2月発売のシングル「Hello To The World」で新しいスタートを切った家入さんが、「僕たちの未来」などシングルを収録したアルバム「WE」を6日にリリース。バラードからはじけたポップナンバー、爽快なロックなど、等身大の彼女が詰まった、家入レオの第2章の始まりといったアルバムになった。家入さんに話を聞いた。
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――「WE」は、全体に明るいアルバムという印象でした。
17歳でデビューしてから、思春期の葛藤をずっと曲にしてきて。人間は暗い部分と明るい部分の両方を持っているものですが、私はずっと暗い部分の方にばかりフォーカスしがちでした。それではいくら言葉で「私だって明るくはじけることもあります!」と言っても、歌が暗ければ説得力がなかった。でも今作は、自分の明るい部分も表現することができました。やっと、ちゃんと両面を出すことができて、楽になったなという気持ちです。
――そういう方向に意識が向いたのは、何かきっかけが?
「君のくれた夏」を出した頃、ちょうど周りのスタッフが入れ替わった時期で、これからどうやっていきたいのか? と、たくさん話し合いをしたんです。前は自分が思っていた以上に自分は子供で、新しいことにチャレンジしてみたら? というアドバイスをどうしても受け入れることができなかった。でもお互いに言いたいことをぶつけ合ったことで、心の距離がすごく縮まって。例えば「アーティストの家入レオもすてきだけど、普段接している家入レオもすごくすてきだよ」と言ってもらえたことが、どんな会議室で言われた言葉よりも胸に響きました。それで、もっとパーソナルな部分を出してもいいんだと思えるようになって、今作のように私の日常がたくさん垣間見える作品になったんです。
――アルバムでは鋭く歌う曲もありますが、今まで聴いたことのない家入レオさんの歌声もたくさん詰まっていて、それはとても新鮮でした。例えば「Brand New Tomorrow」は、声がまったく違う印象でした。
ああ、はい。確かにそうかもしれません。今まで歌ってきたメロディーラインとはまったく違ったので、自然とメロディーに引っ張られましたね。このメロディーには、この歌い方しかないっていう感じでしたので。
――歌詞からは、これからのいろんな未来を想像して、そこにワクワクしているような気持ちがうかがえました。待ちわびている感みたいな。
このアルバム1枚を通して、すごく自分に自信を持つことができたし、これからもっともっとすてきな作品を作っていきたいって思えたので、そういう気持ちがすごく表れたんじゃないかと思います。
作詞に関しては今回はプロットを立てて、こういう曲にはこういう歌詞をと考えて。それを元にプロデューサーの多保孝一さんをはじめ、スタッフからも意見をいただきながら、歌詞を書いていきました。以前は自分の歌詞に意見されると、自分の領域を守ろうと反発していました。でも21歳になって、もっと間口を広げてどんどん吸収していこうという気持ちになったので、いろんな意見を聞けるようになったんです。自分はブレないという、自信もついているのだと思います。
――実際にさまざまな方が名前を連ねていて。たとえば「I Wish」という曲では、作詞にjamさんが参加。子供の目線から、母親に歌っているような歌詞ですね。
曲を聴いたとき、ゴールデンレトリバーと青い目の男の子が、暖炉の前で戯れている絵が浮かんだので、冬の暖かい感じを出したいと思いました。あと、ジョン・レノンのようなピースフルなイメージも浮かんでいて。でも平和と言ってもすごく深いものなので、ここはプロの作詞家さんと一緒に作詞するのもアリだなと思ってお願いしたんです。
――さらに編曲には、本間昭光さんの名前も。
初めてお仕事をさせていただいたのですが、笑顔でどんどんすごいことをやっちゃう人ですね。本間さんマジックはすごいと聞いていたけど、デモの打ち込みが生楽器の音に差し替わったとき、ここまでとは! と驚きました。人間の持つグルーブはすごいんだと改めて感じた曲でした。
この曲は、音作りにもすごくこだわりました。ジョン・レノンを意識していることを分かってもらいやすいように、テープエコーをかけてサビをダブルにして録音したりとか、ジョン・レノンがやっていた手法も取り入れています。また、移動遊園地のイメージも浮かんでいたので、蒸気オルガンっぽい音を間奏に入れてもらったり、ソリーナというピアノも使っていますね。
――サウンド面は「恍惚」という曲は、クラブっぽいビートで、こういう都会的な雰囲気は初めてですよね。
サカナクションさんのライブに行って、ドラムンベースにすごく興味を持ったのがきっかけです。このアルバムは、東京に来てからのファーストアルバムというイメージがあって……。3枚目までは、どこか地元の福岡を引きずっていた感じがあって、あの頃の気持ちを忘れたくないと、どこか必死にしがみついていたと思います。でも今回はもっと自然体で、東京で触れた音楽を自分の曲にもっと落とし込みたいと思っていて。「恍惚」は、まさに東京にいるからこそできた曲です。
――「シティボーイなアイツ」という曲は、シンセドラムの音があえてちょっとチープな感じだったり、80年代のテクノポップ風で楽しかったです。まずシティボーイという呼び方が懐かしいなと。
今はリバイバルで、「シティボーイ」ってけっこう言うんですよ(笑い)。それとチープというご感想は、どストライクです! この曲では若さを出したくて、やっぱり若いとA級品は買えないから、B級品やC級品を買っちゃうみたいなイメージだったので。あとこの曲は、クリストファー・チュウさんの編曲です。私はポップ・エトセトラやGalileo Galileiさんが好きで、それらをプロデュースしている彼にぜひお願いしたいと思ってオファーしたらオーケーしてくださって。
――歌詞に下北沢とか渋谷とか出てくるのも、東京に出てきてからのファーストという話に通じてますね。
はい。 20歳を過ぎてから交友範囲が広がって行ける場所も増えたし。友だちとLINEをやるようになると、自然と歌詞にLINEって出てきたりとか、今の自分の日常がどんどん歌詞のディティールに出てくるようになりました。下北のレコードショップというフレーズもありますが、実際によく行きますし。下北沢ではアナログプレーヤーを買ったし、まだ初心者だけどアナログレコードもけっこう集めているんです!
――さらに「Party Girl」は、女の子賛歌で、洋楽のガールポップっぽい曲。テキーラ・コークという歌詞も出てきますが、お酒はけっこう強そうですね。
お酒の場は好きだし、弱くはないですよ。一升瓶を持って、これを飲み切るまで帰れませんよって感じで……ちょっと話を盛りましたけど(笑い)。好きなのは、焼酎とかハイボール。ハイボールは糖質が少ないという理由で飲み始めたんですけど、ハマってしまって。チーズをおつまみにハイボールを飲むのが最高なんです。この曲は、派手な感じを出したかったので、80kidzというクラブ系ユニットの方に、シンセのアレンジをお願いしています。
――楽曲も多彩ですが、歌詞でもいろいろなシチュエーションが楽しめる作品。人生を見つめて明日に向かう、いつもの強い歌詞もいいけれど、ふっと日常に帰る感じがありますね。
結局どんなに真面目にやっていても、作品が楽しくなければそれまで。やりすぎたときは、引き留めてくれるスタッフさんがいるので。どんどんいろんなことを経験して、どんどん面白いものを作っていこうって、今回作りながらすごく思いました。
――アルバムのタイトル「WE」は、そういう支えてくれるスタッフも含めての意味合いなんですね。
1枚目のアルバム「LEO」は、当時のプロデューサーである西尾芳彦さんの支えがありつつも、自問自答しながら一人で作っていた感覚があって。でも今回は、現プロデューサーの多保さんをはじめ、ミュージシャンやエンジニア、アレンジャーなど、たくさんの方からエッセンスをいただいて作った1枚。なので「私たち」という意味で「WE」とつけました。実際に、私って一人じゃないんだなと思える瞬間が、本当にたくさんあったし。
――制作で一人じゃないと実感したのは、どういうときですか。
12曲目に収録している「Every Single Day」を作っているときは、「僕たちの未来」のプロモーションとアルバムの制作が重なって。ハードスケジュールの中で曲を作らなきゃいけなくて、突然感情がぶわ~っとあふれ出してしまったときがあったんです。もう曲を作りたくないって暴れちゃって。そんなとき、新しくチームに入ってくださったスタッフさんで、お姉ちゃんのような存在のディレクターがいて。その方から、歌を作りたくない書きたくないという気持ちを、そのまま歌詞に書いてみれば? と言ってくれて。それで2番のAメロが生まれたのですが、そのときは本当に周りが支えてくれましたね。
1曲目「僕たちの未来」では、みんながいるから私は歌える瞬間を歌いました。ラストの「Every Single Day」では、たった一人が私を支えてくれているから、私はステージに立ってみんなの前で歌えているんだ、と歌っています。また一つ、新しいところに踏み出せたかなって思っています。
――家入さんってすごく冷静なイメージですけれど、もうヤダって暴れちゃったりすることがあるんですね。
私だって人間ですからね(笑い)。マネジャーとか心を許している人の前であれば見せる姿だと思います。でも、そういう面でさえも、糧にして曲にしていけばいい。そういうふうに言ってもらえたとき、すごく楽になったんですよね。
――以前は一人ですべての荷物を背負っていた。今は一緒に持ってくれる人がたくさんいるんですね。
まさしく。だからこそ「WE」なんです。
――9月からはライブツアーを行いますが。
自己最多の20公演です。結構作り込んで曲を伝えることも大事ですが、その日その日でしか見せられないものも見せていきたいと思っています。例えばMCで、お客さんの一言を拾って広げるとか。その土地でしかできないこと、その日にしか降りてこないものを大事にしたいです。せっかくアルバムでも、こんなに日常的な自分を出して自然体になっているので。そういう意味では、ライブの作り方もだいぶ変わるんじゃないかな。ツアータイトルは「WE | ME」。WEを鏡文字にしてME。私たちを広げて考えると、一人一人なので、みんなで一緒に作って行くツアーなんだよというメッセージを込めています。
――ちなみに家入さん自身のライブの必需品は?
目薬とお水です。前はノドの滑りがよくなると信じて、お水の代わりに、オリーブオイルや豚骨ラーメンのスープを置いていたりしたこともあって(笑い)。でも今は気持ちに余裕も出てきたので、これがないとダメみたいなものはなくなりました。
<プロフィル>
2012年にシングル「サブリナ」でデビュー。同年リリースした1stアルバム「LEO」は、チャート2位にランクイン。これまでに「a boy」「20」「WE」と4枚のアルバムのほか、12枚のシングルをリリース。昨年リリースしたシングル「君がくれた夏」はドラマ「恋仲」の主題歌として書き下ろされ話題を集めた。また、最新アルバム「WE」収録曲「Brand New Tomorrow」は、映画「ペット」のイメージソングになっている。9月17日に埼玉・三郷市文化会館大ホールを皮切りに、12月10日の東京・東京国際フォーラムホールAまで全20カ所20公演の全国ツアー「5th Live Tour 2016~WE | ME~」を開催する。
(取材・文・撮影/榑林史章)