高阪剛:「UFC236」ダブルタイトルマッチの見どころ語る メインイベントの勝者は…

「UFC236」に出場する(左から)マックス・ホロウェイ選手、ダスティン・ポワリエ選手、ケルヴィン・ガステラム選手、イズラエル・アデサニヤ選手(C)GettyImages
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「UFC236」に出場する(左から)マックス・ホロウェイ選手、ダスティン・ポワリエ選手、ケルヴィン・ガステラム選手、イズラエル・アデサニヤ選手(C)GettyImages

 日本時間の14日、米アトランタのステート・ファーム・アリーナで総合格闘技の大会「UFC236」が開催される。ライト級暫定王座決定戦として、マックス・ホロウェイ選手とダスティン・ポワリエ選手が対決。ミドル級暫定王座決定戦では、ケルヴィン・ガステラム選手とイズラエル・アデサニヤ選手の対戦というダブルタイトルマッチが行われる。二つのタイトルマッチの見どころを格闘家の高阪剛さんに聞いた。

ウナギノボリ

 ◇ホロウェイ対ポワリエ戦は、激しい試合になることは間違いない

 --メインイベントはマックス・ホロウェイ選手とダスティン・ポワリエ選手のライト級暫定王座決定戦となりました。両者は2012年2月の「UFC143」で対戦しており、7年2カ月ぶりの再戦となります。この一戦を高阪さんはどう見ていますか?

 先日、ホロウェイとポワリエの1回目の試合映像を見返したのですが、7年の月日は2人をものすごく成長させたなと、改めて感じました。当然といえば当然なのですが、単純に打撃、組み技の技術だけでなく、例えば広いオクタゴン内での距離のつかみ方や、ケージの使い方、打撃と組み技のバランスなど、いろいろなものを積み上げてきている2人の対戦ですから。前回はポワリエが勝ってますけど(1ラウンド、腕ひしぎ三角固めでの一本勝ち)、その結果は当然参考にはなりません。

 --ホロウェイ選手はその試合がUFCデビュー戦でした。試合のポイントはどのへんになると思いますか?

 両者ともにトップレベルのストライカーなので、当然、打撃の攻防が鍵を握ると思いますが、タイプ的には少し違うんですよね。まずホロウェイの方は、非常に攻撃的な選手で、なおかつ体勢が崩れた状態からでも強い打撃が打てるのが強みです。一見ヘタクソな打撃に見えて、しっかり相手に当てて、なおかつ効かせるという打撃。それを相手の打撃をもらった後にでも出せる。だから対戦相手からすると、ホロウェイがバランスを崩していて「今いける!」と思って前に出たところで、なぜか強い打撃をカウンターで当てられて効いてしまうという、そんなことが起こっているんです。だから前回、昨年12月のブライアン・オルテガとの試合も、そういったところが随所に見られて、だからこそ、あのオルテガが強く見えなかったんです。

 --思いもよらぬタイミングで打撃をもらうから、オルテガ選手も余計に効いてしまったわけですね。

 一方のポワリエはホロウェイとは対照的で、体勢を整えてから的確にしっかり打ち切る打撃です。サウスポーで「ケンカ四つ」の相手に対して右のジャブで追い込んでおいて、左ストレートで顔面を貫くというのが一つ軸としてあって……かと思いきや、左から入って右のフックを返すというのもフィニッシュブローとして持っている。相手がグラついたときも、慌ててラッシュを仕掛けるのではなく、しっかり形を整えてから仕留めにいく。裏を返せば、本人の中で勝つ形が決まってきてるんだろうなと思うんです。

 --ポワリエ選手は現在3連続フィニッシュ勝利中ですが、だからこそ勝ち切ることができていると。

 そうですね。それともう一つは、UFCミドル級王者ロバート・ウィテカーと少し似ているところがあって。おそらく、ポワリエの打撃というのは形が整っているが故に、相手からするとだんだん読めるようにもなってくると思うんです。だから攻撃を被弾することも多くて、昨年7月のエディ・アルバレス戦でも、打ち終わりでカウンターを入れられたりもしてました。

 --ですが、最終的にはTKOで勝利しているので、ウィテカー選手同様、打たれた後のリカバリーが早いわけですか。

 そうですね。ダメージ回復が早いのと、アンソニー・ペティスとの試合では、1ラウンドから激しい殴り合いを展開しながら、最終ラウンドでもめちゃくちゃ元気でしたから。あれはスタミナとはまた別の分類の耐性があるんです。

 --なぜかスタミナも切れないし、ダメージも回復してしまう。

 こればっかりは自分も理解できないんですよね。脳が揺れたら足が利かなくなるはずなんですが、踏ん張って打撃を打てちゃったり。だから効いているはずなのに、そこから盛り返して逆転してしまう強さがあるんです。

 --となると、勝負はどうなりそうですか?

 ものすごく効くホロウェイの打撃をもらっても、果たしてポワリエはリカバリーすることができるか、ここもポイントだと思うんです。ただ、階級的にはホロウェイはフェザー級で、ポワリエはライト級に転向して長いですから、試合が長引くと、ポワリエに傾いてくるんじゃないかとも思います。あとは、両者ともに相手の体力を削っていくような試合運びができる者同士なので、もう一つ「Xファクター」的なものがないと、きれいに勝つのは難しいかもしれない。ただ、激しい試合になることは間違いないですね。

 --では両者肉を切らせ合いながら、どちらが骨を断てるか。

 そういう試合になるでしょうね。だから、最後までどうなるか分からない、見逃せない試合になると思います。

 ◇ガステラム対アデサニヤ戦は、完成しつつある者と、大いなる可能性を秘めた者との戦い

 --セミファイナルは、ケルヴィン・ガステラム選手対イズラエル・アデサニヤ選手。こちらは正規王者ウィテカー選手の欠場が長引いたことで、ミドル級の暫定王座決定戦になります。

 これも非常に興味深いカードですね。アデサニヤの方は、昨年11月のデレク・ブランソン戦がナンバーシリーズのメインカード初登場だったと思いますが、その時点で「こいつはまた、すごいヤツが出てきたな」と思っていたら、今年2月のアンデウソン・シウバ戦を経て、あっという間にタイトル戦まで来たので、UFCもその飛び抜けた才能を認めているんだなと思います。

 --いわゆる“飛び級”のマッチメーク(対戦)が組まれて、それをクリアしたことで、UFC6戦目でタイトル挑戦ですもんね。

 さらに恐ろしいのは、あの素養、センスがありながら、まだまだ成長過程であり、今後さらに覚醒していく可能性を残していることです。対するガステラムの方は、逆にどんどん“まとまってきた”タイプの選手。やることを凝縮させ、余計なことをしなくなった。自分のスタイルをしっかりと見つけ、完成形に近づきつつあるんだと思います。

 --両者の体格を比較すると、身長で18センチ、アデサニヤ選手が上回っていますけど、この差は大きいですか?

 もちろんアデサニヤの大きなアドバンテージになっていると思います。ただ、ガステラムはもともとミドル級の中ではかなり小柄なので、それを承知であの階級をやっているわけですから、自分の試合のやり方に相手をどうハメるかだと思います。例えば、踏み込んでもパンチが届かないなら、相手が前に出てくるような空気をしっかり作って、出てきたところで、自分も中に入って打撃を当てるとか。マイケル・ビスピン戦がそうでしたね。

 --左ストレートを打ち抜いて、KOでの幕引きでした。

 ああいうことが、ガステラムはやりたいんだと思うんです。ただ、アデサニヤにどんな引き出しがあるか、ガステラムもまだ全部は理解していないと思います。言ってしまえば、どこから打撃が出てくるか、分からない部分が多い。意外なところから打撃を出してきて、相手に大きなダメージを与えられるのがアデサニヤの強みで、ガステラムがそれにどこまで対応できるかにかかってくるんじゃないかと。

 --アデサニヤは、まだUFCでの試合数が少ないし、試合ごとに成長しているから、何が出てくるか未知数なわけですね。ジョン・ジョーンズがトップに駆け上がっていったときと同様、「こいつは何をやってくるか分からない」という怖さを持っていると。

 だからミドル級版のジョン・ジョーンズですよ。そういう見方をすると、分かりやすいかもしれない。

 --しかも、打撃の才能に関してはジョン・ジョーンズ以上かもしれないという。

 ヒットポイントがすごく的確で、しかも変幻自在なんですよ。パンチでいこうとして、距離が違ったらヒジに変えたりとか。状況判断をするスピードがすごく早い。ただ、それをまだ感覚でやっちゃってる印象。もちろんプランを立てて戦ってはいるんでしょうが、起こったことへの判断は、感覚でやっているような感じがします。

 --では、完成形に近づいたガステラムを相手に、それがどこまで通用するか、ということになりますね。

 あと、前回やったアンデウソンとの試合で、いろいろな細かい技術を盗んでいる可能性があると思います。それが足されたらすごいことになりますね。アンデウソン特有の相手を幻惑させる技術やわなというのは、試合をやったアデサニヤにとって、ものすごく経験になっているわけですから。

 --短期間で飛躍的に進化を遂げている可能性もあると。

 第何形態とかになっているんじゃないかな。そんな“新・アデサニヤ”が見られるんじゃないかと(笑い)。自分はそこに期待しています。

 *……WOWOWではダブルタイトルマッチを生中継。「生中継! UFC‐究極格闘技‐ UFC236 in アトランタ 激闘必至!ライト級・ミドル級暫定王者は誰の手に?!」と題して、WOWOWライブで14日午前11時から放送。

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