放課後カルテ
第10話(最終話) これからも健康でいてほしい
12月21日(土)放送分
4月3日に死去した俳優、田村正和さんが主演を務めた人気ドラマシリーズ「古畑任三郎」(フジテレビ系)。5月21日に再放送された「古畑任三郎ファイナル~ラスト・ダンス~」の平均視聴率(世帯)は、13.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録し、シリーズの変わらぬ人気の高さを示した。今なお絶大な支持を受け続けている理由はどこにあるのか? 「ミステリードラマの金字塔」とも呼ばれる本作の魅力を振り返ってみたい。
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「古畑任三郎」は、田村さん演じる主人公の刑事・古畑任三郎が、完全犯罪をもくろむ犯人たちの難解なトリックを、卓越した推理力で解いていく人気ドラマシリーズ。1994年に「警部補・古畑任三郎」としてスタートし、連続ドラマとして3シーズン続いたほか、数々のスペシャルやスピンオフも制作された。山口智子さんがゲスト出演した第2シーズンのスペシャル「しばしのお別れ」の平均視聴率(世帯)は、シリーズ最高の34.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録するなど、空前の大ヒットを巻き起こした。
「古畑任三郎」の魅力の一つと言えば、時代を彩った豪華ゲストとの“夢の対決”だ。中森明菜さん、堺正章さん、菅原文太さん、明石家さんまさん、唐沢寿明さん、山城新伍さん、鈴木保奈美さん、真田広之さん、津川雅彦さん、福山雅治さん、玉置浩二さん、江口洋介さん、松嶋菜々子さん、イチローさん、「SMAP」……。まさに日本を代表するスターが犯人役として登場し、古畑と手に汗握る対決を展開し、視聴者を熱狂させた。
また、「古畑任三郎」シリーズだけでなく、数々のヒットドラマの脚本を手がけた三谷幸喜さんならではの“粋”な犯人登場回もあった。第1シーズンの第8回「殺人特急」には、鹿賀丈史さん演じる医師・中川淳一が犯人として登場。中川は、三谷さんが脚本を手がけた連続ドラマ「振り返れば奴がいる」(フジテレビ系、1993年)に登場した医師で、同じく鹿賀さんが演じていたキャラクターだ。さらに、同第11回「さよなら、DJ」には、桃井かおりさん演じるDJ・中浦たか子が犯人として登場。中浦は、三谷さんが脚本と監督を手がけた映画「ラヂオの時間」(1997年)で、桃井さんが演じたDJだった。
実は犯人役だけでなく、被害者役にも現在では誰もが知る豪華ゲストが登場している。田中美佐子さんが出演した、第3シーズンの第7回「哀しき完全犯罪」で被害者役で登場したのは、小日向文世さん。また、福山雅治さんが出演した、同第8回「頭でっかちの殺人」の被害者役は板尾創路さんだった。そのほか被害者役として、及川光博さん、伊集院光さん、長谷川初範さん、角野卓三さん、藤村俊二さんらが登場しており、いわゆる“裏ゲスト”にも実に華やかなキャストがそろっていたことが分かる。
本作は、先に犯人と、その殺人の一部始終を視聴者に見せた後に、謎解きシーンが展開していく“倒叙”という手法が用いられたドラマだ。米国の人気ドラマシリーズ「刑事コロンボ」で採用されたこの手法の面白さも、古畑人気を支えた要因の一つといえよう。日本の刑事ドラマで、倒叙を採用してこれほどまでに人気を博したミステリーは極めてまれだ。古畑は、一見、完全犯罪にも見える事件のどこに目を付けるのか、どうやって犯人のミスに気づいていくのか……。パズルのピースを一つ、一つを結びつけていく古畑の姿にカッコ良さを感じずにはいられなかったものだ。
事件の鍵は、毎話の冒頭のアバンタイトルに隠されていた。アバンタイトルには、古畑が登場して、「犬を飼っている人に一言。名前を呼ぶ時は“ちゃん”を付けるのはやめてください……」「新しい機械を買った時には必ず説明書を読んでください、少なくとも3回……」といった“よもやま話”を視聴者に向けて語りかけ、注目ポイントや、毎話のモチーフを提示していた。この“語りかけ”も、古畑ファンの心をくすぐる演出の一つであり、テレビの“枠”を越えた古畑と視聴者の“コミュニケーション”になっていた。三谷さんらしい“遊び心”の一つである。
しばしばコロンボと比較される古畑だが、三谷さんだからこそ作り出せたオリジナリティーが随所に見られた。例えば、相棒(?)の今泉慎太郎(西村まさ彦さん)とのコミカルなやり取りには、喜劇を得意とする三谷さんの真骨頂が垣間見えた。ドジで間の抜けたところが多い“今泉君”。しかし、今泉の存在は「古畑任三郎」に漂うコミカルな雰囲気の醸成に一役買っていた。古畑が突っ込み役、今泉がボケ役を務める「ホームズ・ワトソン」の関係は、基本一匹狼だったコロンボにはないオリジナリティーの一つだった。
「古畑任三郎」にはさまざまな小ネタも登場。有名なのが「赤い洗面器の男」という小話だ。「赤い洗面器の男」は、水が入った赤い洗面器を頭の上に乗せている男が登場する小話で、シリーズを通して随所に登場。古畑は何度もその話を聞かされるのだが、肝心の“オチ”、つまりなぜ男が洗面器を乗せているのかを聞き逃してしまう姿が描かれ続けた。これもまた古畑ファンを楽しませる小ネタの一つであった。ちなみに、「赤い洗面器の男」は他の三谷作品にも登場しているので、気になる人は探してみるといいだろう。
改めて言うまでもないが、「古畑任三郎」は、もちろん不世出の名優「田村正和」の存在があってのものだ。田村さんは、24時間365日、「田村正和」という人物を“演じ続けた”と言われるほど、プライベートを見せなかった俳優だった。徹底したストイックさによって、私たちが知ることができた田村さんの“素顔”はほんのわずか。だからこそ、どこまでもミステリアスで、何重ものベールに包まれた「田村正和」という俳優に、多くの人々が魅せられた。そして、そんな田村さんだからこそ、あの浮世離れした名刑事を演じ切ることができたのではないだろうか。田村さん以外が演じる古畑任三郎なんて考えられない。誰もがそう思うほどに「田村正和」と「古畑任三郎」は見事にマッチしていた。
田村さんといえば、「古畑任三郎」に出演する以前は、「うちの子にかぎって…」(TBS系、1984年)、「パパはニュースキャスター」(同局系、1987年)、「ニューヨーク恋物語」(フジテレビ系、1990年)といった作品でも名キャラクターを演じてきた。これらの作品もまた、田村さんの代表作であることは言うまでもない。しかし、田村さんがテレビで紹介されるときには、しばしば、黒ずくめのスーツに身を包んだ古畑任三郎と、あのテーマソングが流されるのは、やはり田村正和=古畑任三郎というイメージが圧倒的に根強いからだろう。“ハマり役”などという言葉では語りきれないくらいに、田村さんと古畑の姿は重なり合っていた。
「ミヤコワスレ、花言葉は“しばしの別れ”」ーー。山口さんが出演した「しばしのお別れ」のアバンタイトルで、古畑が披露した雑学である。残念ながら、“しばし”というわけにはいかず、田村さん演じる古畑の新たな活躍を見ることは二度となくなってしまった。ただ、「古畑任三郎」は何度見ても楽しめるエピソードばかり。見るたびに新しい発見があるし、見れば見るほど古畑を好きになっていく。改めて今一度、「古畑任三郎」を見返してほしい。
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