すれ違いのダイアリーズ:タラトーン監督に聞く タイのヒット監督が影響を受けた日本のマンガとは…

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映画「すれ違いのダイアリーズ」について語ったニティワット・タラトーン監督

 タイの首都バンコクだけで100万人を動員するヒットを記録したタイ映画「すれ違いのダイアリーズ」が公開中だ。見知らぬ女性の日記を読み、その女性に恋をしてしまう新米教師の姿を描いたヒューマン作。日本でも、2015年に開催された「したまちコメディ映画祭in台東」で特別上映され、観客から高い評価を受けた。PRのために来日したニティワット・タラトーン監督は、タイでの観客の反応が「恋愛の部分より、教師というテーマについての感想が多かったことが、何よりうれしかった」と語る。タラトーン監督に話を聞いた。

 ◇先生の姿勢に感動

 映画は、二つの実話から着想を得ている。一つは、今もタイにある水上学校で教師を続ける男性、“サーマート先生”の体験談。もう一つは、新しい職場で、前任者が忘れていった日記を読み、その女性に恋をした今作のプロデューサーの友人の体験談だ。

 タラトーン監督は「恋人とも離れ、僻地(へきち)に来て、たった4、5人の子供のために自分をささげる。割に合わないことのように思えますが、子供たちに教育を行き渡らせたいというサーマート先生の姿勢に感動」し、また、「本やコラムを読み、それを書いた人のことが気になったり、インスタグラムやフェイスブックを見ていて面識のない投稿者に興味を持ったりすることはあるでしょう。そこにインスピレーションを受けたのです」と今作の製作の背景を振り返る。

 ◇タイに一つしかない水上学校

 映画の中で、着任早々、学校に来ない生徒を主人公のソーンが迎えに行ったり、学校が浮かぶダム湖に人間の死体が浮かんできたりといったエピソードは、サーマート先生が実際に体験したことだ。ただし、ソーンが水の中に入り、死体を回収するというのは「作りました(笑い)」と打ち明ける。

 実在の水上学校は、タイ北部ランプーン県の山奥のダム湖にあり、近隣で暮らす漁師の子供たちのために作られたという。タイの人々にとっても非常に珍しく、「私が知っている限りでは、おそらくタイに一つしかないと思う」と、タラトーン監督は説明する。

 ◇実際の教員たちに与えた影響

 今作は、首都バンコクだけで100万人もの観客を動員するヒット作となった。作品を見た人からはさまざまな反応があったそうだが、タラトーン監督にとって何よりうれしかったのは、恋愛のエピソードについてよりも、教師という仕事に対する感想が多かったことだ。

 「実際の教員の方たちが、こういうふうに子供を教えたいと思ってくれたり、若者が、自分も教師になりたいとか、僻地の子供たちの手助けをしてあげたいと言ってくれたりしたことに、とても感動しました。そもそも私がこの映画を作りたいと思ったスタート地点がそこでしたから」と顔をほころばせる。ちなみに、今作を見たサーマート先生の感想は、「主人公がイケメンだね、と(笑い)。作品の物語が自分の人生とそっくりで感動したと言っていました」と笑顔で語る。

 ◇主演の2人はタイの人気俳優

 その“イケメン”の主人公ソーンを演じたのは、歌手としても活躍するタイの人気俳優“ビー”こと、スクリット・ウィセートケーオさんだ。監督によると、「ソーン先生のおちゃめさはビー本人から来ている」もので、ソーンは学生時代レスリング選手だったという設定上、ビーさんもレスリングを習い、役に臨んだという。

 また、エーンを演じた、タイの人気女優“プローイ”ことチャーマーン・ブンヤサックさんについては、幼少期に溺れた経験から泳げなかったにもかかわらず、水上学校の先生という役柄のために、「水泳を習い、大変な努力をして泳げるようになり演じてくれました。そこにプローイの、プロ魂が出ていると思います」とたたえる。

 ◇新たな組織での再出発に「気負いはない」

 タラトーン監督は03年、大学時代の映画仲間6人で共同監督した「フェーンチャン ぼくの恋人」で監督デビューを果たした。この作品は、GMMグラミー、タイ・エンターテインメント、ハブ・ホー・ヒンの3社が共同製作したもので、今作の成功を機に、合弁企業GTHが誕生した。社名は、3社の頭文字から取っている。以来、同社は質の高い作品やヒット作を世に送り出してきた。しかし、15年末、好調な業績にもかかわらず、運営方針に関する意見の相違から解散。つまり、この「すれ違いのダイアリーズ」が、日本における、GTH社最後を飾る日本公開作となった。

 しかし今年に入りGTHは、GDH559(Gross Domestic Happinessの頭文字。「559」は、今年がタイ歴2559年に当たり、出資者が59いることに由来)という新組織となり再始動。タラトーン監督によると、GDH559は、「(GTHの)3社のうち、Tの会社が別の会社に変わったようなもので、実際の仕事の仕方はそれほど変わっていません。働いているメンバーも大差ありませんし、所在地も変わっていない」といい、自身も、組織が新しくなったことによる気負いは「今のところない」と話す。そして「(ほかの監督による)初めての映画が、多分、今年(タイで)公開されると思いますが、それでいいスタートが切れるのではないかと思っています」と笑顔を見せる。

 ◇影響を受けた日本のマンガ家は…

 タラトーン監督は、日本は何度も訪れたことがあるほどの親日家で、日本のマンガも子供の頃から読んでいたという。好きなマンガ家の一人に、あだち充さんを挙げる。「あだち充さんのフレームの描き方は映画のストーリーボードのようで、広めのコマの背後に風景がドーンと広がっていて、そこに、主人公の顔がボンと出ている。説明は特になくても、静かな風景が見え、そこにいろいろなことを考えさせる余地がある。そういうところに影響を受けています」と明かす。

 そのタラトーン監督は、「映画とは、自分の人生の経験をほかの人と共有していくものだ」と考えている。そして、自分の作品を海外で上映するときはいつも、「自分がタイ社会の代表になったような気持ちでいる」と襟をただす。だからこそ、「日本の皆さんに、タイのことをもっと知っていただきたいですし、この映画が、日本とタイをもっと近づけるきっかけになってくれるのではないか、日本の観客の皆さんもきっと、タイからの物語を好きになってくれるのではないかと思っています」と期待を寄せている。映画はシネスイッチ銀座(東京都中央区)ほか全国で順次公開。

 <プロフィル>

 1974年生まれ、タイ、バンコク出身。チュラロンコーン大学卒業。2003年、大学時代の映画仲間6人と共同で監督した「フェーンチャン ぼくの恋人」で監督デビュー。06年には「早春譜(Seasons Change)」、09年には「Dear Galileo」を監督した。

 (インタビュー・文・撮影/りんたいこ)

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