明治から昭和にかけて活躍した、詩人で小説家の室生犀星(1889~1962年)の同名の私小説を映画化した「蜜のあわれ」が、4月1日に公開される。大杉漣さんが演じる老作家と、二階堂ふみさん演じる金魚の少女、さらに、真木よう子さん演じる幽霊の三角関係が、幻想的に描かれていく。「生きてるものはいないのか」(2011年)や「シャニダールの花」(12年)などで知られる石井岳龍監督が手がけた。
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老作家(大杉さん)と“同居”する自由奔放な娘、赤井赤子(二階堂さん)は自分を「あたい」と呼び、それまで、老作家の絵のモデルをしていたかと思うと、突然、赤いワンピースに着替え、さっさと出かけて行くなど、勝手気ままな生活を送っていた。実は、赤子は金魚で、ある日、老作家の講演会に出かけて行った赤子は、そこで、田村ゆり子(真木さん)と名乗る美しい和装の女性と知り合う……というストーリー。
なんてファンタジックな作品なのだろう。庭の池で飼っている金魚が、日中は人間の娘の姿になり、夕方になると金魚に戻り池で眠る。信じがたいストーリーだが、外連味(けれんみ)たっぷりの演出と映像とが一緒になることで、人間のわびしさや孤独、老いに対する戸惑い、さらに、老作家に投影されているとされる室生自身の死生観が、静かに表れてくる。
俳優たちが皆、昭和の香りをまとい、流れる音楽も、昭和の時代を彷彿(ほうふつ)とさせる。その中で一際目を引くのが、赤子を演じる二階堂さんだ。赤い衣装をひらめかせ奔放に振る舞う姿は、まさに赤い琉金(リュウキン)。老作家が、「つるつるさんの極楽」と形容する、丸いお尻のきれいなことといったらない。彼女が、サイケデリックな色彩の中で、ショーガールのように腰を振り、なまめかしく踊る姿は、セクシーかつチャーミングで、それでいて、動くたびにブクブク、ポコポコといった水を思わせる音が聞こえ、ああそうか、彼女は金魚だったんだと現実に引き戻されるという、なんとも不思議な感覚を味わった。
彼女の存在があるからこそ、大杉さん演じる、枯れてもなお性にしがみつこうとする老作家の悲しい性(さが)がじわりと浮かび上がり、そこに、真木さん演じる幽霊が加わることで、室生自身の生への執着やこの世への未練が緩やかに伝わってくるのだ。原作との違いも魅力的だ。高良健吾さん、永瀬正敏さんらも出演。4月1日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開。 (りんたいこ/フリーライター)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。
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