2019年上半期アニメ:ヒット支えた“複数回鑑賞”と“布教の連鎖” 女性ファンが盛り上げ

ファン同士が、お互いに自分の好きな作品に他作品のファンを誘い合うという“布教”の連鎖がみられたのです。
1 / 1
ファン同士が、お互いに自分の好きな作品に他作品のファンを誘い合うという“布教”の連鎖がみられたのです。

 2019年上半期のヒットアニメを振り返ってみると、昨年同様「名探偵コナン 紺青の拳」を始めとした劇場版アニメが目立った。テレビアニメと異なり、有料のコンテンツであるだけに一見ハードルが高そうに見えるが、そこには女性ファンならではの行動が大きく影響したようだ。アニメコラムニストの小新井涼さんが独自の視点で分析する。

ウナギノボリ

 ◇

 2019年上半期のアニメ作品を振り返ってみると、テレビアニメよりも劇場版アニメ、中でも特に女性ファンの熱量が高い作品に勢いがあったように思います。例えば、今年も歴代興行収入を塗り替える勢いの劇場版「名探偵コナン 紺青の拳」や、観客動員数50万人を突破し、世界各地での上映が決まった「プロメア」、人気タイトルの新作劇場版である「えいがのおそ松さん」や「うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム(うたプリ)」、「KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-(キンプリ)」などがそうでした。

 数あるアニメ作品の中で特に盛り上がりを見せていたこれらの作品に共通する、ヒットの原動力とは一体何だったのでしょうか。

 一番の原動力は、女性ファンによる“複数回鑑賞”、それも2、3回なんていうものではなく、週2回以上のペースで映画館に通うほど熱心なファンが多かったことだと思います。作品の面白さは大前提として、彼女たちの複数回鑑賞を後押しした要因としては、次の二つも大きかったのではないでしょうか。

 一つは作品が持つ“アトラクション性”です。上記の作品は、「コナン」や「プロメア」なら迫力のアクションシーン、「うたプリ」や「キンプリ」なら華やかなライブシーン、「おそ松さん」なら全力のギャグシーンといった、何も考えずに理屈抜きで楽しめるアトラクション性の高いシーンを持っています。全ての作品で「応援上映」が実施されていることからも推し量れますが、そうした作品を見ることは、ただ映画を“鑑賞する”というよりは、全身で“体感する”という感覚に近いので、見終わった後、身体は疲れているのに、気持ちは超元気という強烈な充足感が味わえるのです。この映画鑑賞後の心が満たされる感じはなかなかクセになるので、仕事の後や週末に日頃の疲れを癒やすため、つい何度も劇場に足を運んでしまう要因になっているのだと思います。

 もう一つは、週替わり特典としての「先付け/後付け映像」です。色紙やブロマイドといった週替わりの入場特典はすっかり定番になっていますが、最近の女性向け作品に増えているのが、この先付け/後付け映像を週替わりで映画本編の前後に上映するというものです。上記作品では、「うたプリ」や「キンプリ」、「おそ松さん」で、その形態がとられていました。こういった映像は、何度も映画を見ている人でも来週はどんな映像が来るのかと毎週新鮮な気持ちで複数回鑑賞ができますし、先着順の入場特典のように週の途中でなくなることもありません。さらに、それぞれ1週間限定上映なので、その週に絶対にもう一度映画館に足を運ぶ必要があるなど、ファンの複数回鑑賞を確実に後押しする特典になっているのです。

 こうしたアトラクション性や週替わりの映像によって、女性ファンによる複数回鑑賞はますます促されることになり、今年の上半期は上記の作品群が特に盛り上がりを見せたのだと思います。

 また、今回盛り上がった作品に関しては、女性ファン同士による“布教の連鎖”が活発だったのも印象的でした。実際に自分も、「キンプリ」を布教した「うたプリ」ファンに、お礼兼布教として「うたプリ」の映画を見せてもらったりしたのですが、このように、上記作品のファン同士が、お互いに自分の好きな作品に他作品のファンを誘い合うという“布教”の連鎖がみられたのです。

 こうした“布教”は「相手が見てくれたからしょうがなく自分も付き合う」といったネガティブなものではなく、「そっちの作品も気になるけど初見一人じゃ不安」という人同士が、お互いに必要な知識やジャンルのルールをある程度教え合った上で一緒に映画に行くというポジティブなものでした。そのため、布教された側の感想も自然と好意的なものが多くなりますし、ただでさえ一人が何十回も鑑賞するような作品のファン同士がお互いに引き込み合っているので、鑑賞者の母数が増えるだけでなく、布教に成功すれば誘われた側も新規のファンとして複数回鑑賞をしてくれるのです。

 今年の上半期、女性人気が高い劇場作品が盛り上がりを見せていたのは、それぞれのファンが単に自分の好きな作品を複数回鑑賞しただけでなく、こうした女性ファン同士の“布教の連鎖”によって、ファン層が似ている上記の作品間で、ファンの熱量の相乗効果が起きていたからだと思います。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。

アニメ 最新記事