ゲーム業界展望:浜村弘一氏に聞く 「あつ森」ブームを振り返る 2021年のユーザー動向は

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 新型コロナウイルス感染拡大の影響が、さまざまな影響を及ぼした2020年のゲーム業界。巣ごもり需要に伴う「あつまれどうぶつの森(あつ森)」ブームや新型ゲーム機「プレイステーション(PS)5」の発売など、歴史に残る一年となった2020年を、ゲーム誌「ファミ通」の編集長などを務めたKADOKAWAデジタルエンタテインメント担当シニアアドバイザーの浜村弘一さんに振り返ってもらい、今年の展望を聞いた。

ウナギノボリ

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 --2020年はゲーム業界にとってどんな一年でしたか。

 まぁもうほんとにコロナの影響がものすごく大きい一年だったといえるでしょう。“巣ごもり需要”が家庭用ゲーム産業にこんなに大きく影響するんだなという……。一方、スマホゲーム市場については、開発体制のリモートワーク化をすぐに進められなかったことによって、ゲーム内イベントやアップデートが遅れたことで、夏ぐらいまで伸び悩んだ会社もあったようですね。

 --「あつ森」ブームはすごいものでした。

 すごかったですよね。それまで、任天堂の中では「どうぶつの森」っていわゆる“主役”じゃなかったんですよね。それが、「マリオ」「ゼルダ」「スプラトゥーン」といったタイトルの倍以上売れた。これは明らかに“巣ごもり需要”の影響が大きかったといえるでしょう。「どうぶつの森」ってジャンル分けが難しいタイトル。任天堂はコミュニケーションゲームって言っていますが、今年はまさにその言葉が重みを持った。家族や友達とネットを通じてコミュニケーションを取ることが必要になった時代を象徴したタイトルになったといえるでしょう。

 --ツール的に使われていた?

 そうですね。例えば、消防庁だとか相撲協会とかさまざまな団体が「どうぶつの森」を使ったのも、単なるゲームの世界に閉じたムーブメントではなくて、社会現象だったということの証明だったと思いますね。(ライバル企業の)マイクロソフトも自分たちのマークを作っていましたよね。ゲームがSNSというか、人とつながるインフラになっていくということを初めて実現したタイトルだったのではないでしょうか。

 「フォートナイト」もそうですよね。パーティーロイヤルモードが導入されて、そこで米津玄師さんがライブイベントを開催しました。さらにPS5では、PSボタンをポンと押すと、ゲームメーカーからのメッセージが並んだり、動画が並んだりという、ゲーム自体のSNS化の流れを感じました。ゲームでメッセージを伝えたり、ゲームを公共のスペースにするというか、時代の変化を象徴していると思いましたね。

 --来年のゲーム業界の展望はいかがでしょうか?

 巣ごもりの影響はそう簡単には消えないと思います。問題はそれによって生活の様式が変わること。テレワークがすごく増えると思うんですね。そしてそれは、コロナが明けても便利なら「そっちに行きましょう」ってなる可能性が高いと思っているんです。

 そうなってくると、これまでよりも時間があって、その時間にゲームを遊ぶという状況がずっと継続する可能性があると考えています。まずゲームはコスパがいい。たとえばNetflixに入っているのと同じように、Xbox Game Pass(マイクロソフトのサブスクリプションサービス)に入るということも出てくると思いますし、ヒット作が生まれてくる可能性も十分にあると思いますね。CDを一枚一枚買っていた人たちが、Spotifyに入って慣れちゃったように、ダウンロードが当たり前みたいに変わっていったときに、僕らのゲームの遊び方も変わっていくかもしれないなという感じはしています。

 --開発の環境も根本的に変わってくるということでしょうか。

 家庭用ゲーム機はさらに開発費が上がってきます。グラフィックの性能がよくなって、グラフィックのコストが上がると。AIを使ったりしつつもコストが上がるのは間違いない。それを考えると固定費の削減を進めたりして、開発の環境も変わってくるでしょう。具体的にどう変わるというのはまだうまく説明できないのですが、いろんなものが変わっていくと思っています。

 サブスクリプションからヒット作が出てくると、独占配信のものがそのうちリリースされてくるでしょう。「(人気韓国ドラマの)『愛の不時着』とかはNetflixでしか見られません」というのと同じようなことが出てくるでしょうね。さらにいえば、キラータイトルが遊びたいから、この期間このサブスクリプションに入りますとかというようなことが起きてくるんじゃないでしょうか。

 --複数のサブスクリプションをその都度選択するということでしょうか。

 そうですね。加えて単品でものを買うという行動も変わらず残るでしょう。だから、映像をずっと家でNetflixを見ているけれど、映画館にも行って人気の作品をチケット代を払って見るというのと同じような感覚で、ゲームコンテンツの消費が行われるじゃないかなという感じはしますね。

 今年は、「こんな作品が出てきたんだ」とか、サブスクリプションで遊ぶゲームが増えておくとか、SNSで話題になったものが突発的に売れてくるとか、一見無関係に起きているようなことの一つ一つが、確実にゲームの産業自体を変えていく一年になるのではないでしょうか。数年後に「大きな転換点だったね」と振り返るような年になりそうな気がしています。

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