俳優の堤真一さんの主演映画「泣くな赤鬼」(兼重淳監督)が6月14日に公開された。日に焼けた赤い顔と鬼のような熱血指導から「赤鬼先生」と呼ばれていた城南工業高校の野球部監督を主人公に、末期がんを患う元教え子との心の交流を描いている。中学時代は野球部だったという堤さんは「先生がめちゃめちゃ厳しかった。脚本を読んだ時にその先生を思い出した」と役作りに生かしたという。「自分が出ている映画で泣いたのは初めて」と語る今作について、また元教え子を演じた柳楽優弥さんやその妻役の川栄李奈さんについて、壁にぶつかったエピソードなどを、堤さんに聞いた。
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重松清さんの短編集「せんせい。」(新潮文庫)の一編を映画化。「赤鬼先生」と呼ばれていた城南工業高校野球部監督の小渕隆(堤さん)は、甲子園出場一歩手前まで行くも夢かなわず、今では、定年間際の中年になっていた。ある日、かつての教え子のゴルゴ(柳楽さん)と偶然、病院で再会。野球で挫折し、高校を中退したゴルゴは、雪乃(川栄さん)と結婚して家庭を築いていた。ゴルゴが末期がんで余命半年だと知った小渕は、「また野球をやりたい」というゴルゴの願いをかなえるために動き出す……というストーリー。
堤さんは今作への出演を決めた理由を「脚本が良かったし、柳楽くんと共演できるというのも大きかったですね。彼とはちゃんと仕事をしてみたかったので。特別な思い入れがあるというか、すごい俳優さんだと思うので、そういう方と一緒にできるのは役者冥利に尽きる」と説明する。
重松さんの原作を読んで、「登場するのはほぼ普通の人たちで、そんなに何か特別な大事件が起きて……というものじゃない。その中でそれぞれの登場人物の関係性のとらえ方がすごく細かいというか。いろんなものが絡み合っているのが人生だ、というふうに描いている。そういうのは、役者は演じる上で最も難しいと感じました」という。
また、教師と生徒という関係性についても「父でもない、上司でもない、子供が社会に出ていく上で初めて接する大人。微妙だけど一番そこから学べる関係だと思う。映画の中でも親子みたいに見えるシーンもあって、面白い関係だなと感じました」と語る。
脚本を読んで「正直、最初はいいお話すぎるなと思いました。でも、台本に余白がある。ト書きなどで細かく決められてない脚本だったので、どっちにも広がる可能性があるなと思いました。完成した作品を見て、改めて監督の手腕を感じましたね」と感想を語る。
赤鬼先生のキャラクターは「僕も中学時代に野球をやっていて、その先生がめちゃめちゃ怖くて厳しかったんですよ。脚本を読んだ時にその先生を思い出しました」と役作りに生かしたという。
映画では甲子園を目指す血気盛んな熱血監督時代と、定年間近の高校教師を演じ分けている。「熱血の時はそんなに難しくないんですけど、やる気がなくなっちゃってる、魂抜けちゃってる時っていうのは、とにかく“現場ではいつでも寝てやる”って気持ちで挑みました(笑い)。自分からノックするような能動的で体が動く状態と、体を動かす気がない状態を意識しました。そういう意味では、野球というものを手がかりに演じ分けていったと思います」という。
念願だった柳楽さんと共演し、「すごい俳優さんだと思いますね。役に対して迷いがないというか。自分が核をつかんだ部分で、真っすぐ役に向き合って演じる人。疑いやああしようこうしようっていうことよりも、その役を信じる力がすごいですね」と感心する。
柳楽さん演じるゴルゴの妻で幼い子を持つ母を演じた川栄さんの印象は「すごく集中力がある人。変な自己アピールがない。今回は病気の夫を支える役ということで、その距離感とか在り方っていうのはなかなか若い人じゃできない。彼女がアイドルだったなんて全然知らなくて、ずっと役者をやってきた人だと思っていた。“華”はあるけど、余計なものがない。ピュアな人です」と評する。
ゴルゴは野球の才能はあるが、周囲とうまくやれずにチームの中で浮いてしまい、野球をやめ、高校も中退してしまう。堤さんもゴルゴのように壁にぶち当たるような経験はあるのだろうか。「中学と高校で野球をやっていて、中学の最後の試合で骨折して出られなくて、高校ではやるつもりはなかったんですけど勢いで野球部に入ってしまって、結局つまんなくなっちゃったんですよね。夏休み中に辞めたら練習がきつくて逃げたと思われるので、9月に辞めようと思って(笑い)。辞めても特にやりたいこともなかったので、そこからほとんど学校も行かなくなってしまって。それで、冬休みに毎日2時間くらいしか寝ずに、全科目の課題とレポートを片付けてダーンと出したんですよ。これをやる根性があるならもうちょっと学校にちゃんと行けばよかったなって(笑い)。それから学校に行くようになって、卒業まではほぼ休みなしでしたね」と自身の経験を語る。
今や話題作に数多く出演し、引く手あまたの堤さんでも「挫折だらけですよ」と笑う。「たまたま体を動かすことだったら、とアクションの養成所に入ったら、けがばっかりして、みんなが練習しているのにリハビリみたいなことばかりやっていた。それが、たまたま坂東玉三郎さんの舞台に関わる機会をいただいて、その世界観に圧倒されました。それがきっかけで、一生舞台に関わっていこうと思ったんです。それまでは挫折続きだったんですけど、そこから新しいものが見えてきたな、と思います。それで今に至っている」と思い返していた。
若い頃の赤鬼先生は、野球部が地区大会で決勝まで進み、「甲子園に行けるぞ!」と家族に報告。妻も娘も喜んでくれるとばかり思っていたが、共感を得られない。堤さんはこのシーンについて、「すごくいい報告をしているじゃないですか。娘も一緒に喜んでくれると思っている。でも実際には違った。そういうことって人間、多々あるんじゃないかなって。僕の子供はまだ小さいですけど、気をつけようと思いました。自分が楽しいことが周り全員にとって楽しいことではないっていう……」と共感していた。
実際に父親でもある堤さんに10年後の自分像を聞くと、「10年後は分からない。ただ一つ分かるのは娘が15歳になっているということ。ちょうど思春期かもしれないし、どういう接し方、関係になっているか想像もつかない。子供が僕に対してどう思っているのか、どんな態度なのかも分からないし、反抗期もあるかもしれないし……」と想像を巡らせていた。
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