小野憲史のゲーム時評:コロナ禍で強まったゲームの影響力 2020年を振り返る

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 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、さまざまな出来事があった2020年のゲーム業界を振り返ってもらいました。

ウナギノボリ

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 1978年にスペースインベーダーが列島を侵略してから42年。振り返れば今年ほど、良くも悪くもゲームが注目を集めた年はなかっただろう。言うまでもなくコロナ禍のためだ。

 プラスの面では世界累計販売本数が2604万本を記録した「あつまれ どうぶつの森」を筆頭に、巣ごもり需要で市場が活性化した。11月には次世代ゲーム機のプレイステーション5とXbox Seres X/Sが相次いで発売された。VR(仮想現実)ヘッドマウントディスプレイのオキュラスクエスト2がシリーズで初めて家電量販店で発売され、スマートフォン感覚で気軽にVRゲームが楽しめるようになるなど、ゲームの概念を拡張するような動きも見られた。

 これに対してマイナスの面では、ステイホームで子供たちがゲーム漬けになるのでは、という危惧が高まった。象徴ともいえるのが、4月に施行された香川県ネット・ゲーム依存症対策条例だ。その後、同県内の高校生が憲法違反だとして県を提訴する事態に発展し、係争が続いている。ネット上ではゲーム機を高額で転売する業者が増加し、正規の物流を阻害。カプコンがサイバー攻撃を受け、内部情報がインターネット上に流出した事件も記憶に新しい。

 こうした一連の出来事によって、すでにゲームがエンタテインメントの域を超えて、社会に大きな影響力を持つ存在になっている現状が、改めて明らかになった。これに対して業界もまた、社会に対して誠実に向き合う必要が高まっている。

 こうした中、マイクロソフト、任天堂、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の3社が共同声明を出し、ゲーマーの安全を守る3か条を12月14日に発表したことは、注目に値するだろう。声明文は「安全なゲーミングに向けた共同公約」と題し、「防止:適切なゲーム体験についての理解を促進します」「パートナーシップ:ユーザーの皆さまの安全を守るため、ゲーム業界、規制当局、司法機関、そしてコミュニティとの連携に努めます」「責任:すべてのプレイヤーの皆さまために、プラットフォームの安全性を高めます」の3点について言及している。ハードメーカー3社がこうした声明文を出すのは極めて異例で、危機感の高まりを感じさせる。

 もっとも、ゲーム市場の拡大とともに、家庭用ゲーム機市場は相対的に縮小している。 オランダの調査会社Newzooによると、2020年度のゲーム市場は1593億ドル(約16兆4千万円)にのぼるが、家庭用ゲームのシェアは28%にすぎない。全体の半数を占めるのがスマートフォン向けアプリで、残りがPCゲームだ。

 もちろん、アップルやグーグルといった大手IT企業や、ゲームソフト各社も独自の消費者保護に関する施策を行っている。ただし、社会に対して効果的なメッセージを打ち出すには、それぞれの施策が一つにまとまることが重要だ。コロナ禍を契機に、ユーザーファーストの視点で業界が一つにまとまる。そうした2021年であってほしい。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。

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