穏やか貴族の休暇のすすめ。
第12話 「リゼルのいない国」
4月1日(水)放送分
ドラマ化もされた「チーム・バチスタ」シリーズの10年後を描いた海堂尊さんの新作「アクアマリンの神殿」(角川書店、7月2日発売)は、「ナイチンゲールの沈黙」や「モルフェウスの領域」などに登場する少年・佐々木アツシが主人公となる先端医療エンターテインメント小説だ。世界初の「コールドスリープ<凍眠>」から目覚め、未来医学探究センターで暮らす少年・佐々木アツシは、深夜にある美しい女性を見守っていたが、彼女の目覚めが近づくにつれて重大な決断を迫られ、苦悩することになる……というストーリー。マンガ家の深海魚(ふかみ・さかな)さんのカラーイラスト付きで、全24回連載する。
あなたにオススメ
【PR】DMM TVの料金が安い理由とは?プレミアム会員の特典・注意点・使い方を徹底解説
◇翔子とアツシ編 2 久しぶりのご対面
黙っていれば儚げな美女なのに、実に惜しい。おしとやか、なんて言葉は金輪際存じ上げません、といわんばかりに、ショコちゃんは滔々と語り始める。
「仕事はちゃんとしているみたいだけど、涼子さんの緻密さにはまだまだ及ばないわね」
「仕方ないだろ。涼子さんはプロ中のプロだったんだから」
久しぶりのご対面なんだから、さりげなく季節の話題あたりから入るべきだと思う。だけど春の挨拶は紋切り型の形式主義になりやすいから、あえてすっ飛ばしたのかな、とも思う。
ショコちゃんはたぶん、そんなことは全然考えていないのだろう。
銀の棺の周りをぐるぐると逍遥するが、これほど逍遥という上品な言葉が似合わない美女も珍しい、というぼくの思いを一気に飛び越えて、いきなりぼくに抱きついてきた。
「ほんと、久しぶりねえ。また背が伸びたでしょ?」
ぼくはどぎまぎしながらうなずいた。トウが立ったとはいえ、ショコちゃんはグラマラスな別嬪だから、いきなり抱きつかれたら思春期の男子には刺激が強すぎる。なのに委細構わずぼくの頬に自分の頬をすりすりすると、ショコちゃんは身体を離し、ぱしりと言う。
「ビタミンB2とカロチン不足ね。明日からニンジンを食べること」
肌をすりすりしただけでそんなことまでわかるのかよ、と心中で毒づきながらも、ショコちゃんには逆らえないヘタレのぼくは、仕方なくうなずいた。
ニンジンは嫌いではない。でも、ニンジンだけもりもり食べる自分を想像すると、馬になったみたいな気分になってしまいそうだ。
<毎日正午掲載・明日へ続く>