菅野美穂:日本語吹き替えは「よその家の子を預かっているみたい」 ダニーのように「腹が据わった女性に」

映画「ジェミニマン」の日本語吹き替え版で声優を務めた菅野美穂さん
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映画「ジェミニマン」の日本語吹き替え版で声優を務めた菅野美穂さん

 俳優のウィル・スミスさんの主演映画「ジェミニマン」(アン・リー監督)が10月25日に公開された。現代のスミスさんと最新技術により実現した“23歳のウィル・スミス”の共演が話題の今作で、潜入捜査官のダニー(メアリー・エリザベス・ウィンステッドさん)の吹き替えを担当しているのが女優の菅野美穂さん。アフレコの難しさを「ブレーキとアクセルという表裏の関係が難しかった」と話す菅野さんに、女優としての演技と声の演技の違い、収録時のエピソード、今作のテーマである“クローン”について聞いた。

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 ◇芝居と声の演技の違いに苦戦 女優業での“気づき”を得る

 今作の吹き替え声優に決まった際に「普段とは違う演技に緊張しました」とコメントしていた菅野さんだが、「アイデアを持っていくというよりは、スタジオに入って監督がおっしゃることに返していけるように頑張ろうという心持ちだった」と収録前の心境を明かし、「実際に演技された方がいらっしゃり、ダニーという人物と世界観が出来上がっているので、お手伝いができるように」と考えて収録に臨んだという。

 収録の際には「英語の言葉の性質などを考慮して、普段しゃべっている声のトーンよりは低め、落ち着いたトーンを意識しました」と話し、「気持ちで言いすぎると画(え)と合わないし、落ち着きすぎると緊迫感が伝わらない。気持ちになってしゃべるというより、しゃべったことで気持ちを呼び込むというか。映像に自分を近付けていき、気持ちも逆算してこうして……という感じで進めました」と振り返る。

 洋画の吹き替えと普段の女優業との違いについては、「体を動かしていないから、“よその家の子を預かっている”みたいな気がして(笑い)。声だけに限定されて演技するのは、手足を縛られているだけじゃなく、マインドもちょっと違う」といい、「いつもはそんなつもりはないけど、癖が出て自分の演技になっているんだなと思いました。だから、リセットする意味ですごく向き合えた気がします。自分の立つ姿勢、癖みたいなものって演技でもそういうのはあるんだなって」と改めて本業での“気づき”も得たことを明かす。

  ◇ダニーのような女性に憧れ

 菅野さんが声を担当したのは、今作のヒロインで、謎の秘密機関“ジェミニ”に主人公のヘンリーと共に立ち向かう潜入捜査官のダニー。「動じないというたくましさもありつつ、女性らしい服装をしているわけでもないし、切れ者という雰囲気でもないのに、いい意味で相手を油断させる」キャラクターと評し、「武道の達人みたいな、戦おうとしていないけど雰囲気としては向こうの土俵で囲まれているみたいなところがあると思う。私は育児をしていていつも焦っているので見習いたい。子供が大きくなっとき、ダニーみたいにどっしりした、腹が据わった女性になれていたらいいなって」と笑顔で語る。

 ダニーの“相棒”となるヘンリーについては、「落ち着いているし、自分がこれまでしてきたこと、逃れられない罪と共にありながらも近くにいる人には寛容というか、イージーゴーイングな感じ」と話し、「乗り越えてきたものがハードだからこその人だし、ダニーもそうだけど、ヘンリーはすごく大人。ワーッと楽しもうとしないし、常に心の中にコップを持っていて、その中の水を静かに保とうとしている……大人としては大変だなと思います」と笑う。

  ◇若いころの自分に会えたら伝えたいことは…

 「あなたはもう一人の自分と戦えますか」というキャッチコピーが示すように、今作はクローンが物語の鍵を握る存在だ。「自分のクローンと戦うなら?」という質問に、「不思議ですよね。自分が20歳そこそこのときの写真を見ると、戻りたいかというと恥ずかしいと思って戻りたくないなと思う」といい、「若いときの勢いにはかなわないなと思いますけど、経験と時間と共に冷静さと落ち着きを得たのかなという気がするので、地に足を着けて対抗するというしか策がないのかなって(笑い)」と話す。

 続けて「20代の自分と会えたとしたら伝えたいことは?」と尋ねると、「無我夢中で七転八倒しながら過ごしてきた歳月とは違い、『もっと落ち着いて過ごすといいと思うよ』って言えるような気もする」と神妙な表情で話す。

 最後に、今作の見どころについて「アクションも素晴らしく、クローンを通じて自分と向き合う、人生と向き合うという哲学的なところもあったりする。エンターテインメントとしてもちろん楽しめるけど、渋い要素もあります」とアピールしていた。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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