ダンダダン
第10話「キャトルミューティレーションを君は見たか」
12月5日(木)放送分
女子高生がアニメ制作に打ち込む姿を描いたマンガが原作のテレビアニメ「映像研には手を出すな!」(NHK総合で3月まで放送)。絵が動き出すというアニメの驚き、喜びをアニメで表現した。アニメを手がけたのは「夜明け告げるルーのうた」「四畳半神話大系」などで知られ、鬼才とも呼ばれる湯浅政明監督。唯一無二の映像表現が話題になった。湯浅監督に「映像研」の挑戦について聞いた。
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原作は、2016年からマンガ誌「月刊!スピリッツ」(小学館)で連載中の大童澄瞳(おおわら・すみと)さんのマンガ。自分の考えた“最強の世界”で大冒険することが夢の浅草みどり、プロデューサー気質の金森さやか、アニメーター志望でカリスマ読者モデルの水崎ツバメが、脳内にある“最強の世界”を表現すべく、映像研究同好会を立ち上げ、アニメ制作に打ち込むストーリー。
アニメは、湯浅監督率いたサイエンスSARUが制作。今年1~3月に放送された。全12話がAmazon Prime VideoやGoogle Playほかでダウンロード販売、レンタル配信されているほか、ブルーレイディスクボックスがが6月24日に発売される。アイドルグループ「乃木坂46」の齋藤飛鳥さん、梅澤美波さん、山下美月さんがメインキャストを務める実写ドラマも放送中。
「映像研」はアニメ化発表される前からSNSなどで「湯浅監督にアニメ化してもらいたい」という声も見られた。独創的な表現でファンを魅了してきた湯浅監督なら、“最強の世界”をアニメで表現できるはず……という期待があったのだろう。湯浅監督自身も原作を読んで「面白い!」「SARUでできないかな?」と考えていたという。
「頭でイメージしたことを具現化していくところが面白い。それは、自分もアニメを作っていて面白いところなんです。マニアックなものなのかな? とも思っていたのですが、マンガ、エンターテインメントとしてウケている。アニメ制作の苦労を描いていないところもいいところですよね。自分たちがやると、苦労を描いてしまう」
アニメ化にあたり「基本的に原作準拠」した。
「原作を読むと細かい描写も多い。アニメとしてはそこを分かりやすくしたいと思っていました。すごいアニメを作っている設定なので、すごいアニメを作ればいいのですが、それが難しい。なかなか理解されないのですが、マンガをアニメにそのまま置き換えるのは無理なんです。アニメにした時、どうしたら原作の良さが伝わるのか? アニメにすると気になるところもありますし、行間もあるので、補完していきました。こだわったところは、分かりやすく見えるようにしています。キャラクターの芝居にもこだわりました。水崎の走り方、箸(はし)の持ち方がおかしかったりするところをそろえるのが大変だったり。裏設定を作っているところもあるので、細かいところを見ていただきたいですね」
湯浅監督はこれまでも独自の映像表現でアニメの可能性を広げてきた。「映像研」では、浅草たちの想像の世界を水彩画風のタッチで描いたことが挑戦の一つだったという。
「水彩画タッチで描いたのはアニメの中のアニメ。本編とは違う感じにしたくて、撮影処理で水彩画っぽくできるという話があり、それでやろう! となった。水彩画は平面的になりますが、それが動いて、立体的になれば面白い。絵の中に入っていくような感覚になる。まだまだなところもありますが、『映像研』ならではの映像になったのかな? また機会があれば挑戦したいです」
湯浅監督はこれまでもさまざまな映像表現に挑戦してきた。
「挑戦というほどでもないんですけど。料理を作っていて、しょうゆを入れたらおいしくなるかな? と思うような感じなんですけどね。いつも同じことをしていない方が楽しいですし、そういうところが一つあった方がいいと思っているんです。バナナを入れてみよう! とか。入れてみたらどうなるのか? じゃなくて、入れたらきっとおいしくなるはず! とやってみて、ちょっとおかしかったら、おいしくなるように調整する。最初は反対する人もいるんですけどね。バナナは合わないよ! って。でも、入れてみないと分からない。毎週のように新作を出すラーメン屋があって、果物を入れることもあったのですが、成功した時は果物の良さも出ていて、おいしい。失敗することもあって、でもそういうところが面白いんですよね」
「バナナを入れてみよう」というような発想はなかなか思い付くものではないはずだ。
「料理人もそうだと思うのですが、視野を広く持てばいいのかな? 決まり切ったことや教科書通りでは面白くないですし、教科書通りにしようとしても必ずその通りにはできないですしね。そういうのが楽しいんです。面白いものは、何でもアニメになると思っているんです。バナナを入れたら面白くなると誰かが思っているでしょうし。昔よりは、そういうことも考えるようになりました。昔は自分がおいしければ良かった。今はみんながおいしく感じるようなものを自分も楽しく作ろうとしています」
「映像研」を見ていると、何かを作りたい、表現したいという気持ちにもなる。作ること、表現することの楽しさも伝えようとした。
「やっていて楽しいこともあるし、嫌なこともあってくじけそうにもなります。『映像研』をやる前に、先輩から『アニメを作ることは、楽しいことだから、楽しくやった方がいい』という話があったんです。特にこの作品は楽しいところを前面に出したかった。考えていることを具現化したり、それを見て喜んでいただけたりするのは、いい体験です。人に見ていただけるのは、すごくいいこと」
湯浅監督とアニメに情熱を燃やす浅草が重なるところもある。
「浅草は妥協しないですよね。自分は妥協しがちなので(笑い)。『魂を込めた妥協と諦めの結石』というせりふがありましたが、まさにそうだな! と思います。やれることをやるんですよね」
あくなき探求心があるからこそ「妥協」という言葉が出てくるのかもしれない。湯浅監督は「日本沈没2020」「犬王」といった新作も控えている。今後も唯一無二の映像表現を見せてくれそうだ。
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