コミックマーケット:“無人島”が“宝島”へ 今回は艦これ

コミケへの意気込みを語る小新井涼さん
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コミケへの意気込みを語る小新井涼さん

 8月15~17日にマンガの祭典「コミックマーケット86」(コミケ)が東京ビッグサイトで開かれる。週に約100本(再放送含む)のアニメを視聴し、コミケにもたびたび参加している“オタレント”の小新井涼さんがコミケについて語る。

ウナギノボリ

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 さて、オタク=コミケ参加者とは必ずしも限らないのですが、その規模や盛り上がりをみるに、コミケは「オタクによるオタクのための日本最大級のオタクの祭典」と言っても過言ではない……はず! 実際は祭りであり戦場でもあるのですがね。

 コミックマーケット、通称“コミケ”はいわゆる「同人誌即売会」の規模が大きくなったもので、同じ趣味嗜好(しこう)の人々同士が創作物や親交を交わす場です。

 買い手を「一般参加者」、売り手を「サークル参加者」、商品を「頒布物」と呼ぶことで営利目的の商業イベントではない、あくまでも「参加者全員で作り上げるファン同士のイベント」に近い形をとっています。

 そのために、死にものぐるいな私たち一般参加者よりもさらに過酷な環境にいるスタッフさんたちも、そのほとんどが「参加者」としてボランティアで働かれているというから驚きです。

 それでいて世界的にも感心されているあの列整備のクオリティーを保つとは……。「地面が見えたらコミケじゃない」という名言が指す高いポリシーと、参加者全員のジャパニーズオタクモラルがうかがえます。

 「走らないでください!あなたの(同人誌の)嫁は逃げません!」などの有名なせりふをはじめ、スタッフさん自身も何かしらのオタクであることが多いコミケならではの「コミケスタッフの名言」も名物のひとつです。その時期に放送されているアニメのせりふなどをもじったものも多く、そんな“同志”からの呼びかけには喜んで従ってしまうオタクの性(さが)を活用した名言の数々には毎回感服してしまいます。

 そんなクスっとしてしまうような瞬間はありつつも、夏はお盆・冬は年末という暑い寒いの最高潮な中で行われるコミケは、環境的にはかなり過酷なイベントです。

 特に「夏コミは太陽が昇ってからが地獄、冬コミは太陽が昇るまでが地獄」との言葉から分かるように、夏のコミケは祭りどころか戦場どころかもはや地獄。なめてかかるといろんな意味で帰ってこられなくなります。

 かく言う自分のコミケ初参加も高校3年生時の夏コミでした。同じくコミケ初参戦の弟を連れて、その夏休みの間、コンビニのバイトで地道にコツコツ稼いだ7万円を“実弾”という名の500円玉と1000円札にかえていざ参戦!とはいっても浮かれてばかりはいられません。初参戦のイベントで大切なのはなんといっても事前調査! そう思ってコミケ参加の心得を検索すると、出てくるのは「屋根のない駐車場待機列で受ける直射日光攻撃」やら「人が多くて携帯がまず通じなくなる」などのものから「コンビニから水が消える」だの「参加者の熱気で会場に雲ができる」なんていう都市伝説的な逸話まで、とても都心での出来事だとは考えられないサバイバルな情報ばかり。東京かぶれな田舎者のわたしは未知の世界への恐怖に戦慄(せんりつ)しながら「コミケ会場」=「無人島」と把握したのでした。

 そんな感じで参戦前からかなりビビっていたおかげか、水分をはじめ糖分塩分が取れる氷砂糖と梅干しの装備、日差し対策や冷却グッズをはじめ突然の夕立ちに備えた雨具の用意などなど、修学旅行前日ばりの確認もして事前準備の方はばっちし! 当日は猛暑の中、体調を崩すことなく、無事に当時ハマっていた某咎狗(とがいぬ)の血関係のいかがわしい薄い本を実弾の許す限り買いあさることができたのです。お財布は信じられないほど軽くなりましたが荷物は信じられないほど重くなりました。

 途中、弟が音信不通になるなどのトラブルはありましたが、これも自宅電話を介してなんとか合流に成功。まさかの「取り次ぎ電話」の片りんを味わうことで、電波が通じる現代社会の便利さをコミケを通して痛感するなんてこともありました。

 とは言ってもこれだってここ10年の話で、晴海での開催時なんかはもっと過酷な環境であったというのだから恐ろしいです。最近では毎回、各電話会社がコミケ用の移動基地局を設置したり、周囲のコンビニも商品在庫をそろえ、臨時の交通手段も十分なため、当時ほど陸の孤島感はなくなって、かなり過ごしやすい環境になってきました。それでも電波状態や列の長さなどを考えると、やっぱり携帯のバッテリーと飲食物は必須ですね!

 と、ここまで散々地獄だの無人島だのと言ってきた夏コミですが、いったん買い物に夢中になってしまえば、そこは一気に宝島へと変わります。自分も今回は会場マップという名の宝の地図を片手に、無事にプリティーリズムの合同誌を手に入れているはず!(開催前現在の願望)。

 今年の夏コミはサークルのジャンル別にざっくり分けると1日目がアニメ・ゲーム、2日目がマンガ、3日目が男性向け・創作の日となっておりました。

 ここから各日さらに細かく作品や取り扱い物ごとのジャンル分けがなされていくのですが、サークル参加の申し込み期限(夏コミの期限は冬コミ後約1カ月)の関係で人気作品に毎回約半年のズレがあるため、その間で爆発的に人気が出たジャンルの需要と供給のバランスが取れなくなったりと独特の流行ジャンルの傾向を見ることができます。

 今回の夏コミは前回あたりから特に人気が出ていた“艦これ”こと「艦隊これくしょん」が新しくジャンルコードに追加され、1ホールを丸々使うくらいの大手ジャンルとなりました。逆に1期放送時からの女性向け人気ジャンルである「Free!」は2期が現在放送中のため、新キャラの宗介がらみのサークルはなかったりするのです。

 今後は、男性向けでは前述の「艦これ」の他、春に2期が放送された「ラブライブ!」などが、女性向けでは春アニメの「ハイキュー!!」をはじめ「Free!」関連のサークルや「ダイヤのA」なんかがさらに増えていくのではないか……などなど、今の放送中作品をもとに次回以降のサークル数やコスプレの増減なんかを予想するのも面白かったりします。

 興味はあるけど参戦は気が引けるという方は、コミケ創設者の一人である故・米沢嘉博さんの母校、明治大学には「米沢嘉博記念図書館」がおすすめ。歴代のコミケカタログも有料で閲覧することができるので、そこで人気作品の傾向やコミケの開催遍歴を見ることができます。

 このように、独特な制度や楽しみ方が盛りだくさんなコミックマーケットは、やっぱりアニメをはじめとした創作活動がさかんな日本独自のイベントとして、世界に誇れる「オタクによるオタクのためのオタクの祭典」だと思います。ギリシャと言ったらオリンピック、ブラジルと言ったらリオのカーニバルなんかと並んで、日本のお祭りと言ったらコミケ!ってなったら面白いです。何だか少し恥ずかしいですけど。

 そんな歴史的にも有名なイベントになるくらい開催され続けていけるよう、会場のルールやマナーを守り、激しく熱いお祭りを参加者全員で楽しんでいきたいですね!

 有明の水平線に勝利を刻みましょう!

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。アニメ好きのオタクなタレント「オタレント」として活動し、ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」やユーストリーム「あにみー」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)のアニメを見て、全番組の感想をブログに掲載する活動を約2年前から継続。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、社会学の観点からアニメについて考察、研究している。

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