テレビ試写室:「真犯人フラグ」 秋元康が仕掛ける“考察現象”第2幕 “捜査会議”好きの現代人に問いかけも?

ドラマ「真犯人フラグ」第1話の一場面=日本テレビ提供
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ドラマ「真犯人フラグ」第1話の一場面=日本テレビ提供

 ドラマからドキュメンタリー、バラエティー、アニメまで、さまざまなジャンルのテレビ番組を放送前に確認した記者がレビューをつづる「テレビ試写室」。今回は、10月10日から日本テレビ系で放送される、俳優の西島秀俊さん主演の連続ドラマ「真犯人フラグ」(日曜午後10時半)だ。

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 ドラマは、2019年に同枠で放送されたミステリードラマ「あなたの番です(あな番)」で原案を手掛けた秋元康さんをはじめ、同作のスタッフが再集結して制作するオリジナルのミステリー。妻子の失踪がきっかけで、SNS上で疑惑の目を向けられながらも、真実を暴いていく主人公・相良凌介(西島さん)の闘いを描く。

 第1話を一足先に見た記者から、良い知らせと悪い知らせがある。まずは良い知らせから。それは本作は、あの大ヒットドラマ「あなたの番です」に匹敵するくらいエキサイティングで、手に汗握る作品であるということだ。日本中が熱気に包まれた午後10時半からの1時間が、再び訪れることだろう。

 思えば「あな番」は、このSNS時代に合ったドラマだった。まずは「真犯人フラグ」の放送発表時の秋元さんのコメントを紹介しよう。
 
 「ネットでは、毎日、実際に起きた事件の“捜査会議”が行われています。『絶対に◯◯が犯人だと思う』。根拠がなくても、それぞれの理屈で“犯人探し”が展開されるわけです。いくつかの条件を満たしただけで、『真犯人フラグ』を立てられた人はいい迷惑でしょう」

 人々は日々、ある“議題”をめぐり、ああでもない、こうでもないと主張し合っている。議題はスターの“におわせ”疑惑から、誰が大統領になるべきかについてまでさまざま。そして、「あなたの番です」の謎解きは格好の“議題”となった。スマホ片手に、「あいつが怪しい」「これは伏線だ」とSNSでつぶやきながらドラマを見る……。捜査会議好きな現代人の嗜好(しこう)をうまく捕らえていたという意味で、SNS時代に合ったドラマだったのだ。

 「真犯人フラグ」もまた、SNS時代を生きる私たちの心をくすぐるはずだ。具体的なことは話せないが、初回から考察のタネは盛りだくさん。意味深に映される登場人物たちの表情や仕草、思わせぶりなせりふ、どういうわけかたびたびアップで強調される風景やアイテムの数々。社会現象となった「あな番」ブームに匹敵する“第2幕”の到来を予感せずにはいられない作劇がなされているので、ぜひ楽しみにしていてほしい。

 「真犯人フラグ」は、そもそも「考察ミステリー」と銘打たれている以上、視聴者にはぜひ“会議”に参加してほしいという制作側の意図を読み取ることができる。だが、一方で一つの“問いかけ”も感じられる。劇中では、主人公・凌介の家族の失踪をめぐり、人々は好き勝手にSNSで主張を展開する。秋元さんの言うように、凌介にしてみれば「いい迷惑」だ。片や、視聴者にはSNSの盛り上がりを期待し、片や、SNSに頭を抱える人間を主人公に据えた本作。凌介のことを気の毒に思いながらも、さっそくSNSで犯人予想を披露したくなる私たちの自己矛盾があぶり出されている気がしてならない。

 そして本作の見どころの一つは、なんといっても総勢30人以上のキャストの顔ぶれだ。凌介の妻・真帆役の宮沢りえさんをはじめ、芳根京子さん、佐野勇斗さん、生駒里奈さん、田中哲司さん、柄本時生さん、桜井ユキさん、浜田晃さん、原菜乃華さんら、注目の若手から、百戦錬磨のベテランまでが“プレーヤー”として登場。個性的な登場人物たちのいわくありげな表情や仕草は“フラグ”なのか、それとも“フェイク”なのか、あれこれ考えるのは楽しいひとときになるはずだ。

 しかし、秋元さんはこうも述べている。「身の潔白を証明するためには真犯人を見つけるしかありません。さあ、あなたは、誰に『真犯人フラグ』を立てますか?」と。凌介を見ていて考えたのは、この時代を生きる私たちは皆、真犯人探しのゲームから逃れることができないのではないかということだ。自分は関係ない、無実である、正義の側にいることを伝えるためには、真偽も定かではないまま、他の誰かに“フラグ”を立てることから逃れられないのではないか……。人間の本質を突きつけられる“悪い知らせ”である。

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