Sonny Boy:「なんか面白い」の“なんか”とは? 異色のアニメは「意外にシンプル」 夏目真悟監督に聞く

「Sonny Boy」の一場面(C)Sonny Boy committee
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「Sonny Boy」の一場面(C)Sonny Boy committee

 マンガ家の江口寿史さんがキャラクター原案を担当したことも話題のテレビアニメ「Sonny Boy(サニーボーイ)」。「スペース☆ダンディ」「ワンパンマン」などで知られる夏目真悟監督のオリジナルアニメで、謎多きストーリー、BGMをほとんど使わないなど異色で攻めた演出などが話題になっている。ネット上にさまざまな考察があふれ、「なんか面白い!」という意見が散見されるが、その“なんか”がうまく言語化されていないようにも見える。“なんか”とは何か? 最終回の放送を前に同作を手がける夏目監督に聞いた。

ウナギノボリ

 ◇極力シンプルに 研ぎ澄ます

 「Sonny Boy」は、異次元を漂流し始めた学校に取り残され、超能力に目覚めた36人の中学生の少年少女の理不尽に満ちた世界でのサバイバル生活が描かれている。「銀杏BOYZ」が主題歌「少年少女」を書き下ろすなど、豪華クリエーターの参加も話題になっている。

 ストーリーの説明だけ読むと、「漂流教室」のような作品なのか?とも感じるかもしれないが、そんなことはない。謎も多く、突拍子もないことも起きるが、どこか淡々としているところもあり、不思議な感覚になる。だが、「なんか面白い!」の“なにか”の説明は難しい。

 「“なんか”は、おそらくですけど、キャラクターの感情の動きがちりばめられていて、そこに反応していただいているのかな?と思っています。(クリストファー・)ノーランの映画にしても感情がこみ上げる瞬間があって、自分もそういうのが好きなんです。キャラクターの心が動く瞬間、キャラクター同士がぶつかったり、近づいたりしてできる波が、何かしら人の心の琴線に触れるのではないか?と思うんです。そういうところを極力拾っていこうとしていました。モノローグがないからこそ、想像していただけたのかな?とも思っています」

 攻めた演出も話題になっている。説明過多で分かりやすい作品も多い昨今、説明しすぎず、キャラクターのモノローグがないのも「Sonny Boy」の特徴だ。

 「説明にも心情の説明、世界観の説明があり、多少は世界観の説明をしていますが、キャラクターの心情は、行動からしか感じられないし、ぶつかった時に出てくる言葉で感じてほしいと思っていました。何だかよく分からないものが好きなんですね。『何なんだろう?』と思って、その時は分からなくても、1年後くらいに『そういうことだったんだ』と気付く作品があり、そういうのを目指しました」

 BGMもほとんどないのも異色だ。

 「本来の劇伴(BGM)の使い方は、感情を誘導するためのものなんです。こういうふうに見てくださいと誘導したり、たまにミスリードしたりもする。ともすればノイズにもなりえる。思考を遮断、限定したくなかった。劇伴を極力なくすことで、余白が生まれます。入れるか入れないかは、随分と議論がありましたし、悩みました。怖いじゃないですか。でも、いくつかの確証があった。感情の揺らぎを表現できるはずと」

 確かに悲しい音楽が流れれば、悲しい気分になるが、「Sonny Boy」はBGMを廃したことで、キャラクターの心の機微がより伝わるようになっている。繊細な演出が魅力だ。

 「極力シンプルにして、研ぎ澄ますように作りました。最近の映像は足し算で処理を重ねていくけど、今回は引き算でシンプルにしていく。あまのじゃくなんでしょうね(笑い)」

 ◇長良の反抗 つらいけど生きていく

 「Sonny Boy」は、表現は前衛的でも、決して難解なわけではない。夏目監督は「意外にシンプルな話」と語る。

 「『今の時代に必要なことはなんだろう?』と勝手に思っているところもあります。時代は繰り返すもので、徐々に形を変える。意外に答えは、いろいろなところに散らばっていて、文学や芸術作品として残っている。人は同じ問題を常に抱えていると思っています。その根本にあるのが『生きること』で、社会は不条理に満ちていて、その中でどう折り合いをつけていくのか? 『Sonny Boy』で(主人公の)長良が武器としたのが反抗で、いろいろなことに怒りを覚える。その怒りを教えてくれたのが希。怒りと言葉にすると、単調にも思われるかもしれないけど、生きるために必要なものですし、それを常に持って、あらがいながら、つらいけど生きていく。たまにすてきなことが起きて、それがあって生きていける。それが『Sonny Boy』の骨格にあります。意外にシンプルな話で、一つのことをしか言っていないんです」

 無限に続くバベルの塔で強制労働させられる人々、5000年も漂流し、犬の姿となったやまびこ、死に至る疫病を持ち込む戦争というキャラクターが登場するなど寓話(ぐうわ)のようなエピソードも印象的だ。

 「第6話までのストーリーラインはシンプルで、事件が起きて、解決していきます。第7話以降は、寓話の積み重ねで、キャラクターの気持ちが変わっていく。分けて構成しました。一般的な構成のセオリーで同じようなエピソードを続けないようにしますが、第7話以降は繰り返す中で変化を見せようとしました。そこで長良というキャラクターを積み上げ、掘り下げていく。これも怖いところでした。自分としては面白いエピソードを積み重ねていたつもりけど、ストーリーも枝分かれしていくし、失速したように見えるかもしれない。リスクがあるけど、その後の最終回があるから、うまく総括できると考えていました」

 「意外にシンプルな話」の結末は……。「Sonny Boy」の挑戦を最後まで見届けたい。

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