注目映画紹介:「旅のおわり世界のはじまり」前田敦子が歌うことを夢見る女性に 異国へ放り出される感覚を味わえる

映画「旅のおわり世界のはじまり」のメインビジュアル (C)2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO
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映画「旅のおわり世界のはじまり」のメインビジュアル (C)2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO

 女優の前田敦子さん主演の映画「旅のおわり世界のはじまり」(黒沢清監督)が、6月14日からテアトル新宿(東京都新宿区)ほかで公開される。中央アジア・ウズベキスタンを仕事で訪れた女性が、自分を見詰め直し成長していく姿を描く。脚本も書いた黒沢監督が、プロット段階から「直感」でイメージしていたという前田さんの演技に魅了される。名曲「愛の讃歌」の歌唱シーンも見どころだ。

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 バラエティー番組のリポーター、葉子(前田さん)は、幻の怪魚を探すためにウズベキスタンへやって来た。目当ての獲物は姿を見せず、スタッフのイライラは募っていく。そんな中、葉子は街で美しい装飾の施された劇場に出くわし、その中で、夢と現実の交錯する不思議な体験をする……。加瀬亮さん、染谷将太さん、柄本時生さんらも出演している。

 葉子がホテルから出てくるところから映画は始まる。何が起きているのかが分からず、一瞬戸惑う。それこそが監督の狙いだ。脚本執筆の際、「主人公1人だけを描いてみよう」というルールを自らに課したそうだが、それが奏功。見ているこちらも葉子と同化し、異国の地へ放り出される感覚に陥るのだ。

 夢は歌うことなのに、今は本意ではない仕事を黙々とこなす葉子。演じる前田さんの表情がいい。カメラの前では笑顔を取り繕い、仕事が終わると誰とも交わらずホテルの部屋に一人こもる。その様子からは、葉子の不安や緊張、孤独が伝わってくる。だからこそ、「愛の讃歌」を歌唱する場面では、葉子と共に心を開放させる気分に浸れた。

 黒沢監督が「Seventh Code」(2014年)、「散歩する侵略者」(2017年)に続き前田さんを起用。一人の女性の成長をエモーショナルに描いた。ホラーやサスペンスのイメージが強い黒沢監督の作品を日ごろ敬遠しがちな人にもお薦め。「日本・ウズベキスタン国交樹立25周年」記念プロジェクトで作られたウズベキスタンとの初合作映画。両国の浅からぬつながりを知ることもできる。(りんたいこ/フリーライター)

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