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怪しい彼女:ファン・ドンヒョク監督に聞く 「トガニ」から3年「こんな映画を?と思わせるくらい違う」

映画

 70歳の口うるさいおばあちゃんが、突然、50歳も若返り、歌手になるという夢を実現させていく韓国のファンタジー映画「怪しい彼女」が全国で順次公開中だ。とっぴながらも心温まるストーリーが展開する今作は、ストーリーの面白さもさることながら、20歳のヒロイン、オ・ドゥリにふんしたシム・ウンギョンさんの、歯に衣着せぬ物言いや、“おばあちゃん丸出し”の振る舞い、さらに歌唱力も見どころだ。メガホンをとったのは、実話を基にして社会的物議をかもした「トガニ 幼き瞳の告発」(2011年)で知られるファン・ドンヒョク監督。「実際の僕はすごく面白い人間。『トガニ』の監督がこんな映画を?と思わせるくらい違った映画を作りたかった」と話すドンヒョク監督に今作について聞いた。

 −−7年前に書かれたシナリオを、ドンヒョク監督が脚色したそうですね。

 最初のシナリオは、おばあさんが若返って料理をするという話でした。でも出資者が現れなかった。その後、製作会社は新しい作家に手直ししてもらったり、いろんな監督に話を持ち掛けたりしたそうですが、やはりうまくいかず、巡り巡って僕のところに話が来ました。その時点のシナリオでは、ヒロインはオ・ドゥリという名前ではなかったし、彼女が憧れる女優もオードリー・ヘプバーンではなく、昔の韓国の女優のキム・ジミさんでした。しかも、若返った時の姿が八頭身のセクシー美女。僕としては見飽きた感があったので、ちょっと“天然”も入っていて、突拍子もない行動をする予測不能のキャラクターに作り変えていきました。

 −−それが、今回の主演シム・ウンギョンさんにぴったりはまったわけですね。ウンギョンさんは現在20歳。監督から見たウンギョンさんの魅力はどういうところでしょう。

 彼女のことは子役の頃から見ていましたが、本当にいい目をした女優だと思っていました。それに、この年代の女優の中では右に出る者がいないほどの素晴らしい演技力を持っている。「サニー 永遠の仲間たち」(11年)では方言を使ったダサい役、「王になった男」(12年)では悲運な女官役と、幅広い演技を見せてくれていました。

 −−ウンギョンさんが、歌がうまいことはご存じでしたか?

 知りませんでした。キャスティングをしたのはあくまでも演技を見てのことで、うまく歌えなければ、声質の似ている人に吹き替えてもらえばいいと思っていました。ところが本人に聞いてみたら、子供の頃に声楽を習っていて、歌も音楽も大好きだと。だったら、基本的な歌唱力を持っているのだから、少し練習すればいけると思いました。劇中、彼女が歌う曲(1970年代後半の韓国のヒット曲)も、彼女の澄んだきれいな声に合うよう編曲しました。彼女の歌は、この作品において一つの収穫でした。

 −−クライマックスのコンサートシーンでは、オ・ドゥリとコンサートの客に一体感がありました。

 あの場面は、体育館を3日間借り切って撮影しました。観客、楽器の演奏者を合わせて900人もの人を動かさなければならず、カメラも4台同時に回して撮りました。技術的に難しく、とても苦労したシーンです。ウンギョンさんも、大勢の人を前に演技をしつつ、動きながら何度も歌わなければならなかったので、体力的にきつかったと思います。でも、彼女は疲れている様子を一切見せず、ベストを尽くしてくれました。エキストラの方々も本当のコンサートのように声援を送ってくれました。みなさんのそうした苦労のおかげでいいシーンが撮れました。

 −−オ・ドゥリが自分の祖母だと気づいていないアマチュアバンドのリーダー、パン・ジハを演じていたのは、韓国のアイドルグループ「B1A4」のリーダーでありボーカルのジニョンさんです。彼のことはオーディションで決めたそうですが、決め手はどのようなところだったのでしょうか。

 オーディションを受けに来た人はとても多く、その中には、他のアイドルグループの人たちもいました。もちろん、ジニョンはその中で一番演技がうまかったのですが、同時にその時、「自分の夢は、実は俳優になることだ。今は少し道が変わり歌手をやっているが、本当にやりたいのは演技だ」と言っていたのがとても印象的でした。ほかのアイドルグループの人たちには、どこかしら、自分の本業は歌だから、今回の結果がダメならダメで仕方がないという気持ちが見えました。ところがジニョンは、新人俳優がオーディションを受けに来たみたいに真剣なのです。演技力もさることながら、そういう誠実さと情熱があったので、彼に決めました。

 −−ドゥリが洋服を買いにいくシーンは、音楽も演出もハリウッド映画の「プリティ・ウーマン」(90年)を思い起こさせました。

 その通り、あれは「プリティ・ウーマン」に対するオマージュでありパロディーです。実は、韓国で上映された時、あの場面では「プリティ・ウーマン」の曲が流れていたのです。でも、韓国での上映なら著作権料はまだ安く済みますが、外国で配給するとなると高くなり過ぎるので、雰囲気が似た著作権料があまり高くない曲にしたのです。それと、「プリティ・ウーマン」では、ヒロインは米ロサンゼルスのロデオドライブで高級ブランド服を買いますが、今回は町の市場で安物の洋服を買っている。そこが「プリティ・ウーマン」のパロディーたるゆえんです。

 −−この映画から、「母への愛」と「個性の大切さ」というメッセージを受け取りましたが、監督ご自身は今回の作品にどのようなメッセージを込めたのでしょうか。

 今までこの映画を見て、「個性」という話をした人はいませんでした。確かに以前に比べて、今はインターネットの影響を受けて、みんなが同じような流行を追いかけ、個性がなくなって見えるかもしれませんね。でも僕は、そこまで壮大なメッセージを込めたつもりはありません。僕が考えたのは、これを見終わった時、田舎にいる両親を思い出し会いに行きたくなる、あるいは、電話を1本かけて「会いたい」と言いたくなるような、そんな映画になってほしいということでした。それと、この映画を見た人の中に、「自分が生きている人生では、今の自分が一番若いはずだから、今この瞬間を大切に生きていかなければいけないと思った」と言ってくれた人がいました。僕自身、そこまで考えていませんでしたが、見た人がそういうメッセージを感じてくれたらうれしいですね。

 <プロフィル>

 1971年生まれ、韓国・ソウル出身。ソウル大学でジャーナリズムを専攻。卒業後、米国の南カリフォルニア大学で映画製作を学ぶ。2007年「マイファーザー」で長編映画監督デビュー。その後、実話に基づき制作した「トガニ 幼き瞳の告発」(11年)は470万人もの観客を動員。この映画は社会的な反響を呼び、児童に対する性暴力犯罪をより厳罰化する通称「トガニ法」を生むきっかけとなった。

 (インタビュー・文・撮影:りんたいこ)

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