わたしの宝物
第6話 生まれ変わったら本当の親子になれるかな・・・
11月21日(木)放送分
女優の岸井ゆきのさんと俳優の高橋一生さんがダブル主演するNHKの連続ドラマ「恋せぬふたり」(総合、月曜午後10時45分)。他者に恋愛感情を抱かず、他者に性的に惹(ひ)かれることもない「アロマンティック・アセクシュアル」の男女の同居生活を描く、話題作だ。初めてその言葉を聞いた人から、当事者まで、視聴者からはさまざまな声が上がるなど、反響は大きいという。「このドラマをきっかけにいろいろなことを考えてくださる方が多くて、それはすごくありがたいなって思っています」と明かす制作統括の尾崎裕和さんと、企画・演出の押田友太さんに話を聞いた。
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ドラマは、「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」「腐女子、うっかりゲイに告る。」「だから私は推しました」「いいね!光源氏くん」などといった数々の意欲的な作品を送り出してきたドラマ枠「よるドラ」での放送で、「30分があっという間」という意見も多く寄せられているという。
それはある種「密度の濃いドラマ」になっているから。当然、好意的な意見もあれば、そうではないものもあるが、視聴者からさまざまな声が上がることについて、制作陣は「すごくポジティブ」に捉えていて、「こちら側が思っている以上に解釈してくれる視聴者が多くて、せりふの一つひとつに対して、『こういう意味なんじゃないか』と考察してくれる方もいます」と尾崎さんは手応えを明かす。
「考えさせられるドラマ」という意味は、制作陣も一緒。「私たちもドラマを作るにあたってすごく考えましたし、何が正しいのか、常に悩みながら作っている」といい、「作っている側も、これが絶対に正しいと言い切れない、というところがこのドラマの良さでもある」と考えている。
一方、意外だったのが、岸井さんと高橋さん扮(ふん)する「アロマンティック・アセクシュアル」の男女に共感を寄せる視聴者の多さ。岸井さんが、人を好きになったことがない、なぜキスをするのか分からない、恋愛もセックスも分からずとまどってきた女性・兒玉咲子、高橋さんが、恋愛もセックスもしたくない男性・高橋羽(さとる)を演じているが、押田さんは「咲子と高橋に『共感しやすい』という意見も多くて。『自分たちとは違う』と一線を引かれるかもしれないと思っていたところをすごく共感してもらっている。それは意外な反応でした」と振り返った。
押田さんが以前、制作現場で感じた「ドラマに恋愛要素は必ずしも必要なのか」という違和感が出発点になっているという本作。押田さんも携わってきた、朝ドラ(連続テレビ小説)を例に挙げても、「ヒロインの相手役は誰なんだろう」と毎回盛り上がるが、「恋愛を描かないとドラマになりづらいのだろうか」という疑問はあったという。
また、「別のところで、ある団体を取材させてもらうと、取材した方が偶然アロマンティックやアセクシュアルに詳しい方で、『恋愛を描かないとドラマにならないんでしょうか』『自分たちが否定されていると感じる当事者もいるんです』と言われた」という押田さん。
「私は、恋愛する=(イコール)幸せで、その要素があった方がドラマが面白いと思われるのでは?と考えてきたけれど、それで傷つく人たちもいるかもしれないと気付いて。その人たちに向けたドラマがあってもいいんじゃないかと思うようになっていったんです」と話している。
ドラマは、「アロマンティック・アセクシュアル」を正面から描くにあたり、取材や交流会を通じて、当事者や専門家たちと接して得た知識、感じたことが随所に反映されている。
押田さんは「自分たちが相手のことをすごく傷つけているんじゃないか、という意識を持っている方もいた」といい、「恋愛をせず、好意を受け入れられないことで、相手を苦しめているんじゃないかと考えて、そういったことが『つらい』と感じている。ドラマの中でもそういう意識は出ていると思います」と明かす。
また、映像化することで具体的に見えてきたものもあるという。岸井さん演じる咲子は「恋愛が分からない」、高橋さん演じる高橋は「恋愛を嫌悪する」とキャラクター分けされているが、咲子の「恋愛が分からない」部分に関しては、「最初の方は映像表現の工夫も用いることを考えていましたが、岸井さんのお芝居を見て、その演技力、ちょっとした仕草で見せていこうとシンプルに決めて、そうすることで伝わることはたくさんあると分かりました」と告白。
一方、高橋の「恋愛を嫌悪する」については、「映像で見せたときに調整が難しい。誇張しすぎると、日常生活にも影響が出そうなほど人を拒絶しているように、誤って伝わりかねない。『アロマンティック・アセクシュアル』の方たちは決して、そういう人だけではないので」と苦労の一端を語った。
「アロマンティック・アセクシュアル」を正面から描くという前例のないドラマだけに現場での議論は欠かさないといい、結果、予想通りには進まないことも少なくはないとか。
尾崎さんは「ここまでも、当事者や専門家の方たちなど、アロマンティック・アセクシュアルの描き方に関しては、いろいろな意見を聞きながら制作してきたドラマなので、『何か最初から計算して』というよりは、『考えながら作っている』というのがずっと続いていて、出来上がった映像を見て、『こういう形もあったんだ』と自分が制作した作品でありながら、改めて答えを発見することも多いんです」と語っている。
そんなドラマも残り3話となったが、「見どころでいうと菊池亜希子さん演じる猪塚遥という、かつて高橋と関わりがあった女性が出てきます。一見“ラブコメディー”のような登場の仕方をするのですが、実はとてもこのドラマらしい登場人物なので、どういった活躍を見せるのか、楽しみにしていただければ」とアピールする。
押田さんは「恋愛することが幸せ、しないことが幸せじゃないということを伝えたいのではなく、自分の幸せは、他人に決められるのではなく、自分で決めるということをゴールにしたいと思っています」と着地点を予告。その上で、「このドラマは『アロマンティック・アセクシュアル』の方を描くには不十分なところもたくさんあって、このドラマだけを見て『アロマンティック・アセクシュアル』ってこういう人たちなんだと安易に納得してもらいたくはないとい思っています。決して咲子や高橋のような方たちだけではないので。だからあくまで、このドラマが第一歩になればいいなって思っています」と思いを込めた。
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