北川悦吏子:朝ドラ“ヒットの法則”「全部、外した」 「半分、青い。」は「集大成」

NHKの連続テレビ小説「半分、青い。」の脚本を手掛ける北川悦吏子さん Photo by LESLIE KEE
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NHKの連続テレビ小説「半分、青い。」の脚本を手掛ける北川悦吏子さん Photo by LESLIE KEE

 永野芽郁さん主演で4月にスタートするNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)「半分、青い。」に期待する声が早くも上がっている。ヒロインが胎児から描かれるという異例のスタートを切る今作。ほかにも、豊川悦司さんがカリスマ少女マンガ家を演じたり、「天然コケッコー」などで知られるくらもちふさこさんの名作がそのまま登場したりと話題には事欠かない。そんな「半分、青い。」の根幹をなすのが、北川悦吏子さんが手掛ける脚本だ。朝ドラにはいくつかのヒットの法則が存在するが、それらをあえて「全部、外して書いた」と明かす北川さんに、脚本執筆の裏側を聞いた。

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 ◇朝ドラに革命を起こしたんじゃないかなと思っている

 「半分、青い。」は、大ヒットドラマ「ロングバケーション」(フジテレビ系、1996年)などで知られ、“恋愛ドラマの神様”の異名も持つ北川さんのオリジナル作品。1971年に岐阜県で生まれ、病気で左耳を失聴したヒロイン・鈴愛(すずめ、永野さん)が、高度成長期の終わりから現代までを七転び八起きで駆け抜け、一大発明を成し遂げるまでの物語だ。

 北川さんは、放送開始前の現在の手応えを聞かれ「もしかしたら朝ドラに革命を起こしたんじゃないかなと思っている、それくらい斬新」と力を込める。

 朝ドラには過去作の傾向から、いくつかのヒットの法則が存在するといわれている。最初に今作の企画が立ち上がった段階で、北川さんがNHK側から聞かされていたのは「実在する女性をモチーフに描くこと」や「時代と戦うこと」などで、「これがあれば大丈夫というのを、それを全部外して今、書いているので、そういう意味でもチャレンジング。だからこそ面白いものが生まれるんじゃないかなって思っています」と逆説的な自信を見せる。

 タイトルにおいても、最近は「あまちゃん」「ごちそうさん」「花子とアン」「マッサン」「あさが来た」「とと姉ちゃん」と“5文字説”や“最後に「ん」が付く説”がよくささやかれているが、「半分、青い。」はどちらにも該当しない。

 北川さんも「そもそも『半分、青い。』というタイトルを自分ではめちゃくちゃカッコいいと思っていて。朝ドラのこれまでのラインアップを見ると、明らかに異端。ちょっと間違えればフランス映画のような、しゃれたタイトルになっている」と認める。

 ◇「ロンバケ」「愛していると言ってくれ」…全部が積み重なってここに

 北川さんといえば「ロングバケーション」はもちろん、「素顔のままで」「あすなろ白書」(ともにフジテレビ系)、「愛していると言ってくれ」「ビューティフルライフ」「オレンジデイズ」(以上、TBS系)などを手掛けてきたヒットメーカーでもある。

 その北川さんをもってしても、朝ドラは「全部で156本。これだけの長丁場を書くのは初めてで、ものすごい仕事量」と認める。その一方で「昨日今日デビューしてこれを書いているわけではない」と話す北川さんは、この「半分、青い。」が「自分にとっての集大成」といい、「25年頑張ってきて、体力が付き、ここで新しいものを書かせてもらっているって気がしています」とクリエーターとしての思いを明かす。

 「集大成」と位置づける理由とは? 「半分、青い。」の第1週を見て「軽やかなコメディーになっている」と感じたという北川さんだが、そこで繰り広げられている軽やかな会話劇は、それこそ「ロンバケ」などの明るくポップな“月9”に通じるもの。また今作のヒロインは病気で左耳を失聴するというハンディキャップを抱えるが、「愛していると言ってくれ」「ビューティフルライフ」「オレンジデイズ」といった作品に通じる点で、北川さんも「TBSではもうちょっと重たいシックなものを書いて、フジとはまた違ったものを培ったような気がしているんです」と振り返る。

 さらに北川さんの原点になっているのが、フジテレビ系のオムニバスドラマ「世にも奇妙な物語」シリーズ。「『ズンドコベロンチョ』という代表作があるんですけど、あれは全くのアイデア勝負。勢いでオチまでいけばいいって。これはいま書いている朝ドラの15分と使う頭が似ている」と明かす。「どう思いついて、どう攻め倒すか。今までのフジ系、TBS系の連続ドラマと『世にも奇妙な~』、それらのノウハウが全部積み重なって『半分、青い。』になったのかな。完成した第1週を自宅で続けて5回も見ながら、興奮していました」とうれしそうに笑った。

 ◇“恋愛の神様”が初めて描く男女の出会いの形 サブタイトルに込めた思い

 今作に取りかかる前に「今までの朝ドラをいっぱい読んだり見たり、自分なりに分析してみた」と明かす北川さん。「どう分析し、どうアプローチすればいいのか。そのときが一番、怖かったんですけど。でも書き出してからは綱渡りと一緒で、とにかく自分でやってみるのが一番よく分かる」といい、「私は別に1週ごとに区切ってはいないんですね、予定調和でつまらなくなるんじゃないかって懸念があったから。もうちょっと勢いに任せて、瞬間瞬間の判断を大事に書いています。とにかく15分を攻めきってしまえばいいので、浮いたり沈んだりを繰り返してやってるうちに、こういう手もあるのかと、いまだ自分の中で手数が増え続けているような、とても面白い体験」と執筆を楽しんでいる様子だ。

 そんな北川さんに「朝ドラに革命を起こしたんじゃないか」と思えた部分を改めて尋ねると、「一番はヒロインが胎児から出るってことですかね。同じ日に同じ産院で生まれた男女の話で、舞台が田舎なので、まずはないレアケース。2人の赤ちゃんが新生児室に並べられて、(ヒロインの幼なじみの律役の)佐藤健君の声で『まだ名前もないとき僕らは出会った』ってナレーションが入るんですけど、これまで数々の出会いのシーンを散々書かされてきましたが、『まだ名前のないときに出会う』というのは自分では書いたことがなかったし、少なくとも私は他の作品で見たことがない」と話す。

 さらに北川さんは、「『面白い!』と思ってもらえるかどうかとは別に、これを作ることができたというのは自分的には画期的。サブタイトルにもこだわりを見せた。第1週が『生まれたい!』、第2週が『聞きたい!』ってヒロインの思っていることになっている。とにかく全て『~したい!』で行こうと。本当はこういうことがありますよって説明になっていた方がいいと思うんですけど、すべてヒロインの思いになっていて、人間の“生きる本能”を描くという作品のテーマにもなっている。私の思いつきをすごく大事にしていただいて、話を聞いた段階では『えっ?』ってなるようなことをどんどん実現できたのかな」と周囲に感謝していた。

 「半分、青い。」は4月2日スタート。NHK総合で月~土曜午前8時ほかで放送。全156回を予定。

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