映像研には手を出すな!:原作者が明かす誕生秘話 マンガ的な文法を知らずに… アニメ化に感動も

「映像研には手を出すな!」の作者の大童澄瞳さん
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「映像研には手を出すな!」の作者の大童澄瞳さん

 テレビアニメがNHK総合で放送中の大童澄瞳(おおわら・すみと)さんのマンガ「映像研には手を出すな!」。女子高生たちが考える“最強の世界(アニメ)”を表現しようとする姿を描いたマンガで、「パース付き吹き出し」「架空のアニメの設定画」など独創的な表現が話題になっている。アニメを手がけるのは「夜明け告げるルーのうた」「四畳半神話大系」などで知られ、鬼才とも呼ばれる湯浅政明監督。“最強の世界”をアニメで見事に表現している。独創的な表現はいかにして生まれたのだろうか? 大童さんに聞いた。

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 ◇「映像研」が映像的な理由

 「映像研」は、自分の考えた“最強の世界”で大冒険することが夢の浅草みどり、プロデューサー気質の金森さやか、アニメーター志望のカリスマ読者モデルの水崎ツバメが、脳内にある“最強の世界”を表現すべく、映像研究同好会を立ち上げ、アニメ制作に打ち込む姿を描いている。

 アニメは湯浅監督率いるサイエンスSARUが制作。NHK総合で毎週日曜深夜0時10分に放送されている(関西地方は同深夜0時45分放送)。今夏にはアイドルグループ「乃木坂46」の齋藤飛鳥さん主演で実写映画化も決定し、原作コミックスの累計発行部数が50万部を突破するなどヒットしている。

 「映像研」の連載が「月刊!スピリッツ」(小学館)でスタートしたのは2016年。大童さんにとって「映像研」はデビュー作で、「当時、マンガの描き方をよく分かっていなかったんです。オリジナルの同人誌を一本描いたくらいだったので」と、マンガを描いた経験がほとんどないまま連載が始まった。

 「担当編集の方から、読者に既に引っかかりのあるジャンル、例えば電車、アイドルなどで始めると、新人としてマンガを描く上で有利ですよ……という話があったんです。そこで、自分に何があるだろう? と考えた。高校生の頃から、実写を含めて映像を作っていたので、映像はどうだろう? となりました。最初は、映像全般がテーマだったのですが、アニメーションも好きだったので、第1話はアニメはどうだろう?となり、そのままアニメがテーマになったんです」

 アニメは子供の頃から好きだったというが、アニメだけではなく映像全般に興味があった。

 「僕が中学生の頃は、フラッシュアニメの全盛期でしたし、当時は『電車男』『涼宮ハルヒの憂鬱』などが流行していて、オタク文化が一般的になった時代でもあります。自然にアニメが好きになりました。高校生の時、アニメを作りたかったのですが、当時、入っていた映画部はアニメを作っていませんでした。高校生の頃は宮崎駿、小津安二郎、黒澤明のレイアウトに興味を持っていました」

 「マンガを描く前、専門学校を卒業した後に自主制作でアニメを作ったことがありますし、絵コンテをちらほら描いていましたが、実はマンガ家になろうと思ったことはなくて、結果的になったんです」とも明かす。「映像研」は映像的なマンガでもある。

 「マンガを描き始めた時点で、実写映画向けのレイアウト、絵コンテの知識くらいしかありませんでした。マンガ的な文法を知らなかったんです。だから、映像的なのかもしれません。最近、マンガ的な表現を学び始めたので(笑い)」

 ◇パース付きの吹き出しが生まれた裏側

 独特の表現が魅力の「映像研」の中でも、特に印象的なのがパース付きの吹き出しだ。一般的なマンガは吹き出しの文字は真っすぐ書かれる。パース付きの吹き出しは、文字に角度を付けることで、立体化に見えたり、キャラクターの声の音量を表現できるなどさまざまな効果がある。あまり見たことがない表現だが……。

 「同人誌で初めてマンガを描いた時に既に使っていました。空間の表現が好きなんです。マンガは、小さいコマの中で、空間の立体感をつかさどるのが、壁の線の数本だったりしますが、吹き出しを入れると、空間をつかさどる線が消えてしまう。空間の立体感を損なわずに吹き出しを入れることはできないかな? と考えたんです。音の印象も変わりますし」

 主人公・浅草みどりはアニメの設定画を描くのが大好きなキャラクターで、マンガには建物や乗り物などの設定画が数多く登場する。設定画は図鑑のように解説が細かく描かれていて、眺めているだけでワクワクする。

 「『ドラえもん』の影響が大きいですね。子供の頃からひみつ道具の図解や図鑑を見るのが好きだったんです。細々したものをずっと眺め続けているのが楽しくて。それを今もずっとやっている感じですね」

 ◇アニメで“最強の世界”は再現されたのか?

 アニメを手がけるのは、独特の映像表現で鬼才とも呼ばれる湯浅監督だ。絵を動かさなければいけないアニメでは、浅草たちが作り出す“最強の世界”を見事に表現している。大童さんは、アニメを見て感動したという。

 「アニメを作ることがテーマですが、マンガなので動きません。別のインパクトで補いつつ、見た人が驚くような表現を考えてきます。アニメになると、動く楽しさがストレートに伝わります。動きに魅力を感じる方々によって、動きの面白さを引き出していただいていますし、湯浅監督はフォルム、色などをコントロールしながらアニメを作り出す。すごいです」

 大童さんの頭の中には、浅草たちが作り出す“最強の世界”がある。アニメ化によって、頭の中の“最強の世界”は再現されているのだろうか?

 「想像していたよりも別のものが見られたという感動があります。僕はこれが美しい! という強い気持ちがあって、主張が激しかったり、こだわりが強いのですが、保守的で視野が狭いところもあります。僕一人では、なしえない新しいものが見られたことがうれしいですし、感動があります。幸せなことです」

 アニメ「映像研」は、大童さんと湯浅監督の独創性が化学反応を起こしたからこそ、新しい表現が生み出されたのだろう。今後もマンガ、アニメ、それぞれの表現でどのように“最強の世界”が描かれるのか、楽しみだ。

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