チャン・ロンジー監督:台湾映画「共犯」を語る 「二転三転していく展開を楽しんで」

最新作「共犯」について語った台湾のチャン・ロンジー監督
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最新作「共犯」について語った台湾のチャン・ロンジー監督

 昨年の東京国際映画祭で絶賛された台湾映画「共犯」が、25日から公開されている。少女の死をきっかけに知り合った3人の男子高校生が死の真相を探り出していく中に、いじめ、ソーシャルネットワークサービス(SNS)などを背景にした若者の孤独を映し出す。視覚障害を持つ実在のピアニストの青春時代を描いた「光にふれる」(2012年)のチャン・ロンジー監督の長編第2作だ。このほど来日したチャン監督は「二転三転していく展開を楽しんで」と語った。

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 ◇死んだ少女と男子高生3人に若者の孤独が浮かぶ

 映画は、いじめられっ子の男子高校生ホアン(ウー・チエンホーさん)が通学路で同じ学校に通う女子生徒シャー(ヤオ・アイニンさん)が倒れているのを発見するところから始まる。そこへ、偶然通りかかった別の男子生徒、イエ(チェン・カイユアンさん)とリン(トン・ユィカイさん)。事故なのか、自殺なのか。シャーへの好奇心が芽ばえた3人は、死の理由を探り始め、そこにいじめがあったのではと想像していく……というストーリー。

 何の接点も持たなかった高校生たちが、少女の死で結びついていく物語の脚本に引かれた理由を、チャン監督は「まず、前作『光にふれる』と同じように若者が主人公ですが、全く違ったテイストだったことです。サスペンス要素に興味を持ちました。脚本には若者が成長過程に出合う孤独と痛みが描き込まれていて、僕自身、将来の不安がつきまとっていた10代のころを思い出して、悩み多き高校時代にいる孤独をぜひ描いてみたいと思いました」と説明する。

 主要キャスト6人は、オーディションで選んだ。「シングルの家庭の子供たちを中心にオーディションをしました。多くの子供たちが誰かに認められたいと思っていることを知り、彼らのそんな思いや経験を演技に生かせないかと思いました」と選出理由を話す。

 6人のうち演技経験のあったのは2人のみだ。「役の中の人物に気持ちがついていけるよう、時間をかけながら引っ張っていった」とチャン監督。「例えば、わざと不愉快な言葉を投げかけて、その子が持つ過去の痛いところを突いたり、頑固な性格を利用して、厳しく接したりもしました」と明かす。

 そのかいあって、無邪気な笑い顔から怒り、焦りまで、微妙な表情が引き出された。男子3人が少しずつ仲よくなっていき、死んだシャーの部屋に忍び込んだり、湖ではしゃいだりする姿には、明るさと冒険を感じさせる。が、ある事件をきっかけに、映画はサスペンスタッチになっていく。

 ◇顔が見えない今のいじめは強烈

 後半になるに従い、亡くなったシャーの存在が浮かび上がっていく。シャーは母親と2人暮らしだが、母親は仕事に忙しく、不在がち。学校に友人もいなく、孤独で愛に飢えている。そんな彼女の気持ちを、部屋の中に表現した。「色彩であふれる部屋は、学校の単一な色彩とコントラストをなしています。物には恵まれているけど、シャーの心の中は空っぽ。灰色なのです」と話す。

 男子高校生たちは最初、SNSへの書き込みでシャーを知っていく。そこには悪意あるうわさが並べたてられている。現代のいじめについてチャン監督は「顔が見えないことで大胆で強烈になった」と語る。「以前は、事件は限られた場所で起きて解決できたが、(今は)拡散していってしまう。人と人の関係が疎遠になっているから、他人を非難していいという空気が蔓延(まんえん)している」と話し、「でも、人間は誰もが二面性を持つと思う」ともつけ加える。その思いを、男子高校生のキャラクターに描き込んだ。

 「不良っぽいイエは、とても優しく人情味がある。リンは優等生だが、責任感がない。でも、彼らは出会ったことで、大事なことに気づいた。人間はいろいろなことに出合わないと、本当に大切なことが何なのか、気づかないものです」とキャラクターを表現する。

 それぞれの違った面が見えてくる後半から、新たな視点で物語が進んでいく。「映画はある意外な出来事が起きて、真相が一度、闇に包まれます。詳しくは言えませんが、その後、思わぬ展開になっていき、二つの真相が浮上していきます。海外の上映では、国によって反応がさまざまでしたが、そこを楽しんでほしいと思います」とアピールする。

 なお、主題歌「孤濁」は、チャン監督がファンだという日本のバンドFlumpoolによるもの。「強く儚(はかな)く」を中国語詩に書き下ろして歌っている。
 
 出演は、チエンホーさん、カイユアンさん、ユィカイさん、アイニンさん、ウェン・チェンリンさん、サニー・ホンさん、リー・リエさん、アリス・クーさんら。25日から新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほかで公開中。

 <プロフィル> 

 台湾生まれ。国立台湾芸術大学大学院応用媒体芸術研究所卒業。2001年、国立成功大学70周年記念ドキュメンタリー「青春歳月」で初監督。08年、短編映画「天黒」で台湾映画祭と台湾金馬奨で最優秀短編賞を受賞。同作品を長編化した「光にふれる」が台湾金馬奨で最優秀新人監督賞、台北映画祭で主演女優賞(サンドリーナ・ピンナさん)を獲得。米アカデミー賞外国語映画賞台湾代表にも選ばれる。

 (インタビュー・文・撮影:キョーコ)

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