大映ドラマ:令和の現代になぜ受ける? 「M 愛すべき人がいて」「テセウスの船」… SNSだけではない理由

(C)テレビ朝日/AbemaTV,Inc.
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 歌手の安斉かれんさん、俳優の三浦翔平さんダブル主演の連続ドラマ「M 愛すべき人がいて」(テレビ朝日系、土曜午後11時15分/ABEMAで全話独占配信)で、注目を集めたワード「大映ドラマ」。荒唐無稽(むけい)な設定と、一見過剰とも思える演出で、1980年代を中心に話題を集めた大映ドラマだが、代表作の「ヤヌスの鏡」が昨年リメークされたほか、大映テレビが関わった「テセウスの船」(TBS系)が高視聴率を記録するなど、また注目を集めている。令和の現代にどうして受け入れられているのか。その魅力を探った。

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 いわゆる大映ドラマは、映画会社の大映から分社化した大映テレビが制作を務めた作品のことを指す。1980年代に放送された「スクール☆ウォーズ」「スチュワーデス物語」(いずれもTBS系)、「ヤヌスの鏡」「アリエスの乙女たち」(いずれもフジテレビ系)などの作品で描かれた、大げさにも見える演出で個性的なキャラクターが織りなす“特濃”の人間模様は、視聴者に強烈なインパクトとともにツッコミどころを与え、人気を博した。

 実は、現在放送中の「M 愛すべき人がいて」は、大映にルーツを持つ角川大映スタジオが制作協力で入っているものの、厳密にいうと大映テレビが制作を務めた「大映ドラマ」ではない。むしろ、大映ドラマファンを公言する脚本の鈴木おさむさんの影響が強いといえるだろう。

 そんな鈴木さんの手による「M 愛すべき人がいて」のストーリーは、往年の大映ドラマを思わせる場面の連続でツッコミどころ満載だ。ライバルの嫌がらせで肩を脱臼した主人公・アユが、10本のペットボトルを背負ったままマラソンしたり、途中でくじけたら土砂降りの中で崖の上に現れたプロデューサーのマサが「俺を信じろアユ、走れー!」と叫んだり、発奮したアユが腕を大きく振りながらのド根性で猛ダッシュを見せ、トップでゴールしたりと一つ一つのエピソードに、これでもかというほど“大映ドラマテイスト”が詰め込まれている。

 大映テレビが手がけてヒットしたドラマといえば、今年1月期の「テセウスの船」が記憶に新しい。タイムスリップした主人公が父の冤罪(えんざい)を晴らすため、無差別殺人事件の謎を解くために奮闘するというストーリーだった。直情的で泣き虫の主人公が、毎話訪れる過酷な試練に体当たりで泥臭くぶつかっていくさまに、1980年代の大映ドラマを思い起こした人も多かったのでは。

 いずれの作品も話題を呼んでいるが、どうして40年近く前の“大映ドラマテイスト”が令和の現代に盛り上がっているのか。分かりやすい理由としては、SNSの存在が挙げられる。毎日さまざまな話題がSNSで“バズって”いるが、荒唐無稽さをはじめとした“大映ドラマテイスト”は、実にツッコミどころが多く、話題として共有しやすい。

 さらに、これらのドラマには、濃すぎるほどの強烈な個性によって、過去の大映ドラマの人気キャラをほうふつとさせる登場人物がいるのもポイントだ。6秒間の「許さなーーーーい」で話題を呼んだ田中みな実さん演じる眼帯姿の秘書・姫野礼香の姿に、かつて片平なぎささんが「スチュワーデス物語」で演じた義手の婚約者・新藤真理子をなぞらえた声があった。さらに、「テセウスの船」で、麻生祐未さんが演じた木村さつきは“魔女化”が話題になったが、初井言榮さんが「ヤヌスの鏡」で演じた冷酷な祖母・小沢初江のインパクトを思わせた。大映ドラマのオールドファンもニヤリとさせられるような濃いキャラクターについつい目を奪われてしまうのだ。

 放送中の「M 愛すべき人がいて」のパンチの効いた演出も、思わず噴き出しそうになるほど濃いキャラクターも、確かに冷静に見てみると「んなわけあるかい!」と思ってしまうかもしれないが、5月9日は、第1話の“リミックスバージョン”を放送。スペシャルオーディオコメンタリーとして伊集院光さんと古市憲寿さんによる“相当マニアックで香ばしい番組解説”を加えた内容になるという。確信犯なのかは定かではないが、制作サイドが仕込んだネタとして、もしくはそんな裏側も考えず、ツッコミを入れながら楽しむのが令和流の“お作法”なのかも。

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