塚原あゆ子監督:「アンナチュラル」「中学聖日記」、新作「MIU404」… “塚原演出”その魅力

塚原あゆ子監督が演出を務める「MIU404」(C)TBS
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塚原あゆ子監督が演出を務める「MIU404」(C)TBS

 俳優の綾野剛さんと星野源さんのダブル主演で早くから反響を呼んでいた連続ドラマ「MIU404(ミュウ ヨンマルヨン)」(TBS系、金曜午後10時)が6月26日、スタートする。同作の演出を手がける塚原あゆ子監督は、「アンナチュラル」「中学聖日記」「夜行観覧車」(いずれもTBS)など数々の作品を手がけてきた。さまざまなジャンルの作品を手がけ、特徴的な作風でいずれも話題を集めている“塚原演出”だが、何が視聴者の心をつかむのか。新作「MIU404」の放送を前に魅力を探った。

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 塚原監督は、1997年に木下プロダクション(現TBSスパークル)に入社。「CO 移植コーディネーター」(WOWOW)、「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」「アンナチュラル」(ともにTBS)などの話題作を手がけた。昨年秋には木村拓哉さん主演の「グランメゾン東京」を担当。大ヒットに導いた。

 ◇重層的なキャラクター造形が光った「アンナチュラル」

 新作「MIU404」と同じく、塚原監督が演出、野木亜紀子さんが脚本、新井順子プロデューサーというトリオで大ブレークしたのが、2018年に放送された「アンナチュラル」だ。死因究明専門のスペシャリストが集まる「UDIラボ」を舞台に、石原さとみさん演じる「法医解剖医」の三澄ミコトが「“不自然な死”(アンナチュラル・デス)」を解明していく姿を描く1話完結の医療ミステリーだ。

 魅力的だったのが、ミコトをはじめとする登場人物の重層的なキャラクター造形だった。石原さんが演じたミコトは、生への執着が強い半面、自然体でドライな一面も持ち合わせたキャラクターで、それまでの“元気でキュート”という石原さんのパブリックイメージとは一線を画した役どころとして注目を集めた。また、気性の荒い性格ながら、悲しい過去を持つ中堂系(井浦新さん)、下っ端アルバイトだが別の顔を持つ久部六郎(窪田正孝さん)と、他の登場人物も一筋縄ではいかないくせ者ぞろい。

 さらに、毎話で“不自然な死”にみまわれた人々も、さまざまな側面を持ち合わせた一人の人間として描かれており、ミコトたちがそれを調べ上げ、人となりに迫ることで死の真相に近づくという筋立てで、単なるミステリーにとどまらない深みを持ち合わせていた。

 ◇教師と中学生の“禁断の純愛”「中学聖日記」

 塚原監督が、教師と中学生の恋を丁寧に紡いで話題を呼んだのが2018年の「中学聖日記」だ。マンガ誌「FEEL YOUNG」(祥伝社)で連載中のかわかみじゅんこさんの同名マンガが原作で、有村架純さん演じる女性教師の末永聖と、その教え子の男子中学生、黒岩晶(岡田健史さん)との“禁断の純愛”を描いた。

 聖と晶の一筋縄ではいかない恋模様が丁寧に描かれた本作。「僕、先生のこと、好きになっちゃいました」で幕を開けた晶の粗削りな猛アタックと、そのアタックに心が揺らいでいく聖。そしてアクシデントや修羅場の数々に見ているこちらの気持ちもハラハラさせられた。

 すべてをなげうち、さまざまな障害を乗り越えて“一生の恋”に身を焦がす聖と晶の姿だけをピックアップするのではなく、女手一つで晶を育てた母親の愛子(夏川結衣さん)や、中学の教頭でボス的な存在の塩谷三千代(夏木マリさん)といった、考えを異にする登場人物までも克明に描き出しているのもポイント。“障害”が大きいからこそ、聖と晶の恋によりいっそう感情移入できたのでは。

 ◇閉鎖的なコミュニティー描いた「夜行観覧車」

 塚原監督といえば、人気作家・湊かなえさんの小説をドラマ化した「夜行観覧車」(2013年)、「Nのために」(2014年)、「リバース」(2017年、いずれもTBS)の“3部作”を手がけたことでも知られる。中でも今回は最初の「夜行観覧車」に注目する。

 「夜行観覧車」は、湊さんが手がけた初の家族小説が原作。無理をして高級住宅街に念願の一戸建てを購入し、夢がかなったはずの遠藤家の主婦・真弓(鈴木京香さん)だったが、中学受験に失敗した娘は家庭内暴力を繰り返し、夫は帰宅拒否症、自治会長の小島家のおせっかいな妻からのいじめにも遭う。一方、石田ゆり子さん演じる淳子ら向かいに住む高橋家はエリート一家に見えたが、淳子の夫・弘幸(田中哲司さん)が殺される事件が発生し……というストーリーだ。

 鈴木京香さん演じる平凡な主婦の真弓。高級住宅地という閉鎖的なコミュニティーならではのシビアな“ご近所付き合い”に加え、娘・彩花の家庭内暴力に事なかれ主義の夫・啓介と悩みは山積。最初は当惑し巻き込まれるだけだった真弓が、次第に力強さを身につけていくさまは圧巻。鈴木さんでいえば、同じく“塚原演出”の2019年の「グランメゾン東京」で演じた早見倫子もいいキャラクターだった。

 ◇

 こうして塚原作品を振り返ってみると、登場人物の作り込みの細やかさに驚かされる。どのキャストが演じたどのキャラクターも、映像に出ているのはあくまでも一面にすぎず、内側に潜むものが他にあるのではないかと思わせる。キャラクターが心に秘めた感情が言葉や行動として外に出ていると感じられるからこそ、物語に深みが出ているのだ。

 もちろんこれは、演じるキャラクターをキャストが深く理解しているからこそ可能なことだ。しかし、「中学聖日記」で新人だった岡田さんが、15歳の中学生から、高校生、23歳の青年まで説得力を持って演じ分けられたことを考えると、俳優自身の才能と共に演出の力も大きかったといえるだろう。

 新作の「MIU404」は、警察内部で“何でも屋”とやゆされながらも、犯人逮捕にすべてを懸ける初動捜査のプロフェッショナル「機動捜査隊(機捜)」が、24時間というタイムリミットの中で事件解決を目指す、1話完結の刑事ドラマ。綾野さん演じる、考える前に体が動いてしまう“野生派”の伊吹藍(いぶき・あい)と、星野さん演じる、社交力にたけるが誰も信用しない“理性派”の志摩一未(しま・かずみ)のバディーが数々の事件に挑む。数々の名作があるバディーを描いた刑事ものというジャンルで、“塚原演出”による新境地を期待したい。

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