呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変
第36話「鈍刀」
11月14日(木)放送分
「YAWARA!」「20世紀少年」などで知られる漫画家、浦沢直樹さんの約19年ぶりとなる短編集「くしゃみ 浦沢直樹短編集」(小学館)が発売された。1980年代から常に連載が途切れることなく、ヒット作を連発している浦沢さんは長編のイメージが強いかもしれないが、短編の名手でもある。何かすごいことが起こるのではないか……とドキドキワクワクさせられるのは、短編も長編も変わらない。読者を魅了し続ける浦沢さんの創作の裏側に迫った。
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浦沢さんは多忙なマンガ家だ。常に長期連載作を抱え、20年以上にわたり1カ月で6回締め切りがある生活を送っていたという。今回の短編集には、1995年発表の「ヘンリーとチャールズ」から2018年発表の「いっつあびゅうてぃふるでい」まで8本が収録される。担当編集によると、これだけ多くの連載を抱える漫画家としては短編が多い方だという。いつ短編を描いていたのだろうか?
「いつ描いていたんでしょうね。よく分からない(笑い)。オファーをいただいた時、正月休みで描けるかな?と調整したり、ゴールデンウイーク進行で入稿して、その後に描いたり。そんな感じでスケジュールを組んでいたんじゃないかな? どうかしてますよね(笑い)」
休みたくならないのか……。常人は考えてしまうが、浦沢さんは違う。
「元々マンガは仕事じゃなくて遊びなんでね。でも、8、9歳くらいの時から、ちゃんと描いていない自分をダメだな、と思っていたんです。サボっていたり新しいアイデアがなかったりする自分を。完全なるアマチュアなのにね。描いた作品を友達に見せて『うまい』と言われても『分かっていないなあ……』と。プロと比べたら全然ダメですからね。今でもダメだな……と思っています。その頃からずっと、頭に浮かんだ面白い画面を描けば、面白くなるという確信はあるんですよ。でも、目標が高過ぎて、なかなか実現できない。頭の中はもっと壮大なんですよ。描き切れていない。だから描き続けているんじゃないかな」
以前、個展「浦沢直樹展」に、小学生の頃に描いた漫画が展示されていた。小学生が描いたとは思えないようなクオリティーだったが、常に「描き切れていない」という思いがあるから、描き続ける。だから、休むという発想がないのかもしれない。
浦沢さんは漫画界屈指のストーリーテラーとして知られる。読み始めると、すぐにストーリーに引き込まれる。どうなるんだ!?とワクワクが止まらず、気がついたら読み終わっている。それは長編も短編も同じだ。短編と長編では描く際の意識は違うのだろうか?
「あまりストーリーテラーと言われるのは好きではないですね。マンガ表現ってストーリーだけではなく、もっと多岐にわたったものでしょ。まあざっくりした話ですが、8ページで魅せることができたら、24ページモノだとしたらそれを3回連ねることができるじゃないですか。長編はその積み重ねで、ある程度のところで区切ったのが短編ということになりますかね。ざっくりし過ぎですけどね(笑い)」
短編にもかかわらず、たくさんの人物が登場しても、各キャラクターの個性が即座に分かるのが不思議だ。何だか分からないけど面白い!という強烈なインパクトを残す作品もある。
「何しろ短いですからね。1コマ目から無駄にはできません。自分のために描くんだったら何でもいいんですけどね。読者がいるわけで、ページをめくらずにはいられない構成とか考えますよね。でも、かと言って分かりやすいものを描く気もありません。何だかよく分からないけど面白い、というものもある。読み終わった時に大きなクエスチョンマークが生まれることも、面白いということの一つだと思います」
浦沢さんが漫画について語る時、「演技」という言葉を度々口にする。キャラクターの演技が魅力的だからこそ、ストーリーに引き込まれるのかもしれない。
「以前、美術系の大学で漫画の描き方を教えていたことがあって、最初の授業で『描き方も大事だけど、同時に演劇学校に行った方がいい』『演技、感情表現を勉強した方がいい』と言っていたんです。感情というのは絵文字のように表現できるものじゃない。もっと複雑なんです。眉間(みけん)のしわの入り方、うつむき方、目線など微妙な演技によってキャラクターの感情をいかに伝えるか。演技を積み上げていくことで、感情が複雑になり、思ってもみないキャラクターになったり、ストーリーがふくらんだりします」
浦沢さんは「子供の頃から、ドラマや映画を見て、役者の表情を見ていました。画面、構図や映像が頭の中に入っているんです」という。浦沢さんの映画の楽しみ方は特殊だ。「忙しくて冒頭30分しか見ていない映画もたくさんあります」とも話す。
「後半がどうなるかを想像するんです。見た人に僕が考えた後半の話をしたら、そっちの方が面白いと言われたことが何度かありますね(笑い)。映画でも小説でも、この始まりなら、こうなるかも、ああなるかもと常に自分なりのストーリーを考えながら見ています。子供の頃から純粋な客になったことがないのかもしれません。いつも作ることを考えているので」
浦沢さんは常に読者を楽しませることを考えている。「もし自分のためだけに漫画を描くなら?」と聞いてみると「何度もやってみようと思うんですが、何をモチベーションにすればいいのか分からない」と戸惑う。「自分がやりたいのは、人の感情を揺さぶること。楽しんでもらうことに喜びがある」という思いがあるからだ。
浦沢さんは現在、マンガ誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で新作「あさドラ!」を連載中だ。これまた先の読めない展開で、読者の感情を揺さぶっている。これからも、読者を魅了し続けるだろう。
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