第87回米アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされるなど、世界の映画祭で話題の「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」(トム・ムーア監督)が、20日から公開される。アザラシの妖精が出てくるアイルランドの伝承を基にした兄と妹の大冒険を、絵本のような美しい映像と可愛らしいキャラクター造形で展開していく。
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海辺の家で、両親と共に暮らしていたベン(声:デビッド・ロウルさん)は、おとぎ話や歌を聞かせてくれる優しい母親に「世界一のお兄ちゃんになるわ」と言われ、妹の誕生を心待ちにしていた。海の歌が聴こえる古い貝がらをもらい、翌日、目覚めると、生まれた赤ちゃんを残して母親が姿を消してしまう。妹のシアーシャ(声:ルーシー・オコンネルさん)のせいで母親がいなくなったと思ったベンは、妹に優しくなれない。6年が過ぎて、おばあちゃんに連れられて街に出た兄妹は、父親と愛犬クーのいる我が家へ帰ろうとする途中で、フクロウの魔女マカの手下たちに連れ去られてしまう……という展開。
これは小さな子どもから大人まで楽しめる本当に美しい映画だ。幾何学的な描線が印象的な絵と、光と闇が美しい映像。物語もファンタジックで美しい。海ではアザラシ、陸では人間の姿の「セルキー」という、アイルランド西海岸に伝わる妖精がベースとなっている。人と妖精が混在する世界観が、人も自然の一部だと感じさせる。話は兄妹が家に無事に帰りつけるのだろうかというシンプルなものだが、2人の不思議な冒険から目が離せない。二次元のスクリーン上とは思えないほど、空間を広げて場所を移動していくからだ。どこにいざなわれていくのか、楽しみで仕方がなくなってくる。クライマックスの荒れた海のシーンでは、波にのまれる感覚になるほど、水に表情がある。キャラクター描写も面白い。欠点もあるからこそ親しみが湧く。最初、兄は妹に意地悪だ。おばあちゃんは、子どもの気持ちを無視している。フクロウの魔女マカは、「あなたのために言っているの」というせりふからして巨大化した母性を持て余しているが、実は独りぼっちでさびしくてたまらないようだ。
冒険は、お兄ちゃんが真のお兄ちゃんになれるまでの成長も描いている。旅路の間に、妹を守ろうという感情が芽生えていく兄のベンを、母親目線で見守るのも楽しい。“ポスト・スタジオジブリ”と本国アイルランドで称されるカートゥーン・サルーン製作。日本語吹き替え版では、本上まなみさん、リリー・フランキーさんらが声で出演している。20日からYEBISU GARDEN CINEMA(東京都渋谷区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。本作、愛犬クーが可愛くてたまらなかったです。
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