女優の安藤サクラさんが女性ボクサー役で主演を務める映画「百円の恋」(武正晴監督)が全国で公開中だ。今作は、故松田優作さんの出身地である山口県の周南映画祭で、2012年に新設された脚本賞「松田優作賞」の第1回グランプリに輝いた足立紳さんの脚本を、映画「イン・ザ・ヒーロー」(14年)の武監督が映像化。安藤さん演じる32歳で引きこもりの一子が、中年ボクサー狩野と知り合ったことでボクシングと恋愛に目覚め次第に変わっていく姿を描いている。一子がボクシングを目指すきっかけを与える中年ボクサーの狩野を演じている俳優の新井浩文さんに、役作りや安藤さんの印象などを聞いた。
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今作への出演オファーがあった際、渡された台本を読んで新井さんは「とてもすてきな(台)本」という印象を持った。「どの作品でもそうですが、いい台本というのは感覚的、感性的になってしまい、『ここがいい』からいいというのではなく、もちろん全体的な構成とかも含めてのよさなので全体的に面白かった」と自身が感じた台本のよさを説明する。さらに出演を決めた要因を「サクラがやるのは決まっていて、武さんという監督がいる。それで本が面白いなら当然やる」と明かし、出演に際し「ボクサー役なので、体作りに関してのトレーナーさんは用意してください」とオーダーしたという。
演じるのは中年プロボクサーの狩野祐二。体作りについて「プロがみんな言っているし、人間の体は運動と食事以外では変わらないと思う」と語り、「ところが両方とも大変。運動も普段していないし……」と苦笑い。トレーニングには「3カ月ぐらいかけた」といい、「ジムで走るくらいはやってもバリバリの筋トレや食事制限は普段やらないから、そういうのは全部(日常から)変えていった」とハードな日々を振り返る。
長い時間を費やして体を鍛え上げたこともあってか、印象に残っているシーンとして「ボクシングのシーン」を挙げ、「自分の試合シーンもそうだし、サクラの試合シーンもそうで、一つの見どころにもなっている」と新井さん。続けて、「今回についてはサクラの足を引っ張らないようにと決めていて、そのうちの一つが、ボクシング映画ではないが、ボクサーに見えるということが大前提にあった」と話し、「(ボクサーに)見えなかったら説得力がないから、とても印象に残っている」と実感を込めた。
ちなみに、撮影が終了した現在では「全然戻しましたというか、(体形が)戻りました」とトレーニングは止めたそうで、「運動はいいのですが、むきむきの体ではない役も来るから、基本的に役をやる時に(筋トレは)やればいい」と持論を展開。そして、「ナチュラルな状態がベストで、オファーが来たら(役に応じて)やせたり筋肉を付けたり太ったりすればいい」と役柄と体作りについてのスタンスを語る。
肉体面以外での役作りについては、「今回に限らず、基本的に台本でいろいろ考えるけれど、それをまっさらにして忘れて現場に行くという作業をする」と打ち明ける。「監督がすべてなので、監督の言うことをなるべくやりたいし、やるだけ」と言い切る。今作の場合も「普段からアドリブなど余計なことは一切しない」と前置きし、「台本が素晴らしく、そのままやればいいのではと思っていた」と感じ、自身の考えに基づいて演じた結果、「監督との誤差もあまりなく、誤差がないから演出という演出もさほどなかった」と同じ方向性を共有できたことを明かした。
新井さんと安藤さんは何度か共演はあるが、しっかりとからむのは今作が初めてだったという。「映画にこだわって生きてきているので、映画でやっている人や映画に選ばれている人も好き」と切り出し、「映画のにおいがする女優さんや俳優さんがすごく好きで、そういう人たちと仕事をしたいし、ものを作っていきたいというのが根っこにある」という。その上で安藤さんを「すてきな女優さん」と絶賛し、「サクラも映画の女優さんなのでそういうにおいが一緒というのはある」と共感を寄せる。
安藤さん演じる一子という女性をどう思うか聞くと、「普段、同級生とかで一緒にいたら話さないんだろうなというタイプ」とユーモアを交えつつ表現し、「台本を読んでいるからどういう人間というのは多少分かっていて、引きこもりになるのにハッキリしているところがあって、自分を持っていたりする」と続け、「人間はなかなか変われないですから、変われるというだけで(一子は)すごい」とほほ笑む。自身が演じる狩野については、「いいやつか悪いやつかは付き合ってみないと分からないけれど、あまり友達にはなりくたいないし、なれないだろうなという感じ」と冗談めかして語る。
一子と狩野は、ありそうでもあり、なさそうでもある、ある意味で衝撃的な出会いを果たす。2人の出会い方について新井さんは「もちろんありです」といい、「例えば、普段行っているコンビニや飲食店などで働いている子を見て、『可愛い』と思ったりするのは、出会い的には全然いいのでは」と同調するも、「2、3回会って声を掛けてというのは、正直やったことがない」と笑う。さらに「台本通りなのですが、ああいうのは理解できないというか、でもそうしたいんだろうな」と狩野の心情を思いやり、「(声を掛けないと)物語も進まないしね」と言って笑いを誘う。
一子と狩野のような衝撃的な出会いのような体験はあるかと尋ねると、「映画の監督だったりプロデューサー、俳優だったり、作品にも出合うとか、そういった意味ではたくさんある」と新井さん。続けてポップカルチャーとの出会いを尋ねると、「小学生ぐらいの頃にファミコン(ファミリーコンピューター)」と明かし、「あと覚えているのはキン消し(筋肉マン消しゴム)やビックリマン(チョコ)かな」と話し、男の子らしい趣味だったことが分かった。
不器用な人間が懸命にもがいている姿を描く今作は、ラストシーンでは気になる展開を見せる。「映画は正解がないから、お客さんが好きなように思って、楽しんでもらうというのも醍醐味(だいごみ)」と語る新井さん。「余韻、空想とかも含めて映画だと思うので、どのシーンに関してもみんな知りたがるけど、どう思ってくれてもいい」と自身の考えを語り、「やっぱり人間って何を考えているか分からないので……」と理由を説明した。そんな新井さんに今作の魅力を聞くと「もちろん全部ですが……」と前置きし、「安藤サクラ演じる一子という女の子が変わっていく生きざま」といい、「安藤サクラを見に来てください!」とアピールした。テアトル新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開中。
<プロフィル>
あらい・ひろふみ 1979年1月18日生まれ、青森県出身。2002年に「青い春」で第17回高崎映画祭最優秀新人男優賞、12年の「アウトレイジ ビヨンド」では第22回東京スポーツ映画大賞男優賞を受賞。主な出演作に「BOX 袴田事件 命とは」(10年)、「赤い季節」(12年)、「永遠の0」(13年)、「愛の渦」(14年)、「近キョリ恋愛」(14年)、「まほろ駅前狂騒曲」(14年)、「寄生獣」(14年)などがある。また15年には出演作「寄生獣 完結編」の公開を控えている。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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