東海テレビ:人かんだ犬の更生を追う ドキュメンタリー最新作放送 阿武野勝彦Pが番組語る

19日に東海エリアで放送されるドキュメンタリー「悪い犬」の一場面=東海テレビ提供
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19日に東海エリアで放送されるドキュメンタリー「悪い犬」の一場面=東海テレビ提供

 光市母子殺害事件の弁護団にカメラを入れた「光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~」や、暴力団に密着した「ヤクザと憲法」などタブーのないドキュメンタリー番組作りで知られる東海テレビの最新作「悪い犬」が19日午後1時45分から、東海エリアで放送される。同局で数々のドキュメンタリーを手がけるプロデューサー、阿武野勝彦さんに番組について聞いた。

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 「悪い犬」は、住宅から逃げ出したドーベルマンが通行人などにかみつき、けがをさせた事件のその後を追ったドキュメンタリー。阿武野さんがプロデューサーを務め、入社6年目の同社報道部の記者・藤井章人さんがディレクターを務めた。

 事件は2015年5月に名古屋市守山区で起き、通行人ら男女4人がけがをした。ドーベルマンは体重50キロの4歳のオスで、動物愛護センターの職員に捕獲され、殺処分の寸前に同市内で犬のしつけ教室を運営している訓練士に引き取られた。大きく報じられ、全国放送のテレビ番組でも取り上げられた。

 番組では、ドーベルマンと訓練士の日々を軸に、教室で保護されている犬たちや、犬を世話する人、動物愛護センターで行われる殺処分の現状、メディアの報道ぶりなどを映し出す。ドーベルマンは取材中にカメラマンをかみ、さらに新しい飼い主に引き取られた後にも通行人をかんだという。決して美談だけでは終わらない現実が伝えられる。

 阿武野さんが携わるドキュメンタリーの制作では、現場のクルーが毎日、現地へ取材に行く。「毎日見てきたから言えたり、書けたりすることがある。シノプシス(あらすじ)がないから、狙いを定めずに“いつでも手ぶら”。非効率をやることで、効率を求めるよりももっと豊潤なものが見える可能性がある」と考えている。

 今回も、取材班は事件後、約1年半にわたってしつけ教室に通い、取材テープは約350本に及んだ。毎日行くことで図らずも見えたことの一つが「メディアと社会、メディアと取材対象者との関係」だ。大きく注目された事件のその後として、訓練士が複数のメディアから取材を受けて注目されていく姿もありのまま伝えていく。

 番組を「見方の難しいドキュメンタリー」と表現する阿武野さん。「単純化すると、ヒカル(事件を起こしたドーベルマン)が頑張っている楽しいドキュメンタリーになるかもしれないし、訓練士を賛美するものになるかもしれない。でもドーベルマンを見て(取材して)、見えた結果が、なかなか複雑。気持ちのいいものではないかもしれない。それでも、この時代、この社会、この地域のことを考えるために表現をする必要がある」と考え、「そもそも世の中は分かりにくい。(番組は)人間は多面体なんだということの一つを表している。私たちが感じたことを、ぜひ受け取ってみてほしい」と呼びかける。

 そして「分からないことを抱えることが、とても大事なこと。人間は5年、10年、20年、30年後に『あれってああいうことだったのか』と、突然、思い出して答えを出す力が備わっているはず」と語り、「分かりやすい物語にして、あたかもそれが期待されていると思い込もうとするテレビの表現空間がどうにかならないかと思っている」とテレビの現状に警鐘を鳴らしつつ、ドキュメンタリー制作への思いを語った。

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