海堂尊:新作小説「アクアマリンの神殿」 「バチスタ」の10年後描く 翔子とアツシ編2

ショコちゃんはいつも明るく、アツシの予想を超えた行動をとるのだった。 (c)海堂尊・深海魚/角川書店
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ショコちゃんはいつも明るく、アツシの予想を超えた行動をとるのだった。 (c)海堂尊・深海魚/角川書店

 ドラマ化もされた「チーム・バチスタ」シリーズの10年後を描いた海堂尊さんの新作「アクアマリンの神殿」(角川書店、7月2日発売)は、「ナイチンゲールの沈黙」や「モルフェウスの領域」などに登場する少年・佐々木アツシが主人公となる先端医療エンターテインメント小説だ。世界初の「コールドスリープ<凍眠>」から目覚め、未来医学探究センターで暮らす少年・佐々木アツシは、深夜にある美しい女性を見守っていたが、彼女の目覚めが近づくにつれて重大な決断を迫られ、苦悩することになる……というストーリー。マンガ家の深海魚(ふかみ・さかな)さんのカラーイラスト付きで、全24回連載する。

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◇翔子とアツシ編 2 久しぶりのご対面

 黙っていれば儚げな美女なのに、実に惜しい。おしとやか、なんて言葉は金輪際存じ上げません、といわんばかりに、ショコちゃんは滔々と語り始める。

「仕事はちゃんとしているみたいだけど、涼子さんの緻密さにはまだまだ及ばないわね」

「仕方ないだろ。涼子さんはプロ中のプロだったんだから」

 久しぶりのご対面なんだから、さりげなく季節の話題あたりから入るべきだと思う。だけど春の挨拶は紋切り型の形式主義になりやすいから、あえてすっ飛ばしたのかな、とも思う。

 ショコちゃんはたぶん、そんなことは全然考えていないのだろう。

 銀の棺の周りをぐるぐると逍遥するが、これほど逍遥という上品な言葉が似合わない美女も珍しい、というぼくの思いを一気に飛び越えて、いきなりぼくに抱きついてきた。

「ほんと、久しぶりねえ。また背が伸びたでしょ?」

 ぼくはどぎまぎしながらうなずいた。トウが立ったとはいえ、ショコちゃんはグラマラスな別嬪だから、いきなり抱きつかれたら思春期の男子には刺激が強すぎる。なのに委細構わずぼくの頬に自分の頬をすりすりすると、ショコちゃんは身体を離し、ぱしりと言う。

「ビタミンB2とカロチン不足ね。明日からニンジンを食べること」

 肌をすりすりしただけでそんなことまでわかるのかよ、と心中で毒づきながらも、ショコちゃんには逆らえないヘタレのぼくは、仕方なくうなずいた。

 ニンジンは嫌いではない。でも、ニンジンだけもりもり食べる自分を想像すると、馬になったみたいな気分になってしまいそうだ。

<毎日正午掲載・明日へ続く>

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