ダンダダン
第12話「呪いの家へレッツゴー」
12月19日(木)放送分
人気アニメ「コードギアス」シリーズなどで知られる谷口悟朗さんが手がけるオリジナルプロジェクト「エスタブライフ」のテレビアニメ「エスタブライフ グレイトエスケープ」が、フジテレビの深夜アニメ枠「+Ultra(プラスウルトラ)」で放送されている。多様性がテーマの一つで、魔改造されたヘンテコな東京を舞台に、壁によって分断され、自由に行き来できなくなった街から逃げたい人を助ける“逃がし屋”の活躍を描く。スマートフォン用ゲーム、劇場版アニメも展開され、舞台となるのは同じ世界だが、それぞれのストーリーが異なるだけでなく、作品の“色”も違うという実験的なプロジェクトだ。架空の世界が舞台ではあるが、壁によって分断された街が現代社会のメタファーにも見えるところもある。谷口さんに、多様性をテーマとした理由、実験の裏側を聞いた。
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「エスタブライフ」の世界は、人口がピークを迎え、減少傾向に転じており、人類は種の繁栄のため生態系を管理するAIを作り、人類の多様化実験を実行。常人、獣人、魔族などの遺伝子改造による多様な人種、壁に囲まれたクラスタと呼ばれる多様な街を創造した。設定は共通しているが「ガチガチには設定していません。ゲーム、アニメなどいろいろなものが許容できる器にしようとしました」という。
「そもそもゲームとして作られた企画だったんです。いろいろなクラスタ(街)が出てくるゲームを考えていて、クラスタを分けるには、理由がないといけない。種が分かれ、倫理観が違うから一緒にいられないという理由があれば、分けることができる。人間も国、民族、歴史、文化が違うものですし、それをそのまま当てはめようとしました。架空の世界、都市ではなく、東京をベースにすれば、とっかかりとして入りやすい。海外の作品で、意図的に勘違いした日本が出てくるのが好きで、日本をカリカチュアしようとしました。真っ先に笑いものにするなら東京だろうと」
地域によって文化、生活が違うというのは、社会の縮図のように見える。現代的だが、普遍的なテーマでもある。
「昭和の頃の各集落の倫理観をイメージしていたけど、結果的に現代的になったところもあります。もしかしたら人間はそんなに変わっていないのかもしれません」
多様性もテーマになっている。近年、特に注目を集めているテーマではあるが、谷口さんは「元々、私が監督になった時から掲げていることなんです」と話す。
「中学生くらいの時に『機動戦士ガンダム』があり、『人はいつか分かり合える』というニュータイプ論が出てきた。作品でも分かり合えないから出てきた論なのですが、理想としても私は分かり合いたくなかった。分かり合うって気持ち悪いから嫌だなと。内緒にしておきたい自分もいる。人間はそういうものなんじゃないか? 分かり合えないからドラマが生まれる。分かり合えないことが、ダメなのではなくて、いいことなのかもしれない。人は自分を中心に考えてしまいます。分かり合えないという前提で、生きていた方が幸せだし、すっきりする。今回はそれを露骨に出したところもあります」
「分かり合えない」という前提で、多様性を考える中で見えてくるものもある。
「いろいろな人がいて、差別してはいけないけど、個人的には、好きじゃないと思うこともあるかもしれない。踏み込めないところもありますし、そういうものなんだ……と捉え、ある程度、距離を取った方が争いにならない。友達なんて作る必要があるの?とも思うところもあります。無理をして作ろうとしてもいいことはない」
テレビアニメは、「ご注文はうさぎですか?」などの橋本裕之さんが監督を務め、「フルメタル・パニック!」などの賀東招二さんがシリーズ構成、脚本を担当。「シドニアの騎士」などのポリゴン・ピクチュアズが制作するなど豪華スタッフが集まった。谷口さんは「原案・クリエイティブ統括」として参加している。
「テレビアニメは橋本監督にお任せしています。私からは、こういう切り口でどうでしょうか?と提案したり、方向性を話し合ったりしますが、サポートに回っています。いい意味で化学反応が起きています。やっぱり橋本さんにお願いしてよかった。私がやったら、独特の可愛さが出せなかった。『キル・ビル』みたいになっていたと思う。可愛いのは、嫌いじゃないけど、可愛い理由を考えちゃうんです。この子はもしかしたら、頭がすごくよくて、生き残るためにこういうポーズを取っているのでは……とか。そういうことを描こうとしてしまうけど、見る側からすると、そんなものは邪魔になってしまう。可愛い女の子をめでる作品で最も邪魔なのは私なので」
劇場アニメ、ゲームは、テレビアニメと同じ世界が舞台だが「各スタッフがいい意味で自由に作品を作っている」という。
「『エスタブライフ』という一つの世界自体が原作で、テレビ、ゲーム、映画で捉え方が違う。どう捉えるかで、世界が違って見える。テレビは明るく楽しい。ゲームはゲームとして楽しめるし、ゲーム的な快感がある。映画はどちらかというと、ハードです。映画とテレビでは、映像のルック、音楽も違います。でも、世界観は同じ、見えてくるテーマは同じ。そこを含めて実験しています」
「若手スタッフに対して誰かが道を残していかないといけない」という思いもある。
「アニメ界にはもっと若手も出てきてほしい。まぁ、我々の世代が邪魔をしているようにも見えるけど、引く気はさらさらない。でも、若手が出てくる場所は残してあげたい。こういうやり方だってできるんだよ……と少しでも伝えていきたい。それは業界に対する恩返しとして考えていることです。また、それとは別に個人の目標もあります。今、50代なんですけど、意図的に50代のうちに仕事をできるだけやろうとしているんですね。それが60代になっても仕事ができる方法論なんです。私は絵を描かないタイプの監督です。一気に仕事がなくなることもある。同じようにアニメーター出身ではない監督さんたちで60代になってもやっている人は、50代の時にできるだけ仕事をしている。50代をいかに踏ん張れるかが、60代以降の作品作りに関わってくる」
挑戦を続ける谷口さんの“実験”が何を生み出すのか? テレビアニメ、ゲーム、劇場アニメ……とさまざまな展開が注目される。
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