注目映画紹介:「ムーンライト」オスカー作品賞受賞作 無名俳優と名脇役の見事なアンサンブル

「ムーンライト」のワンシーン (C)2016 A24 Distribution,LLC
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「ムーンライト」のワンシーン (C)2016 A24 Distribution,LLC

 大本命の「ラ・ラ・ランド」という予想を覆し、本年度の米アカデミー賞で作品賞を獲得し、助演男優賞、脚色賞の3部門を受賞した話題作「ムーンライト」(バリー・ジェンキンス監督)が31日に公開された。マイアミの貧困地域を舞台に、自分の居場所を探し続ける主人公の成長を、三つの時代の中で色彩豊かに語っていくヒューマン作。ブラッド・ピットさんが製作総指揮を務めた。主人公シャロン役に3人の無名俳優を配し、「007 スカイフォール」(2012年)などのナオミ・ハリスさんや、「ハンガー・ゲーム FINAL:レジスタンス」(14年)などのマハーシャラ・アリさんらハリウッドで活躍中の名脇役をからませて、素晴らしいアンサンブルを生み出している。

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 シャロン(アレックス・ヒバートさん)は、麻薬常習者の母親のポーラ(ハリスさん)と2人暮らし。学校では、「リトル」と呼ばれ、いじめられていた。麻薬ディーラーのフアン(アリさん)は、そんなシャロンを放っておけず、何かと世話をする。しかし、高校生になってもシャロンはいじめられ続け、麻薬におぼれる母親のいる家にも居場所がなかった。唯一心を開くことができた同級生ケビンに、初恋のような感情を抱くシャロンだったが、ある事件が起こり……という展開。

 ジェンキンス監督の長編2作目で戯曲を原案にしている。1作目の際に、ピットさんが創立したプランBエンターテインメントのプロデューサーと出会った同監督が、ピットさんが製作したオスカー作品「それでも夜が明ける」(13年)のプレミア上映会で再会し、今作の製作に至ったという。

 子ども時代、ティーン時代、青年時代と、主人公の人生を三つの時代に切り取り、成長過程のシャロンと大人の関係がていねいに描かれる。特に父親代わりのフアンが、子ども時代のシャロンに泳ぎを教えるシーンは感動的だ。フアンを演じたアリさんは、米アカデミー賞助演男優賞を受賞し、イスラム教徒の俳優として初のオスカー獲得となった。そして、3人のシャロンと唯一共演をしたのが、母親のポーラ役を演じたハリスさん。タイトな撮影スケジュールの中で、麻薬常習者が堕(お)ちていくさまと親子関係の長い年月を見事に表現しオスカーの助演女優賞にノミネートされた。
 
 主人公を演じたヒバートさん、アシュトン・サンダースさん、トレバンテ・ローズさんの3人は、お互いの演技を見ないで芝居に挑んだという。全く見た目は似ていないが、うるんだ内向的な目が3人の共通点で、主人公シャロンの、家にも学校にも居場所がなく性的マイノリティーという存在の孤独で純粋な心を映し出している。また、実写に色を足して加工したカラーリストが作り出した美しい映像も注目だ。31日からTOHOシネマズ シャンテ(東京都千代田区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)

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