超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、横浜市で開かれたゲーム開発者向けの交流会「CEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス)2018」(8月22~24日)で、任天堂の代表取締役フェロー宮本茂さんの基調講演について語ります。
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「マリオの父」として知られる宮本茂さんが10年ぶりにCEDECに登場し、「どこから作ればいいんだろう?から10年」と題した講演をした。宮本さんは、過去10年間のトピックスに、スマートフォンの普及と、仮想世界でブロック遊びを楽しめるゲーム「マインクラフト」のヒットを挙げ、そうしたヒット商品を自身の手で作り出せなかったことに対して悔しさを告白したのが印象的だった。
スマートフォンの「タッチ操作」は、2004年に任天堂が発売した携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」で先行していた分野だ。しかし、07年にアップルからアイフォーンが発売されると、一気に市場が拡大してDSは“傍流”に追いやられた。「マインクラフト」のようにユーザーが自由にコンテンツを作るエディター型のゲームも、任天堂が何度も挑戦してきたが、マインクラフトのような世界的なヒットにはつながらなかった。
その上で宮本さんは、ゲーム作りでアイデアが実を結ばなかったときは、理由と共にストックしておくことが重要だとした。技術の進化や時代の変化などで、問題が解消される場合があるからだ。ただし、その場合も複数の問題を一つのやり方で解消する方法を見つけることが重要だと指摘した。そうしたストックの多い人同士では、より深い会話ができるとした。
ハードウエアとソフトウエアの関係性についても、宮本さんは持論を展開した。「ユーザーはゲームを遊ぶために、仕方なくゲーム機を買うのであって、逆ではない」というわけだ。そのためにもゲーム会社はユーザーに「適正な価格で、広く薄くゲームを購入してもらう」習慣を定着させることが重要と話した。スマートフォンのゲームで一部の人が高額な課金をする「重課金」につながるビジネスモデルを避けることは、ブランドに対する責務だとした。
例に挙げたのが、任天堂がスマートフォンで発売した「スーパーマリオラン」だ。本作で体験プレー後に一定金額を支払えば全コース遊べる買い切りモデルが採用されたのも、こうした考え方によるものだと説明した。一方でアップデートが容易なスマホゲームの良さも理解できたとして、今後もソフトウエアに対して適正な対価を得るビジネスに挑戦していきたいと力を込めた。
講演ではスマートフォン用ゲームとして世界的に大ヒットした「ポケモンGO」にも触れられた。「マリオ」のような従来のゲーム開発の常識からすると、「ポケモンGO」の内容がシンプル過ぎるという意見もあったが、結果としてシンプルだから世界中の人に気軽に楽しまれる内容になったと分析した。宮本さんは「自分が参加していたら、もっと複雑にしてしまった」として「非常に幸運なプロジェクトだった」と振り返った。
最後に、10年前からNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)を視聴しているという意外なことも明かした。放映中の「半分、青い。」では、マンガ家を目指した主人公の鈴愛が、眠れなくなるまで自分を追い込んで創作したエピソードに触れた。宮本さんは「ゲーム作りで自分をそこまで追い込んだことはあっただろうか」とクリエーターとして自問自答したといい、そうしたゲーム開発者が1人でも生まれれば、グローバルに展開できる国産ゲームが増えるとエールを送った。
故・岩田聡さんから君島辰巳さんを経て、古川俊太郎さんにバトンタッチされた任天堂の経営体制。現在は代表取締役フェローとして、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに新設される「任天堂エリア」の制作などを手がけている宮本さんだが、後身の育成が重要な責務であることも確かだ。仏芸術文化勲章のシュバリエを受章するなど世界的に最も有名なゲーム開発者である宮本さんが、自身で世界的なヒットを生み出せなかったことを本気で悔しがる姿勢を見せたことが、業界の若手に対するエールになったと感じられた。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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