ドラゴンボールDAIMA
第11話 デンセツ
12月23日(月)放送分
アニメ「電脳コイル」などで知られる磯光雄監督の新作オリジナルアニメ「地球外少年少女」。2007年に放送された「電脳コイル」以来、約15年ぶりとなる監督作で、完成までの道のりは決して平坦(へいたん)ではなかった。2014年に企画が立ち上がり、“シナリオ打ち”だけで約5年もかけ、シナリオは約100稿にもおよんだというから驚きだ。同作を手がけたエイベックス・ピクチャーズの岩瀬智彦プロデューサーに、「究極を探し求めた」という同作の制作の裏側を聞いた。
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「電脳コイル」は、2007年に放送され、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞、第39回星雲賞メディア部門、第29回日本SF大賞などに選ばれた名作だ。岩瀬プロデューサーが磯監督の作品を手がけるのは初めてではない。徳間書店に勤務していた際、「電脳コイル」にアシスタントプロデューサーとして参加した。
「磯監督はコンテを描き、原画をチェックして、CGも撮影も音響以外はほとんど全てやります。当時、僕は制作現場に入り、磯監督をサポートしていました。前職で音響制作の経験があったので、選曲を手伝いましたが、雑用係みたいなものですね。磯監督を迎えに行ったり、送ったり、食事の用意をしたりと。アニメを完成させるために何でもやっていました。私が関わったのは2年くらいで、最後の1年は付きっきりでした。ものすごくハードな日々でした」
岩瀬プロデューサーはその後、徳間書店を離れ、エイベックス・エンタテインメント(現エイベックス・ピクチャーズ)に入社。片渕須直監督の「マイマイ新子と千年の魔法」や女児を中心に人気を集めた「プリティーリズム」シリーズ、「週刊少年ジャンプ」(集英社)の人気マンガが原作の「ブラッククローバー」など数々の作品を手がけてきた。徳間書店退職後も磯監督との付き合いは続いた。その中で「地球外少年少女」の企画が生まれた。
「『電脳コイル』が終わった後、磯監督は燃え尽きたような状態になっていました。その後も年に1、2回くらい会っていていたと思います。『電脳コイル」が終わって、1年くらいたってから、新しい企画の話を始めたのですが、宇宙のアニメという話が出てきたのは、2014年の正月明けでした。磯監督は、ジュブナイルがやりたいという気持ちがありましたが、日本では、大作や有名IP以外は、ジュブナイルがビジネスとしてなかなか成立しない。しかし、海外では依然として需要はあるので、全世界に向けて作ろうということで心を決めました。舞台を宇宙にしたきっかけの一つは、2013年末に日本で公開された映画『ゼロ・グラビティ』です。ファンタジーの要素を持ち込まず、リアルと地続きで、手に汗握るエンターテインメントにもなっている。子供たちが宇宙でサバイバルするという企画の骨子ができました」
「地球外少年少女」は、AIの発達により、誰もが宇宙空間へ行けるようになった2045年を舞台に、月生まれの子供たちと地球から宇宙旅行にやってきた子供たちが、日本製宇宙ステーション・あんしんで出会うことになる。
なぜ、宇宙なのか? 磯監督にインタビューした際に「一言で言うと、みんなやっていないから。『ガンダム』以外ほとんど見かけなくなってしまった。なんでないんだろう? ないなら自分で作っちゃおうと」「『宇宙をやりたい!』と言ったら『古い』『何十年前にはやったものでしょ』と言われる」とも話していた。ネガティブな意見もあったようだが、岩瀬プロデューサーは「確信があった」と話す。
「確かに一般的にはなかなか成立しないかもしれません。でも、磯監督のプロットを見て、これは見たい!と思った。直感なのですが、磯監督がやるなら絶対に面白くなると。宇宙のアニメはあまりないし、オワコンなんて言われ方もしていました。でも、僕はそうは思っていなかった。あまりないジャンルだからこそ勝ち目があるかもしれない。逆張りじゃないけど、レッドオーシャンで戦うよりもいい。潜在的に好きな人はいると感じていました」
実業家の前澤友作さんが日本の民間人として初めて国際宇宙ステーションに滞在したことも話題になるなど、日本でも宇宙が再び注目されている。「地球外少年少女」は、タイミングよく2022年に上映、配信されることになった。
「商業宇宙がこれから流行することは予測していましたし、少しずつ機運が高まっていると感じていましたが、ここまで一気に注目を集めるとは正直思っていませんでした。もうちょっと時間がかかるかな?とも思っていたのですが、結果としてすごくいいタイミングで発表することができました」
2014年に企画が動き始めてから約8年がたった。特に時間が掛かったのは、シナリオを検討する“シナリオ打ち”で、約5年も掛かった。岩瀬プロデューサーは「シナリオは100稿くらいになりました。こんなにシナリオ打ちに時間を掛けるのは経験もないし、聞いたことがない」と話す。細部までこだわり抜く磯監督のために、クリエーティブを優先できる環境を整えた。
「磯監督の作り方の特徴ですが、考えつく全パターンを試すんです。オリジナル作品なので正解はありません。こっちに行ったら、どうなるのか? こっちは?と全部を試します。10個やって、全部ダメだったので、別の方向にしよう……となるなど一通りやってみる。これでいいや!と諦めない。面白くなっても、別に何かあるかもしれない?とさまざまな分岐を試し、果てしなく検証します。死屍累々のいろいろなパターンがあり、それぞれに面白みがあるんですが、磯監督は、最善を見つけるまで全力を尽くす。究極を探し求めます。『電脳コイル』の時もそうでした。どんなに追い込まれても納得するまでやります。今回は、全6話というミニシリーズで、一話30分を目安にはしていますが、一話ずつ尺も違います。クリエーティブを優先して、柔軟に対応できるフォーマットを選びましたた」
「大変でしたよ」と話す岩瀬プロデューサーの表情はどこかうれしそうにも見える。岩瀬プロデューサーが考える磯監督の作品の魅力とは?
「ドキドキワクワクがあるんです。きっと磯さん自身のアニメ原体験にそれがあって、子供の時の自分が同じように面白く思えるかどうかを基準にしているように思います。だから、子供の視線をすごく大切にしていて、裏付けもとりながら、しらけるほどには荒唐無稽(むけい)にはしない、難しい設定を説明するにしても、飽きられないように工夫をこらし、あの手この手で画面に引き付けるなどなど、結果、分からなくても記憶に残るようにして、理屈抜きでも楽しめるようにしているのも魅力だと思います。『電脳コイル』を当時見た子供たちが、大人になってから気付くこともあったはずです。私も『機動戦士ガンダム』のイデオロギーうんぬんについては子供の時は分からなかったけど、大人になって、そういうことか、と分かる。段々、大人になる中で理解していきますよね」
紆余(うよ)曲折はあったが「地球外少年少女」は完成した。岩瀬プロデューサーは「シナリオが上がってくる度に鳥肌が立ちました。コンテを見て感動して、制作過程で感動して、音が入って感動して……とずっと感動していました。見たことがない世界になったはずです。全6話とは思えない濃密さです」と自信を見せる。「地球外少年少女」が完成したのは、岩瀬プロデューサーの情熱、愛によるところも大きいのだろう。
気が早いかもしれないが、磯監督のさらなる新作も期待される。
「やりたいです。時間がかかるし、大変なんですけどね。『地球外少年少女』も『面白そうな企画』とは言ってもらえても、大体の人は『できるの?』と半笑いでした。僕は、磯監督が『電脳コイル』を作り上げるのを真横で見ていたし、自分が諦めない限りは、できないとは思いませんでした。ほかにもたくさんアイデアがあります。次の作品も準備していますが、これもすごく面白いんですよね。『電脳コイル』から15年というのは空きすぎなので、今度はもう少し早く発表したいところですけど。こういうことを言うと磯監督は嫌がるのですが」
磯監督は今後も「見たことがない世界」を見せてくれそうだ。
「地球外少年少女」は全6話構成で、前編(第1~3話)が上映中、後編(第4~6話)が2月11日から、それぞれ2週間限定で劇場上映される。劇場公開版のブルーレイディスクとDVDが2月11日から劇場で販売される。Netflixでも全世界で配信中。
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