人気ホラーアドベンチャーゲーム「零」シリーズを原案に実写映画化した「劇場版 零~ゼロ~」が全国で公開中だ。マンガ「多重人格探偵サイコ」などで知られる作家で民俗学者の大塚英志さんの小説が原作で、外界から閉ざされた女子高の寄宿舎を舞台に、“呪いのおまじない”を信じる生徒が次々に失踪し、不可解な死を遂げる事件が描かれる。メガホンをとったのは、ホラー作品を多数手がける安里麻里監督。安里監督に今作で挑んだ新たな試みやホラー的な演出、映画初主演となるモデルで女優の中条あやみさんをはじめキャスティングへのこだわりなどについて聞いた。
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今作における恐怖表現について、安里監督は「いろんなホラーがあって怖さの種類もいっぱいあると思う」と前置きし、「『零』に関しては幻想的で『きれいなんだけど怖い』という、ちょっと特殊な世界観をやってみようということで作った」と作品のテーマを明かす。特殊な世界観とは特定の時代設定がなかったり、物語の舞台が都会ではなく山間であるなど“閉じられた世界”のことを指す。監督自身、閉鎖的な世界観を採用した今作を「最近ではめずらしい」と評し、「私自身もいろいろホラーを撮ってきたが、どちらかというと女子高生が出るものは都会や街を舞台にして作られているものが多いと思う」と分析する。
ここ10~20年ぐらいの日本のホラー映画は、監督が指摘するように都会を舞台にした女子高生ものが多数発表されている。「ゲームを原案に大塚さんが書いた原作の小説を基に脚本を作るにあたって、都会的な女子高生ホラーではない、もうちょっとフィクション度の高いもの」を目指したという。「山間でしかも寄宿舎が舞台という、いつの時代なんだと(笑い)。そういう所を舞台にした女子高生ものを作ろうということになった」と自ら突っ込みを入れつつ、世界観を作ったいきさつを説明する。
脚本も手がける安里監督は原作者の大塚さんとは「どういう色のホラーにすべきか」と方向性について熱く議論したという。「アクションホラーにだってJホラーにだってできたと思うし、いろんな方向性があった」と振り返り、「今回は全然それらとは違う方向に結果的になった」と話す。具体的には「たとえば血が出ないこと」を例に挙げ、「人は死ぬけれど、きれいなまま死ぬ。何か夢うつつな感じの世界観だったり、女の子たちだけの世界にするなど閉鎖的で、さらに“百合的な要素”も(笑い)。そういう世界観が(この作品の)大事なところだった」と力説。さらに「Jホラーなどで、今まで流れとしてあるような、夜にうすぼんやり(幽霊などが)後ろにいるというのとは違うホラーのテイストを何かやれないか」と考え、「“昼のホラー”ではないですが白昼夢として幻を見るとか、最近見ないような演出を心掛けた」という。
ゲームが原案であることを「ゲームの中では水と美少女が大事な要素ですが、もし自分がゼロから作ったらクラス全員が美少女みたいな虚構の世界はなかなか書かない……」と笑顔で語り、「ゲームが持つ特殊な世界観は面白いチャレンジだった」と振り返る。さらに水を使った印象的なシーンが数多くあることも「水についても撮影がすごく大変なので普段だったら絶対やらない」と新たな試みができたことを喜び、「水って面白い」と感想をもらした。水を「映画の中に出てくるとこんなに強度をもつもの」と感じ、「水は地上の光とは屈折の仕方が違い、前後に光が当たっているみたいなぼんやりした独特な感じが気持ち悪かったりするのかもしれない」と水から伝わる恐怖感を分析する。
今作で主役のアヤ役を演じた中条さんは、映画初出演にして初主演という大役を担った。安里監督は中条さんに「会う前から感じていたんですが、なにか神秘的な美しさをもっている」という印象をもっていて、「10代は健康的な可愛い子はいるが、影をもっている美しい人というのはあまり見当たらない。中条さんは魅惑的でそういう種類の美しさがあると思った」と期待を寄せた。実際に対面すると「そんな暗い子じゃなく、とても明るい元気な子でした(笑い)」と言い、「接してみて思ったのは意外とガッツがあって、か弱そうな顔をしているけど結構へこたれない。難題があっても頑張る子」と驚き、「優しい子だけどちゃんと強さがあっていいなと思った」とべた褒めする。
アヤとともに事件に深入りしていくミチ役は森川葵さんが演じている。安里監督は「アヤとは対照的な役柄で、主人公が何を考えているか分からないミステリアスな美少女である一方、翻弄(ほんろう)される側で感情的な芝居が多い役」とミチ役を解説し、「本人はとっても変わった女の子で、10代にしてすでに自分の世界観がはっきりある子。“女優感”を感じた。末恐ろしいなと思います(笑い)」とユーモアたっぷりに表現。「とても対照的で面白い2人だった」と2人を評した。
中心人物を演じる2人以外にも美少女がそろっている作品だが、「クラスメートとして映るエキストラの女の子たちもオーディションをして、全員10代というところ」にこだわった。「私自身、映画はそもそも“うそ”だから、別に20代が制服を着てもいいだろうといつもは思う」と笑顔で切り出しつつ、「今作は雰囲気が大事だと思い、子供なのか大人なのか分からない境目にいるような“固まっていない”年頃の子を集めることで、出てくる雰囲気や、かもし出すものがあると信じ、こだわった」と強調する。若い女の子だらけの現場を「とてもいい雰囲気」と笑顔で語り、「男の子たちが集まるのと女の子たちが集まるのでは全然空気が違う」と言い切る。「どちらも面白いけど、女の子って癒やされる(笑い)。みんなけなげで一生懸命でいじらしく、いい空気でした」とほほえむ。
お気に入りのシーンとして「やりたかったところでもあるけれど、女の子たちが集団で倒れていく」場面を挙げ、「なにか夢を見ているみたいなところで、女の子たちが連鎖するように倒れていくところは、撮影が大変だったけど好き」という。学園の生徒たちが歌うオリジナル合唱曲が恐怖を増幅させているが、「歌詞については(『ハムレット』の)『オフィーリア』という絵も出てきますが、合唱もオフィーリアにちなんで森鴎外の和訳したもので合唱曲を作ろうとなった」と明かし、恐怖を煽る上では「音楽はかなり大きい」と話す。
監督は映画自体、大好きで「ホラーに限らず雑食で、なんでも見ます」といい、「ホラーは好きなジャンルの一つ」と言い切る。今作の見どころは「ホラー映画はどちらかといえば男の人向けなところがあると思う」という風潮があるといいつつも、「今回の映画は女の子のために作られているような、女の子のためのホラーといってもいい側面があると思う」と強調する。続けて「普段ホラーが好きな方にももちろん見てほしいですが、普段ホラーは見ないというような女の子にも見てほしいと思います」とメッセージを送った。映画は全国で公開中。
<プロフィル>
1976年生まれ、沖縄県出身。横浜国立大学在学中に映画美学校に1期生として入学。卒業後、塩田明彦監督や高橋洋監督の作品で助監督を務める。2004年に「独立少女紅蓮隊」で長編作の監督デビューを飾り、「怪談 新耳袋」第4シリーズなどテレビドラマにも進出。主な監督作品に「呪怨 黒い少女」「トワイライトシンドローム デッドゴーランド」「リアル鬼ごっこ3・4・5」「バイロケーション」など。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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