注目映画紹介:「男はつらいよ お帰り 寅さん」シリーズ50作目 寅さんと渥美清の人間力のすごさを改めて思い知る

映画「男はつらいよ お帰り 寅さん」の場面写真(C)2019松竹株式会社
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映画「男はつらいよ お帰り 寅さん」の場面写真(C)2019松竹株式会社

 国民的人気映画「男はつらいよ」シリーズの最新作「男はつらいよ お帰り 寅さん」(山田洋次監督)が、12月27日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほかで公開される。1969年の第1作公開から50作目。1997年公開の前作から22年ぶりの新作だ。改めて、寅さんと演じた渥美清さんの人間力のすごさを思い知らされた。

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 「フーテンの寅」こと車寅次郎(渥美さん)のおい、諏訪満男(吉岡秀隆さん)を軸に描かれる。サラリーマンを辞め念願の作家になった満男は、妻の七回忌法要のために久しぶりに東京・葛飾の実家を訪れ、父・博(前田吟さん)と母・さくら(倍賞千恵子さん)と昔話に花を咲かせる。

 時を同じくして、一人の女性が東京に降り立つ。満男の初恋の人で、かつて結婚の約束までした及川泉(後藤久美子さん)だ。泉が足を運んだ書店で、たまたま満男のサイン会が開かれていて……。他に池脇千鶴さん、夏木マリさん、浅丘ルリ子さんらが出演する。

 正直なところ、見る前は昔の映像と今回新たに撮った映像をつなぎ合わせた“寅さんの回顧録”のような作品なのだろうと、そこまで期待をしていなかった。

 ところが、4Kデジタルでよみがえった過去の映像は思いのほか美しく、まるで寅さんがそこにいるような感覚に陥った。物語も満男を軸にしたことで、むしろ、寅さんが満男にとって(見ている私たちにとっても)、いかにかけがえのない人なのかが伝わってきた。

 記憶に残っているエピソードと、スクリーンに映し出されている物語がシンクロした時には懐かしさとうれしさでいっぱいになり、「メロン」のエピソードでは大笑いさせられもした。

 かつての団子屋「くるまや」は今やカフェ。裏手にある博とさくらの暮らす家にはバリアフリーのための手すりが備え付けられているなど、時代の移ろいと老いについて、さりげなく触れているところにも感銘を受けた。

 さくらが老いてもなお、博のことを「おとうさん」でも「おじいちゃん」でも、「あなた」でも「ねえ」でもなく、きちんと「博さん」と呼んでいるところに「人」を大切にする山田監督らしさを感じた。そして映画のラストには目頭が熱くなった。

 寅さんを知る人は懐かしさでいっぱいになり、知らない人は珍しい人柄に驚きながらも大好きになるはずだ。寅さんは言っていた。「困ったことがあったらな、風に向かって俺の名前を呼べ」と。見終えたとき、誰もが「寅さん」と呼びたくなるはずだ。往年の寅さんファンはもとより、若い人にもぜひ見てほしい作品だ。(りんたいこ/フリーライター)

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