田辺誠一:主演作に懸ける思い “画伯”活動の楽しさも明かす「芝居にも影響ある」

役に懸ける思いや画伯活動について語った俳優の田辺誠一さん
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役に懸ける思いや画伯活動について語った俳優の田辺誠一さん

 俳優の田辺誠一さんが主演のドラマ「連続ドラマW 撃てない警官」がWOWOWプライムで放送中だ。警察組織でうごめく出世争いや復讐(ふくしゅう)劇を描いたドラマで、田辺さんは出世欲と正義感のはざまで揺れるエリート警官・柴崎令司を演じている。役に対する思いや主役を演じることについて、そして個性的なイラストを発表し続ける“画伯”としての活動などについて田辺さんに聞いた。

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 ◇低空飛行なりに頑張れた

 「撃てない警官」は、安東能明さんの同名小説(新潮文庫)が原作。出世欲むき出しで警察組織を渡り歩こうとしていた警視庁のエリート警官の柴崎(田辺さん)だが、部下が拳銃自殺した不可解な事件の責任を問われて左遷される。わなにかけられたことに気付いた柴崎は、事件の真相究明だけでなく出世コースへの復帰に向けて計画を練る……というストーリー。柴崎の妻・雪乃役で中越典子さん、雪乃の父の山路役で山本學さん、上司の課長・中田役で石黒賢さんらが出演している。

 オファーを受け、「一筋縄ではいかない」という印象を受けた田辺さん。だが、台本を読むと、どの登場人物も白か黒かでは判断できない分かりにくさがあった。そうした部分が、今の世の中の流れとは異なっているようで「分かりにくくて面白い」と思ったという。「今は、世の中が白か黒かみたいになっちゃってる。間違っている人を、間違っていない人はとことんまで責めていく。一つの側面だけで、全体が否定されたりもする。そういうところが昔に比べると厳しい世の中になっていると思う。でも、このドラマはいい意味でグレー」とドラマのポイントを語る。

 一筋縄ではいかない主人公役を演じる上で、田辺さんが意識したのは「幸せ」だった。ドラマで描かれる柴崎は正義よりも組織での出世を優先するタイプだが、そんな柴崎でも仕事や家庭の中で、幸せを感じる部分はある。そこを軸にすることで、人物像を浮かび上がらせようと考えた。「ドラマの登場人物も、今生きている僕達も、世界中の人たちに共通しているのはたぶん、『幸せになりたい』ということだと思う。そこを軸にした」と田辺さんは話す。

 とはいえ、複雑な人物を演じる難しさもある。多面的な人間を演じるのは「楽しい」と田辺さんは語るが、「今回ほど役が読めないことはなくて……。シーンごとに(印象が)違うんですよ。家庭、仕事場、上司……。これらがつながったときに、この柴崎という人物はどう見えるのか。あまりにもバラバラなので、いい意味で楽しみだし、不安でもある」とプレッシャーも明かす。ただ、難しいからこそやりがいも感じている。田辺さんはそれを「完成形が見えないプラモデル」に例え、「そこを組み立てる面白さはある」と笑顔で話す。

 出世欲むき出しの主人公を演じる田辺さんだが、自身にもそうしたギラギラした“出世欲”はあるのだろうか。温厚なイメージがあるが、田辺さんは「それなりにはある」と吐露。主役か脇役か、制作費の額の多寡はどうか……。田辺さんは「役者としての表現の純粋さからすれば、みんな一緒」と話すも、ある程度の規模だからこそ表現できるものもある、とも考えている。「ちょっとしか出ない役よりはいっぱい出ている主役(がいい)、というのはある」と話しつつ、田辺さんは「もうニ十何年(役者を)やってますけれど、ずっと低空飛行……急上昇がない(笑い)。でも低空飛行なりに頑張れたなあって」と本気とも冗談ともつかぬ顔でおかしそうに笑う。

 ◇“画伯”活動から得たもの 役者への影響も自覚

 新たな役に挑み続ける田辺さんだが、チャレンジは役者活動のみにとどまらない。その代表的な例が“画伯”としての活動だ。田辺さんといえば、SNSにアップした「かっこいい犬。」に代表される個性的なイラストで有名だ。8日からは、仙台パルコで直筆の巨大キャンパス画などを展示する個展も開催しているなど、役者業と並行して活動の幅を広げている。そういった活動については、「やっぱり楽しい」と笑い、「特にキャンパス画を描いているときは、時間を忘れてしまって。20時間とか描いている。ずーっと描いてます」とほとばしる情熱を明かす。

 何かを創造することへの意欲は人一倍強い。ただ、“画伯”としての現状については、「こういう状況になるとはまったく思ってなかった」と明かす。「1年前も想像してなかった。そのつもりもなかったし、役者以外の活動をしようとは思ってなかったので……。でも、年をとって、そういう流れになっているなら、固辞することに意味あるのかな?と。この流れに乗っちゃえ、という感じ」と現在の心境を明かす。

 昨年の大みそかに開催された「第66回NHK紅白歌合戦」では、NHKから依頼を受けて、太陽と富士山を背に空高く鳥が飛ぶ姿を描いたテーマシンボルも描いた。依頼に驚きつつ、1週間考え抜いて描いたデザインは、修正も入らずそのまま採用された。「何回か精査されていくのかなと思ってたんだけど……」と驚きつつ、うれしそうな表情を見せた。

 画伯活動が、本業の俳優業に与える影響はあるのだろうか。「今は、ある気がします」という答えが返ってきた。「絵は、監督作品に近くて。メッセージとか思ったことを、100%の純度で出せる」と田辺さん。役者としての活動に加え、自分を表現できる手段を持ったことで、本職の俳優業に“余計な自分”を入れたり、肩肘張ったりする部分がなくなったという。「あくまで役者をやっているから絵も見ていただけるので、役者メインではあるけれど、表現手段を一ついただいたことで、役者の純度がより明確になった」と絵がもたらす影響を明かした。役者をメインにしつつも、これからも「キャンパス画を描き続けたいなあと思ってます」と考えている。

 田辺さんが主演する「連続ドラマW 撃てない警官」は毎週日曜午後10時にWOWOWプライムで放送中。第2話が放送される17日は、正午から第1話が無料でリピート放送。

 <プロフィル>

 たなべ・せいいち。1969年生まれ。映画は「恋するヴァンパイア」(2015年)、「ハッピーフライト」(08年)、「リング0~バースデイ」(00年)など出演多数。ドラマ「撃てない警官」は16年1月10日からWOWOWプライムで放送中。

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