SPECIAL EDITED VERSION 『ONE PIECE』魚人島編
第8話 弱虫で泣き虫!人魚姫しらほし
12月22日(日)放送分
2003年に公開され大ヒットした「ファインディング・ニモ」の続編「ファインディング・ドリー」のMovieNEX(ブルーレイディスクとDVD、スマホで本編が見られるデジタルコピー、購入者限定のスペシャルサイトのセット)がリリースされた。その名作が生まれた米カリフォルニア州エメリービルにあるピクサー・アニメーション・スタジオを訪ね、作品にスタッフとして携わる日本人の小西園子さん(キャラクター・テクニカルディレクター)と原島朋幸さん(キャラクターアニメーター)に「ファインディング・ドリー」の製作秘話などについて聞いた。上下2回に分けて紹介する。
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「ファインディング・ドリー」は物忘れの激しいナンヨウハギのドリーが主人公。前作「ファインディング・ニモ」で、カクレクマノミのマーリンと出会い、人間にさらわれた彼の愛息ニモの救出劇に一役買ったドリー。今作は、その冒険から1年後、グレートバリアリーフのサンゴ礁で幸せに暮らすドリーが、今度は、ニモとマーリンの助けを借りながら、自分の家族を探す旅が描かれている。
――それぞれのお仕事の具体的な内容を教えてください。
原島さん:私はキャラクターアニメーターという仕事なんですけれども、内容はキャラクターに命を吹き込む仕事ですね。もちろんキャラクターを動かす仕事ではあるんですけれど、動かすだけでなくて、キャラクターが自分で意思を持って動いているように見せることが仕事ですね。そのあとの工程として(小西)園子さんがやっているシミュレーションだったりとか、エフェクトだったり、照明とかがついたりするんですけれど、私の仕事は最終的に大きなスクリーンの中にキャラクターの動きとして見せるという仕事をしています。
小西さん:私は今回の「ファインディング・ドリー」はテクニカルディレクターのシミュレーションということで、水のしぶきとかタコの動きとか、人間の場合は服とか髪の毛とかの動きを計算で出す仕事です。アニメーターの方がアニメーションをつけてその上にプラスをするという仕事なので、アニメーションそのものの素材を壊してもいけないし、かといって本物に見えないといけないので違和感のないように、そのへんは気を付けましたね。
――どのくらいの規模のチームなんですか。
原島さん:映画によって違うんですけれど、『ファインディング・ドリー』のときはピークのときは70~80人のアニメーターは関わっていたと思います。もちろんずっとではなくて、最初は少なくて、また最後の方は少なくなるという感じですね。
小西さん:私の部署では、今回は少なかったかな。13人くらいですね。
原島さん:13人だったんですね。アニメーターとシミュレーションってアニメーターにできない部分というか、例えばタコの吸盤とか多少はできるんですけれども、最終的な部分はシミュレーションの方がその上にプラスしてくれる。いつもリアルなものが正しいわけではないので、(アニメーターから)もうちょっとこういうふうに、ちょっとうそなんだけどこういうシェイプにしてほしいとか、シミュレーションの方にリクエストが行ったり。シミュレーションの方では逆にここまで行っちゃうとうまくいかないからこう直してほしいとか、そうやって密にやったりすることがあったりします。
――アニメーターが70~80人いるのにシミュレーションが13人しかいないというのは大変なのでは。
小西さん:よく聞いてますよ、ご要望を(笑い)。
――お二人が完成作を見て一番好きなシーンやキャラクターは?
小西さん:私は(キャラクターは)ラッコですね。直接関わらなかったけれど。
原島さん:私はハンクは全くタッチしなかったんですけれども、逆にタッチしない方が、『すごいなあ、このアニメーション』と(客観的に)思いますね。どうやってやっているんだろうって。
小西さん:(スタッフ間で)お互いによく聞きますね。同じ部内でもあれどういうふうにやったの?ってあとで聞いたり、すごく(スタッフ同士の)環境が透明なんですよ。元から壁がないというか。
原島さん:隠さないですね。みんなオープンというか、聞かれれば情報とか技術的なこととかがどんどんみんなでシェアしていく、部内でも社内でもそういう空気があるので。
原島さん:園子さんは水族館に行きましたか?
小西さん:個人的には行っています。
原島さん:アニメーターやある程度のクルーで1日、(『ファインディング・ドリー』の舞台のモデルとなった)モントレーの水族館に行ったんですよ。たまたまそのときにラッコの代理母か何かがあって、麻酔をかけて寝ていたので触っていいよって言われてラッコを触らせてもらって。ラッコはどのくらい出てくるんだろうと思っていたら、数はすごく多かったんですけれど、ストーリーの中では最終的にあまりメインのところではなかったんですけれど、そういう機会があって、ちゃんと映画の中に多少なりとも生かされているということはやっぱり面白かったですね。タコも実際に触ることができて、裏側に行かせてもらって、タコを実際に手元で触って。すごく大きいヤツ。
小西さん:ボスダコ?
原島さん:タコってイカみたいに大きくならないみたいで、大きいタコでも50センチくらいで。イカってすごく大きくなるじゃないですか。でも吸盤がすごいんですよ。(こちらの体を)チェックしている感じが。計算している感じというか。しかも本当に吸盤がくっつくから(はがすときに)ペリペリペリっていう音がして。
小西さん:シミュレーションでもペリペリペリってやりましたよ。
――ラッコの手触りは?
原島さん:すごくスムーズなんですよ。ラッコってつねに毛をきれいにしていないとだめらしくて。だから常に毛をなめているという。毛は柔らかくて、脇の下にポケットがあるのでそこに貝などを入れて。
――(原島さんに)ピクサーだけが持つアニメーションキャラクターの魅力は?
原島さん:キャラクターがすごく魅力的なんですよね。見た目だけじゃなくて内面のそのキャラクターが何を考えているのかっていうのをすごく掘り下げて、監督にしてもスーパーバイザーにしてもアニメーションしているのではなくて、そのキャラクターが意思を持って動いてというのを見せられるように。その掘り下げ方がほかのスタジオとは一段階レベルが違うという感じがします。
それは一人の監督ということでなくてスタジオの総意というか、ストーリーはもちろん大事なんですけれど、ストーリーをサポートするキャラクターがいる。キャラクターがストーリーを理解して動いているわけではないんだけれどもキャラクターがいて、そのキャラクターが考えていることが基になってストーリーになっているので、キャラクターが普通は考えていないようなことまでこのときに何を考えているのってすごく突っ込まれます。それはすごく楽しいところでもありますけれども、それが大変なことでもあります。それがピクサーたらしめていると思います。
――(小西さんに)「ファインディング・ドリー」ならではの難しさは?
小西さん:海の表現は、今回は海のちりとかプランクトンとかもたくさんあって、全部がシミュレーションで千何百枚あって、それが技術的には初めの方の開発の時点でものすごく時間がかかったと聞きました。
タコのハンクは7本足で吸盤もついているということで、吸盤もそのまま表面にくっついた場合に本当のタコみたいにリアクションするというのは、開発の方でも大変でした。その上にショット数も多く、それで7本足っていうのでチェックが大変でしたね。
原島さん:アンドリュー監督がきちんと海の中、水の中で泳いでいて、これはサカナだということをきちんと守らないといけないという。よく監督が言っていたのはナショナル・ジオグラフィックっぽく、だけどキャラクターのモーメントはきちんとキャラクターっぽくなってほしいなという。ときどき「もうちょっとサカナっぽくして」と言われたこともありました。
小西さん:遠くから見て、ああ水族館だみたいなのはありましたね。
原島さん:やっぱり見た目がすごくリアルな海の中になっているのにサカナがサカナの動きをしていないと、そこだけでストーリーから引き離されてしまうので。
小西さん:あと、今回は前に「ファインディング・ニモ」があったから世界観を壊しちゃいけないというのはすごくありましたね、こちらも。「ファインディング・ニモ」をやった人が全員携わっているわけではないですから。「ファインディング・ニモ」から「ファインディング・ドリー」まで13年ありましたからね。新しい方もたくさんいらっしゃるから、そこは教育されました。
原島さん:「ファインディング・ニモ」を担当したアニメーターで「ファインディング・ドリー」に携わった人はすごく少ないんですよね。
<小西園子さんのプロフィル>
キャラクター・テクニカルディレクター 東京都出身。1978年、7歳の時に東京の映画館で「スター・ウォーズ」を見て視覚効果の仕事に魅了される。17歳で米国に渡り、スクール・オブ・アート・インスティチュート・オブ・シカゴで美術と技術を専攻。94年8月、「トイ・ストーリー」のテクニカルディレクターのアシスタントとしてピクサーでの仕事を始める。同スタジオで、セット美術、照明などの仕事を担当。そこから、キャラクター・モデリング、モデリングの関節制御といった仕事に移り、「モンスターズ・インク」「ファインディング・ニモ」「Mr. インクレディブル」「レミーのおいしいレストラン」「ウォーリー」「カールじいさんの空飛ぶ家」「トイ・ストーリー3」「メリダとおそろしの森」「インサイド・ヘッド」などピクサーのほぼすべての長編作品に貢献。また「カーズ」ではピンク色の日本のリポーターカーとして声優デビューも果たした。「ファインディング・ドリー」では、ハンクの吸盤や海のプランクトンのシミュレーションを担当。現在、夫と2匹の猫とともに米国で暮らしている。
<原島朋幸さんのプロフィル>
キャラクターアニメーター 電気通信大学卒業後、エンジニアとして会社に勤務するも、「ジュラシック・パーク」(1993年)がきっかけでハリウッド映画とVFXに興味を持つ。退職し、専門学校で3DCGとプログラミングを学ぶ。2001年、米国に語学留学。03年、Academy of Art University(サンフランシスコ)の大学院に進学し、通称“ピクサークラス”でピクサーのアニメーターからキャラクターアニメーションを学ぶ。06年、DreamWorks Animation(ロサンゼルス)に入社。07年、同社のレッドウッドシティに異動。「マダガスカル2」(08年)、「ヒックとドラゴン」(10年)、「マダガスカル3」(12年)、「ヒックとドラゴン2」(14年)などの制作に参加。15年3月からピクサーに移籍し、「アーロと少年」(15年、日本では16年3月にロードショー)の製作に参加。現在は同社にて、次回作のキャラクターアニメーションに従事している。
(取材・文・撮影:細田尚子/MANTAN)
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