呼んだ。
「思いのほか大きな反響だったので自分でも驚いています」とうれしそうに語るユィシアンさん。「失いかけた夢をもう一度見てみようと思った」「勇気をもらって、励みになった」などの感想が寄せられたという。
物語は、ユィシアンさんの大学生活を軸にしている。故郷を離れて音大に入学し、寮での1人暮らしが始まった。視覚障害を持つユィシアンの移動の手伝いは日直の仕事。そんな中、ダンサーを夢見るシャオジェ(サンドリーナ・ピンナさん)と出会う。シャオジェとの交流や寮の仲間たちとのバンド活動を通して、ユィシアンは自分の夢を見つめ直していく。
長編映画になる話がきたとき、「期待でいっぱい。ワクワクした」と語る通り、ユィシアンさんはリラックスして演じているよう見える。
「緊張は全然ありませんでした。映画を撮るのが楽しみで、うれしかったから。映画の現場は一つの目標に向かってみんなでやり遂げる。いい雰囲気でした。自分の人生を下敷きにした映画なので、演じられたと思います。もちろん映画なので、実際の青春よりは誇張されていて、ストーリーは起伏に富んでいますが……(笑い)」
監督には「大学時代の経験を思い出して」と言われ、シーンごとに照らし合わせていった。中でも母親とのシーンは実際とまったく同じように描かれたという。校内で演奏室までの道のりを息子と一緒に歩く母親。彼が寮の部屋に入るまでを不安そうに見送る母親の姿が描かれる。
「母は大学まで送ってくれたり、寮の部屋まで連れて行ってくれたりしました。映画の中で描かれる大学に入ってからの挫折は、僕の体験そのものです。寮生活になかなか溶け込めなくて、同級生たちとすれ違っていました。実際はしばらく学校を休んでいましたが、家族や友人の励ましで、また学校に行けるようになりました。周りのお陰でピアニストになる自分の夢を見直せたんです」
アルバイトをしながらダンサーになることを夢見るシャオジェの青春も並行して描かれる。シャオジェの夢は母親に理解されていない。家族に励まされたユィシアンは、今度は励ます側となり、シャオジェの背中を押す。彼の美しいピアノ演奏とシャオジェのダンスとのコラボレーションは、映画の大いなる見どころとなっている。
「友人のために曲を奏でる大事なシーンでした。音楽で彼女の夢の手助けをするんです。彼女の夢に寄り添うような感覚で演奏していきました」
ユィシアンさんは、「音楽にはつらい気持ちの人を温かくする力もある」と力を込めて語る。
「音楽は不思議なもので、聴く人の気持ちを変えることができます。誰の心の中にも音楽があるし、音楽は心に垣根を作らない。そのときの感情を表現できるのがピアノで、僕にとっては生活のパートナーなんです」
大学の仲間たちとライブ演奏するシーンには、ピアノの楽しさが存分に表された。ユィシアンは舞台に立つことで、自分を足踏みさせていた子どものころの嫌な思い出と向き合うことになる。「夢をあきらめない」という気持ちを込めて、自身が作曲を手がけた。
「監督からクラシックを基調にしたメロディーでという指示が出て、僕が曲を書いて、ほかの方がジャズ風のアレンジを加えました。タイトルは『窮地の大反撃』。仲間と団結して演奏して、盛り上げていくシーンです。勇気がもらえるシーンだと思います。誰もがかつて夢を持っていたと思うけど、その夢を信じることができないときもあると思います。この映画をご覧になった方々が、もう一度夢に向かってはばたいて、情熱を取り戻す気分になっていただけたらうれしいです」
<プロフィル>
1987年生まれ、台湾出身。国立台湾芸術大学ピアノ科学士取得(ピアノ専攻視覚障害のある学生として初)。99年、Steinbach音楽芸術協会ピアノコンクール独奏部門で優勝。現在は、ピアニスト、キーボーディスト、作曲家として活躍中。クラシック、ジャズ、ロック、ポップス、ラテンとジャンルは幅広く、即興演奏も得意。大学在籍時に、今作のもとになった短編映画「ジ・エンド・オブ・ザ・トンネル(天黒)」(08年)に主演し、音楽も担当。今作で12年の台湾金馬奨で最優秀台湾映画人賞を受賞した。
(取材・文・撮影:上村恭子)
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