UFC269:オリヴェイラ対ポワリエ戦「新たなライト級大戦争の始まり」 高阪剛が見どころ語る

「UFC269」で対決する(左から)シャールズ・オリヴェイラ選手、ダスティン・ポワリエ選手 Getty Images
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「UFC269」で対決する(左から)シャールズ・オリヴェイラ選手、ダスティン・ポワリエ選手 Getty Images

 世界最高峰の総合格闘技イベント「UFC269」が12月12日(日本時間)、米ネバダ州ラスベガスのT-モバイルアリーナで開催される。メインイベントは、王者シャールズ・オリヴェイラ選手が、ダスティン・ポワリエ選手を迎え撃つ「ライト級王座」初防衛戦。試合の見どころを、WOWOWの「UFC-究極格闘技-」の解説者で、“世界のTK”こと高阪剛さんに語ってもらった。

ウナギノボリ

 --ライト級タイトルをかけた大一番、オリヴェイラ対ポワリエがついに実現します。

 自分なんかすごく楽しみな反面、正直「困ったなあ」という感じもあったりするんですよ。「この二人、戦わせちゃうの?」って(笑い)。

 --困っちゃいますか。

 もしUFCが2リーグ制だったら、2人とも世界チャンピオンでいいかなと(笑い)。それぐらいの実力者であり、スター選手ですから。その両者のどちらかに黒星が付いてしまうと考えるとつらいのですが、これがまたUFCの醍醐味ですから。

 --両者の前回の試合、オリヴェイラ対マイケル・チャンドラー、ポワリエ対コナー・マクレガーも「どっちも負けてほしくない」という感じの試合でした。

 それぐらい今のライト級は充実しているし、その頂上対決が見られるというのは、ファンにとってたまらないと思いますね。

 --今回の試合のポイントは?

 オリヴェイラは打撃でKOもできる寝技のスペシャリストで、ポワリエの方は、打撃のラッシュで畳み掛けるタイプのオールラウンダー。ポイントはいろいろあると思うのですが、今回は5ラウンドのタイトルマッチということで、スタミナ面がポイントの一つになると思います。

 --王者のオリヴェイラは、前回、初のタイトル戦となったチャンドラー戦では2ラウンドTKOで勝利しているので、5ラウンドをフルに戦った経験がまだないです。

 そうなんです。ただ、結果的に早いラウンドで勝利していますが、このところのオリヴェイラの試合を見ると、長いラウンドを想定して戦っていたと思うんです。具体的には、寝技をやりすぎないということをやっていたかなと。

 --寝技師のオリヴェイラが、あえて寝技を制限していたと。

 オリヴェイラって、寝技が得意なだけじゃなく、寝技の展開自体が好きだから、以前はついつい寝技をやりすぎてしまっていたことがあったんです。極めて勝てればそれでもいいのですが、しのがれてしまったときは疲れてしまって、その次のスタンドの展開で不安定さが出てきたり、ガードが下がったり、体が流れながらパンチを打ったりとか、そういうことが起こりがちだったんです。

 --寝技の強さが諸刃(もろは)の剣になっていたと。

 その反省から、試合全体のバランスを考えて、「出力のコントロール」をし始めたと思うんです。あえて打撃の展開を増やして、そこにうまく寝技を混ぜていくような感じで、寝技でそこまで体力を使わないようにするという。そういったスタイルにたどり着いたんじゃないかな。

 --寝技でのスタミナロスも激しいので、スタンドでも勝負できるようにするという。

 相手からしたらオリヴェイラは寝技が強いのはわかっているので、寝技でやり合うんじゃなく、しのぐ、逃げるということをするわけです。それを追いかけていくというのは疲れるんです。だから追いかけすぎないようにして、立ち技と寝技のバランスがうまく取れたスタイルに変わっていった。

 --それが9連勝につながっているわけですか。

 そういう気がします。試合全体のコントロールができるようになっていったので。たとえば前回のチャンドラー戦なんかでも、1ラウンドにパンチを効かされて、手を突いて四つんばいの体勢になりながら、頭を振ってパンチを受けないようにするという動きがあったんです。

 --パンチを効かされてタックルしたけれども、切られたときですね。

 そうです。オリヴェイラ的には、あのまま仰向けになって、すぐガードポジションから足を取りにいったりするなど、選択肢としてあったと思うんです。でもそうじゃなく、四つんばいの体勢でちょっと時間を使ってダメージを回復させて、寝技で体力を使いすぎないようにする。そういうことを頭に入れていたからこその動きだったんじゃないかと思うんです。

 --温存することで勝負所で得意の寝技を最大限に使うこともできます。

 寝技に頼りすぎないことで、より寝技を活かすことができるという。だからオリヴェイラとしては、今回も5ラウンドマッチを見越して、出力のコントロールを考え、寝技を抑え気味にした組み立てにするんじゃないかなと思います。

 --ポワリエはどうですか?

 ポワリエはフルラウンド上等のスタミナの化け物ですよね。だけど、あれはただスタミナがあるというだけじゃなく、さっき言った「出力」をナチュラルにコントロールできるタイプな気がするんです。

 --激闘型に見えて実は全体的なバランスを考えた戦いができている?

 でも、ポワリエの戦い方を見ていると、どう見ても全力でやってるようにしか見えないんですよ(笑い)。

 --猛烈なラッシュをします。

 あとはパンチを打たれたら、強いのを打ち返すし。スクランブル状態になったときの動きとか、空振りもけっこう多いので、「これ、ずっと全力でやってるんじゃないの?」って思ったりもするんです。でもよくよく見ると、打撃の打ち合いになったとき、本人が意識してのことか分かりませんが、突然タックルに行ったり、急に四つ組みになって、ケージに押し付けたりとかしてるんです。

 --絶妙なタイミングで全力の打撃をやめて、組んで相手のスタミナを削る展開に切り替えていると。

 マクレガー戦でもそういう動きが見えたし、マックス・ホロウェイ戦なんかはとくにそうでしたね。

 --ホロウェイ戦は5ラウンド戦って判定勝ちでしたけど、後半めっぽう強いホロウェイが、ポワリエには攻め込まれていましたね。

 ダン・フッカーとの試合もそうでしたしね。だから、スタミナを使っているように見えて実はちゃんと温存しているから、試合後半に「予備タンク」があるかのように、さらに動けるようになったりもする。だから最終的にぐちゃぐちゃの競り合いになったら、「スタミナは俺の方があるぜ」っていう自信は間違いなくあるでしょうね。そういう意味で今回は、なんだったら序盤からスクランブル仕掛けるかもしれないですね。

 --わざとオリヴェイラのスタミナを使わせるようにすると。

 スクランブルから寝技になって、オリヴェイラが力いっぱい極めにいったけど、ポワリエは脱出してスタンドに戻すような展開が何度も起こったら、オリヴェイラのほうがスタミナ切れを起こすことが考えられますから。

 --では、長丁場になればポワリエ有利かもしれない。

 ただ、オリヴェイラもそういう展開になることを想定して、最後の最後にスタミナなり技なりを取っておくことも考えられますからね。やっぱりポワリエはキツくなると、どうしてもタックルにいきがちなんですよ。ということは、フロントチョークを取られやすくなるわけで。ポワリエも他の選手なら首を取られることはなくても、オリヴェイラなら、動けないように固めてから、もう一度絞めるような形にもできる選手なので。これはもう、試合が長くなればなるほど、お互いの思惑が見え隠れする試合になるんじゃないかなと思うんです。

 --お互いスタミナの出力を考えながらの競り合いになりそうですね。

 そうなると相当面白い試合になりますよ。これは最後まで一瞬も目が離せないんじゃないかな。この試合で勝ったほうが、間違いなく現時点でのライト級の頂点と言っていいと思います。ただ、次の挑戦者にはジャスティン・ゲイジーが待ち構えていますが。

 --「最強を名乗るのは、俺を倒してからにしろ」って感じでしょうね。

 それ以外にもイスラム・マハチェフみたいな、組みが異様に強い選手も出てきたし。だから今回のオリヴェイラ対ポワリエは、ライト級頂上対決であると同時に、新たなライト級大戦争の始まりのような気もするので、これからますます楽しみです。

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